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転校生の女の子にぐちゃぐちゃに抱かれた挙句、体を買われるハメになったけど!心だけは絶対に屈しない!!  作者: 中毒のRemi


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第28話 脱走者は久しぶりの再会をする

 痛みは、まだ引かない。

 少しでも体を動かせば、内臓がきしむような激痛が腹の奥から這い上がってくる。

 だけど――それでも、じっとしていたくなかった。


 ベッドの脇に立てかけられた点滴スタンドを、ゆっくりと掴む。

 金属の軋む音が微かに響いた。


「……少しだけ、本当にちょっとだけなので」


 誰に言うでもなく呟いて、私は身を起こした。

 その瞬間、鈍い痛みが腹を貫いて、思わず歯を食いしばる。


 立ち上がるだけで、視界が霞む。

 けれど、戻るつもりはない。

 ベッドの上で腐るには、今の私はあまりにも病室の外に出るという欲求が強かった。


「別に……脱走するわけじゃないし」


 そう言い訳して、点滴スタンドを引きずるようにして病室を出る。

 廊下には人の気配はない。

 それに看護師がすれ違っても、私が許可されて外出している患者かどうかなんて、たぶん見分けがつかない。


 ひとつ角を曲がるたびに、腹が軋む。

 そのたびに、呼吸を抑え、足を止める。だが、歩みは止めなかった。


 掲示されたフロアマップを頼りにエレベーターを見つけ、一階へ。

 自動ドアの音が、やけに大きく感じられる。


 薄明かりの中、コンビニの白い蛍光灯がまぶしく光っていた。

 中では、店員が床を拭いている。

 背を向けたままで、こちらには気づいていない。

 私はそっと中へ入り、棚の影を縫うようにして適当にゼリーや水、スポーツドリンクを手に取った。


「……食べられるか分かんないけど」


 それでもいい。

 何を食べるかじゃない、自分で選んで、決めて、動いたという事実が今は欲しかった。

 それだけで、ほんの少しでも、何かを取り戻せる気がした。


 カゴを手にレジへ向かおうとした、そのとき――

 

「あれ〜? 一花ちゃん?」

「はいっ!!」


 反射的に背筋が跳ねる。

 看護師に見つかったかと思って、心臓が喉まで飛び出しかけた。


 けれど、振り向いた先にいたのは……


「って、貴女は……えっと……」


 どこかで見た顔。

 この特徴的な目元。間違いない、あの子だ。


「九条、琴音……さん?」

「“さん”はいらないよ。こっちの方が年下なんだし。ていうか、プールのときは呼び捨てだったよね〜?」

「い、いや、あれは……その……兄さんにムカついてて、つい……」

「そっか。ま、いいけど。とりあえずさ、買い物済ませたら、近くのベンチで話そうよ」

「あ、はい。……そうですね」


 そうして会計を終え、私たちは病院のロビー脇のベンチに並んで座った。

 思いがけない再会に、痛みも少しだけ、遠のいた気がした。




 ---




「琴音さんはどうして病院なんかにいるんですか?何か病気に?」

「ううん。別に病気ってわけじゃないけど……ほら、お姉ちゃんが()()じゃん。私もいつかああならないとは限らないから、定期的に検診に来てるの」

「…………なるほど、大変なんですね」


 つまり、自分も“人間でいられなくなる”可能性を考えている――ということだろう。

 ……それにしても、そんな検診あるんだ。

 そもそも、九条さんみたいな存在をちゃんと診てくれる医者が存在するということになるけど。

 

 ……まぁ、私をこの病院へ入院するよう手配したのは兄さんって聞いてるし、

 百合園さんなんて面会管理に口出し出来るっぽいし、ここはそういう裏の人達も当たり前に使える病院という事なのだろう。


 ……よし、深く考えるのをやめた。


「そういえば一花ちゃんって、お姉ちゃんを助ける時に大怪我をしてここに入院してるんでしょ〜?」

「まぁ、そうなんですけど……琴音さんも事情は知ってるんですね」

「紀玲ちゃんが言ってからね」

「…………紀玲ちゃん、ですか……」

「まだ入院して2日しか経ってないけど、もうこんな場所を歩いて良いって許可が出たの?」


 何気ないようで、妙に圧のある口調だった。

 だけど私は、真実を答える気はない。


「ええ……どうやら私、治りが早い体質みたいで、すぐにお医者さんから許可をもらう事ができました」

「ふーん? 本当に?」


 琴音さんが小首をかしげながら、じっとこちらを見つめる。

 その目は笑っているようで、冗談か本気か判断がつかない。


「嘘は吐いてませんよ」

「そっかぁ……。じゃあ、ちょっと確かめてみようかな〜」


 その瞬間、彼女の手がふわりと動いた。

 脇腹へと伸びてきた指先が、戯けたようなくすぐる仕草で布地の上を這う。


 けれど、それはただの冗談では済まなかった。

 指は徐々に下へ、確実に――あの傷の場所へと近づいていく。


 ――まずい。これは、本当にまずい。


 あそこを触られたら、間違いなく声が出る。痛みに堪え切れる自信なんてない。

 笑って誤魔化す余裕も、強がる気力も、今は残っていなかった。


「す、すみませんっ! 嘘です! 本当は、病室にいたくなくて……勝手に抜け出してきました!」


 慌てて白状すると、琴音さんの指はピタリと止まった。

 傷口の、ほんの少し手前。

 彼女はそのまま手を引き、にこりと笑う。


「やっぱりね〜」


 声は明るいのに、目が笑っていない。

 その瞳の奥にあるものが読めなくて、私は思わず視線を逸らした。


「……そういう勝手なことするの、よくないと思うな〜」

「……はい。……すみませんでした」


 年下の子に叱られて、素直に謝る年上って何だろう。

 情けなさと、妙な敗北感が胸に残った。


「でもさ、一花ちゃんもちょっとは気晴らしになったでしょ? コンビニまで行けて」

「そうですね……ほんの少しですけど」

「じゃあ、もう大人しく病室に戻ろっか」


 柔らかく微笑んだまま、圧をかけてくる。

 その言葉には選択肢も逃げ場もなかった。


「…………ハイ……」


 まるで逆らう余地もなかった。

 歳下のはずなのに、気づけば完全に主導権を握られている。

 こういうところは妙な圧を掛けてくる所とか、九条さんそっくりだと思うので、やっぱり姉妹なのだろう。

 ……髪色が違うけど。


 やっぱり姉妹で髪色が違うのは、人外化した影響だったりするのだろうか。

 今度、機会があって忘れてなければ聞いてみよう。

 

 


 ロビーからエレベーターに乗り、病室のある階へ戻る。


 途中、琴音さんは何も言わず、ただ私の隣を歩いていた。

 強く引かれることも、責めるように睨まれることもない。


 私はというと、どこかで看護師に見つかるのではとビクビクしていたが――

 実際に待ち構えていたのは、もっと厄介な人達だった。


 病室の扉の前に、その人たちが立っている。


「…………」


 まず、看護師がいた。

 腕を組み、苛立ちを隠せない様子で私が戻るのを待っていたようだ。


 そして、その横に――九条さんまでいた。

 こちらに背を向けて窓の外を見ていたが、私の気配に気づくとゆっくりと振り返る。


「……おかえり」


 声は静かだった。

 けれど、その目に宿る冷たい光に、全身がこわばる。


「っ……あの、ちょっとだけ、気晴らしをしに……」


 言い訳めいた声は、誰にも届かなかった。


 しどろもどろに弁解しかけるも、遮るように看護師が口を開く。


「私から少し目を離した隙に、勝手に病室を出て行ったと報告を受けましたが、本当ですか?」


 看護師が、感情のこもっていない口調で確認してくる。


「……はい、すみません……」


 小さな声で答えると、看護師は鼻を鳴らして、カルテを見返した。


「ベッド上安静のはずですよね? “歩行可”とは一言も書いてませんけど」

「……はい、でも、ほんの20分くらいだったので……」

「ダメなものはダメです。何かあってからでは遅いんです」


 ぴしゃりと断言され、返す言葉もなくなった。


 すると、その場に立っていた琴音さんが、申し訳なさそうに肩をすくめながら言う。


「ごめんなさーい、私が見つけた時にはもうコンビニにいて。私が連れ戻さなかったら、もう少し外まで出ちゃってたかも」


 無邪気に言いながらも、こちらには軽くウインクをしてくる。


 ……あぁ、なるほど。

 琴音だけではなく九条さんまでいたのは驚きだったけど、部屋の前でこの二人が待っているのは、琴音が九条さんと連絡を取っていたからなのか。

 

 とりあえず、最悪なタイミングで琴音と出会ってしまったというのは理解した。


「ふう……」


 看護師が、呆れたように大きく息を吐き、メモを走らせたあと言う。


「こんな事をしていたら、入院期間を更に伸ばされますよ?」

「本当に二度としないので、それだけは許してほしいです……」

「では、今すぐベッドに戻ってください」

「はい……」



 ---

 

 

 私は素直に従い、扉を開けてベッドへ戻って横になる。

 点滴のポールが軽く揺れ、鈍い痛みが腹の奥をつついた。


 すると、今まで黙っていた九条さんが、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。


「……どうして脱走なんかしたの?」


 その声は怒っているわけでも、責めているわけでもなく。

 ただ、真っ直ぐで――どこか心配を滲ませた音だった。

 

「暇すぎて……ちょっと気分転換したかっただけです。別に深い意味はなくて……」


 軽く言ったつもりだったが、九条さんはむしろ真剣な顔で、私の傍までにじり寄ってくる。


「だったら……私を頼ってよ。一花のためなら、なんでもする。勉強でもいいし、ただ話すだけでもいい。ずっといてあげられるから」


 その声音に、かすかに熱が混じっていた。

 昨日、生命力を与えたあと――彼女の様子がどこか変わった気がする。

 気のせいだろうか?


 ……まともに彼女と会話するのが久しぶりなせいで、いつもも九条さんを忘れている可能性もあるかもしれない。

 

「いや、そんな大げさにすることじゃないですし。脱走なんてもうしません。心配しないでください」


 私が慌てて言葉を重ねると、彼女はにっこりと笑って、しかし一歩も退かずに言った。

 

「ううん、一花なら全然やりかねないないし、毎日様子を見に来るね」

「え、いや、それは……さすがに迷惑というか……私は一人でも大丈夫なので……」


 昨日でさえ、何故か病室から出ていくのを渋っていた彼女を、あれこれ理由をつけて帰ってもらったというのに……毎日来る?

 冗談じゃないが……

 

「見にくるね?」


 言い切る口調には、有無を言わせない圧があった。


 あれ……?

 私、昨日この人を、結構きつく叱り飛ばした記憶があるんだけど。

 どうして今、立場が逆転してるんだろう……?


 断ろうとしていたはずなのに、なぜかそのまま口をつぐんでしまう。


「お姉ちゃん、私たちももう帰ろ? あんなことがあったばかりだから、遅くなるとお父さんたちも心配するよ」


 琴音が柔らかく促すと、九条さんは未練たっぷりに私の顔を見つめ、それでもすぐに頷いた。


「……分かってる。じゃあ、一花。また明日ね」


 軽く手を振って、九条姉妹は病室を後にする。

 残された静けさの中で、私は布団をかぶって天井を仰いだ。


 ――ああ。これは、たぶん明日も静かな時間なんて期待できない。

 ただ、九条さんを帰らせるのに良いアプローチ方法が分かった。

 ありがとう、琴音。


 明日から九条さんに帰ってほしい時、その『お父さんが心配しますよ』でいこうと思う。

 ちょっと、人として屑な気もするけど、一番の被害者は私なので有効活用させてもらう。

 ◇

 あとがきです。


 ちなみに九条さんが見舞いにきたタイミングと、看護師が一花が抜け出したことに気づいたのがほぼ同じタイミングで、いないことを知った九条さんが琴音に『一花を見てない?』とL◯NEを送り、丁度一花が運悪く琴音とコンビニで出会ってしまったわけですね。

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