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転校生の女の子にぐちゃぐちゃに抱かれた挙句、体を買われるハメになったけど!心だけは絶対に屈しない!!  作者: 中毒のRemi


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第23話 人間は社会的動物である

 イライラする。

 なんで家にいてこんな気分にならなければならないのか。

 

 ……現時点で実際は、私が九条さんの世話なんかする必要なんてないし、ボイコットしたって良い立場なはずだ。

 ……憶測でしかないが。


 一回、百合園さんに頼んでやめさせてしまおうか――という思考にまで至ってしまいそうだ。

 いや、まだそんな事をするつもりはないけど。

 こっちだけ不快になって、九条さんは私を置いて友達と遊びに行く?

 舐めすぎでしょ。


「あぁ、本当にっ!!」


 堪え切れず、テーブルの上にあったコップを手に取り、壁へと放った。

 

 ガラスが砕ける音が、部屋に響く。

 冷えた液体が床に散り、黙っていた空気が動き出した。


 その直後、階段からドスドスと足音が降りてきた。

 何も考えず、何も感じていないような、軽々しい足取り。


「おいおい、痴話喧嘩もほどほどにしてくれよ〜……って、俺のコップ割れてんじゃん!」


 リビングに顔を出したのは、案の定、兄だった。

 お気楽で無責任。いつもの調子。

 こっちの不機嫌なんてお構いなし。


「…………」


 今の私には、この男の声すらノイズにしか思えない。

 だけど怒りを向けたところで、無駄に消耗するだけなのは分かっている。

 こいつを相手にすると、後で面倒なことにしかならない。だから、黙ってやり過ごす。

 

「えぐいって。喧嘩で物を投げるの。もう少し仲良くしよ〜」


 的外れな冗談が、逆撫でするように響く。


「あれ、化物ちゃん(九条桃音)いないじゃん」

「……私の生命力を吸うだけ吸って帰りましたよ」

「へ〜。んで、なんで喧嘩してんの?」


 今さら理由を聞かれても、話す気にもならなかった……けれど、下手に黙ると逆にしつこく絡まれるのは目に見えていた。

 前にも同じようなパターンで面倒になったのを思い出し、ため息をつきながら口を開く。


 私は、今日あったことを――隠し立てなく、すべて話した。

 

 九条さんとのここ最近のやりとり、以前との違い。

 おそらくこの変化は、村上さんが原因だということ。

 彼女は相談する気などなく、現状を変えるつもりが無いように見えると言うことも。


 こんな小さな事、兄に伝えるだけ無駄な気がして、自己嫌悪に陥りそうだった。

 



 

 ---



 


「ま〜だ同じ相手とちちくりあってんのかよ。いい加減ボコして終わりにしろよ。そいつの家、中学校のほぼ隣だったろ? ほら、今すぐ行ってこいって」

「そんなことしませんよ……野蛮な」

「割とマジでお前1人でそこら辺の話を片付けてくれないと、後から仕事が増えそうなんだよなぁ」

「なんですか、仕事って」

「いやぁ、あんま詳しく言えないけど……ちょっとした事後処理的なやつ?あの桃音ちゃんが化物になった直後の、目撃者を消す作業的なやつね」


 なんかそんなことも聞いた気がする。

 あの勉強会の日に。


「俺さ、上からの依頼でお前んとこの学校、身辺調査してたんだよ。でさ……村上って女、昔よりさらに性格が歪んでて、ヤバいんだわ」


 そういえば、百合園さんが九条さんにクラスメイトの“写真集”を送ったって話、あったっけ。

 それを作ったのも、こいつか……いや、こいつしかいないか。


 そして、妹を勝手に売り飛ばした男が、今さら人間性を語るのかと思うと、笑いすら出なかった。

 

「……兄さんが人間性を語るとか、ギャグに聞こえてきますね」

「あっ、イライラしてるからって、俺に言葉で当たるのやめてねー」

「…………」

「それで、どんだけ酷いかって言うと――例えば親に構ってほしい時に『お兄ちゃんがぶったあああ!!』って突然泣きわめいて、その兄が親父にボコられてんのを、にやにや見てるような感じだな」

「あの……具体的すぎて怖いんですけど、各家庭の家に監視カメラでも付けてるんですか」

「だから仕事だ、つっただろ」

「まぁでも、それについては少し心当たりがあります。私があの人にちょっかいかけられ始めたのも、中学生のときに、あっちから『大空さんが悪口言ってきたの!』って言われたのが最初でしたから……」


 私の声は自然と低くなった。

 記憶の底から引きずり上げられたのは、ずっと忘れていたような、あるいは忘れたかったような過去だ。

 

 当時から友人が少なかった私が、自然と悪者扱いされ、先生からも謝罪するよう強要されたのを今でも覚えている。

 そういえば先生の裁縫セットをボロボロになっていた件も誤った気がするけど、それをやったのもきっと彼女なのだろう。

 

 中々に気持ちの悪いスケープゴート(罪のなすりつけ)だった。

 思い出すだけで吐き気がする。


「やっぱり村上さんも、周りの人を味方につけたかったっていう、動物的な本能から動いてたんでしょうか……」


 口にするだけ虚しくなってくる。

 そうでも思わなければ、あの歪んだ行動に意味を見出せなかった。

 

 ……はぁ。

 少し人と会話して、イライラが解消されてきた気がする。


「で、この情報を一花に出して何を言いたいかと言うと、桃音ちゃんが何かのきっかけで亜人化するようなことがあった場合、目撃者か桃音ちゃん、どっちかを消すことになるって話なわけ」

「…………」


 兄は私の様子など気にせず、話を続けた。

 

「どっちを消すかはうちのご当主様の気分次第だな。何を消すかってのもそうだけど」

「私に人間関係の配慮をしろって、言われても無理な話です。1人であることに慣れてる人間がわざわざ他人の事情に首を突っ込んだりしませんよ」

「はぇ〜。そんなこと言ってるけど、桃音ちゃんに最初に事情を問いただそうとしたの、お前じゃん」


 兄の言葉に、思わず息を飲んだ。


 ――たしかに、そうだった。

 自分でも理由が分からなかったけど、あのとき、確かに私は、彼女の隠し事に触れようとしていた。


 ……いや、でもアレは言い訳ができる。

 ただ自分のリラックス出来る環境に、あんな顔をされた状態でいられたくなかっただけだ。

 それ以上の他意はない。

 絶対に……


「もう話は充分です。ストレスの発散にもなりました。私は部屋に戻ります」

「あ〜い」


 兄の軽い返事を背に、私は部屋に戻った。

 

 静かな部屋。冷めきった空気。

 

 でも今は、誰もいないだけで、少し気が楽だった。






 ---





 翌朝。

 昨夜の出来事が頭の奥にこびりついたまま、私は学校へ向かう。

 顔はいつも通りのつもりだったが、足取りは少しだけ重かったかもしれない。


 昇降口を抜け、廊下を歩く。

 教室の前まで来て、ふと足が止まった。


 そこに――村上がいた。


 教室の扉の脇、壁に背を預けるようにして立っている。

 誰かを待っている、というより、あからさまに「私」を待っていた。


「おはよう、大空さん」


 村上は、口元だけで笑う。

 けれどその目は、笑っていない。

 いつものように、何かを計っている。


 昨日の今日でこれか。

 タイミングが良すぎてとても気分が悪い。


 ……挨拶を無視して通り過ぎようかと一瞬思ったけど、それをしたらしたで、この人の機嫌を損ねて後々面倒ごとが悪化しそうだ。

 考えるのも怠くて、私はおとなしく小さく頭を下げた。


「……おはようございます」

「ねぇ、ちょっとだけ話しようよ」


 声は柔らかい。けれど、その言い方には拒否の余地がなかった。

 断れば面倒になる、と本能が告げている。


「……はい」


 短く返事をして、私は彼女の後ろをついていく。


 向かったのは、教室のすぐ隣の廊下――校舎の構造上、日が当たらず、朝のうちはほとんど誰も通らない場所だった。

 窓は小さく、空気がこもっていて、どこか湿ったにおいがする。

 人の気配のないその空間に、二人分の足音だけが響く。


 村上が立ち止まり、こちらを振り返る。


「ここなら誰にも邪魔されないよね」


 その言葉が、妙に重く感じられた。

 教室前ではまだ辛うじて“学校の空気”が保たれていたが、ここではそれすら剥がれ落ちる。


 正直、こんな人の皮を被った化物に、ついて行く必要性もないと思うけど、昨日の不快すぎる九条さんの行動について確証が欲しかった。

 原因はこの人だという確証が。


「……何の用ですか?」


 なるべく平坦に、感情を抑えて問いかける。


「最近、ちょっと機嫌悪そうだね。大空さん」

「私はいつもと変わりませんよ」

「ううん、変わってる。もしかして――桃音と出会える時間が減ったから?」

「何のことですか?」

「私は知ってるよ、大空さんが桃音と友達なの」


 あぁ、なるほど……

 やっぱりほぼ100で彼女が黒だ。


 …………はぁ。

 おあつらえ向きにこんな場所に呼び出して、話す内容がこれか。


 一応、誤解だけ訂正しておこう。


「村上さんは何か勘違いしてるようですね。私は九条さんに弱味を握られてるだけですよ」

「そうなんだ。それにしては随分と楽しそうに一緒に帰るんだね。桃音と」

「ふふ。……遠目に見てるからそう見えただけですよ」


 まったく。

 こんな人気のない場所に二人きりだと、兄の忠告どおり、暴力に訴えたくなる。

 何も言えないくらいボコボコにして、二度と学校に来られないようにしてやりたい。……けど。


 だけどそれはダメだ。

 そんなことしたら、私が兄と同じになってしまう。


 それでも、そう考えた瞬間に少しだけ笑みがこぼれてしまったのは――

 私の中にも、確実に兄の毒が染み込んでいる証拠なのだろう。


「なに笑ってるの……気持ち悪いんだけど」

「すみません、ただの思い出し笑いです」

「へぇ。もしかしてここ最近、まともに桃音と会話できなくて、今までの桃音との楽しい日々でも振り返ってたの?」

「それで納得したいなら、そういう事で構いません」


 私がそう言うと、村上はあからさまに楽しそうに笑った。

 

「やっぱり図星なんだぁ!他に友達のいない大空さんならありえそうだよね。ごめん、気が回らなくて」

「…………」

「じゃあさ、私ばっかりが桃音を独占するのもアレだし、寂しがりのあんたも――私の家で開くクリスマスパーティーに招待してあげる」


 はは……

 言うに事欠いて出るのがそれか。

 笑えない冗談だ。


「ありがたい申し出ですが……私は明日、予定があるので」

「嘘だ〜。大空さんの性格で彼氏なんか出来るはずも無いのに、予定? 変な言い訳なんていいからさ……中学同じだったんだし、私と家は近いでしょ?来なよ」

「すみません、何を言われてもその日は忙しいので、パーティーは貴女達だけでどうぞ」


 強くは言っていない……けれど、明確な拒絶だったはずだ。

 言い終えると同時に背を向け、私は足早に教室へと戻る。


 馬鹿らしい。

 この人が主催のパーティー、それも私を誘うなんて。

 きっと、どこかから毒物でも持ち出して、料理に混ぜてあるか――

 あるいは、家に入った瞬間、屈強な男たちに囲まれて何かされるのが関の山だろう。


 彼女は人間性が腐ってても、なぜか人望だけはあるのだから。


「桃音との時間が減ってもいいの〜?」


 背後から、わざとらしく大きな声が追いかけてくる。

 

 ……勘違いもここまでくると、本当にきっっ持ち悪い。


 九条さんがどうしたというのか。

 最近関わりがちょっと深かった程度の相手と、パタリと交流が途切れたところで、何の問題があるのか?

 友人の1人、もしくは全員を失ったところで、普段の生活に何の支障があるのか?


 自分が絶対に正しいと勘違いし「一人は寂しいに違いない」と決めつけ勝手に同情して、聞いていもいない1人の辛さを演説してくる、相手のなんと多いことか。

 まぁ、人は社会で生きる動物なんだから、間違ってるのは私なんだろうけど。


「あ〜あ、めんどくさい……早く冬休みに入ってほしいところです」


 ぶつぶつと呟きながら、無人の教室へ戻る。

 机の並んだ静かな空間に身を置くと、ほんの少しだけ気持ちが落ち着いた。


 ――大学に進学したら、絶対に地元を離れよう。

 もう二度と、こんな人間関係を繰り返したくない。


 ふと、さっきの会話を思い出す。

 クリスマスパーティーとやらに、九条さんも参加するという話だったか。


 私との関係に、何か歪んだ想像を膨らませている村上がいて。

 そして――兄の言っていた、妙に引っかかる最近の話。

 その全てを脳内でつなぎ合わせると、どう考えても、ろくなことにならない可能性が極めて高い。


 ……けれど、私には関係ない。


 九条さんがどうなろうが、それは――


 私には、一切関係ないことだ。

あとがきです。


ちなみに村上のキャラクター元は、私の大嫌いな人間を詰め込んだキメラです。


*次の話から4話くらい連続で、九条視点と一花視点を行ったり来たりします*


次の回は九条視点で喧嘩した後、村上から呼び出しがあって、大空宅を飛び出した直後です。

暴力的描写注意です。

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