最終話 きらりといつまでも。
あれから3ヶ月が経った。
きらりは、まだ入院している。
櫻子の母親は逮捕された。これから裁判を受けることになるんだと思う。櫻子の父親も、株主から不信をかい経営からは身を引くことになった。
櫻子は……。
告白された訳じゃないが、俺から付き合えないと断った。
願掛け成就のために……と、言うわけではないが、きちんとするべきだと思ったからだ。
「きらりが回復してから、改めて考えて欲しい」と言われた。だけれど、それでも断った。きらりの意識が戻っても戻らなくても、他の人と付き合うなんて考えられない。
気持ちをそのまま伝えたら、ビンタされた。
去り際に見えた櫻子の横顔は、泣いていた。
この頬のヒリヒリくらいじゃ、釣り合いがとれないだろうな、と思った。
きらりの病状についてだが、脳挫傷による脳機能の損傷はなく、きらりは助かった。だが、意識が戻らなかった。
医師の話では、意識が戻るか戻らないかは分からないとのことだった。
俺は学校の後に、毎日、お見舞いした。
目を閉じたままのきらりに、一緒に過ごした思い出を語り、毎日「大好きだよ」と伝えた。
しばらくは意識が戻らなくて口に物々しいホースをつけていたが、1ヶ月ほどすると、きらりの意識が戻った。
その一報を自宅で受けた時、俺は泣いてしまった。夜も遅かったが、すぐに病院に駆け付けた。
きらりの意識が戻ったら、話したいことが沢山あった。
だけれど、きらりの口からでた言葉は、俺が思いもよらないものだった。
きらりは俺を見ると、首を傾げていった。
「……どなたですか?」
きらりは記憶を失ってしまった。
俺が間違えて告白した思い出も、一緒に映画をみた思い出も、初めてエッチした思い出も、全部忘れてしまった。
記憶の欠落は、お母さんが亡くなったあたり以降で起きていて、他方、勉強のような単純な知識や、クラスの友人のことは覚えているようだった。
紫音のことは覚えていた。
でも、俺や櫻子のことは忘れてしまった。
医師には、知能等の障害はなく、記憶の欠落は、脳の損傷によるものではない、と言われた。受け止め切れなかったエピソードごとの記憶喪失……、過度のストレスによる心因性のものではないか、ということだった。
つまり、俺のことは……。
きらりにたくさん辛い思いをさせたから、忘れてしまったのだと思った。
……自業自得だ。
医師によれば、記憶が戻るか戻らないかは、分からないということだった。
それを知った時、俺はすごく悲しかったけれど、しばらくすると、それはそれで良いのではないかと考えるようになった。
きらりは、辛い記憶の棘から解放されたのだ。
お母さんやお父さんが亡くなった経緯。
きらりは頑張って乗り越えた。
それは尊いことだ。
でも……。
今のきらりの笑顔を見ていると、無理して思い出す必要はないのではないか、と思ってしまう。
それにね、毎日、病室に通って口説いた甲斐があって、段々と話してくれるようになってきたんだ。
「きらり。あのな、俺ときらりはラブラブだったんだよ?」
きらりはニコニコしながら返事をしてくれる。
「またまたぁ。山西さん、どうも嘘っぽいんだよなぁ。もしかして、山西さんは、ナンパな人ですか? わたしを騙してエッチなことしようとしてませんか?」
「いや、俺って真面目の代名詞だし!!」
「ほんとうかなぁ〜?」
ニコニコして答えてくれる、きらり。
普通、こんなこと言われたらドン引きだと思うのに、普通に返してくれる。
だから、きっと。
きらりは記憶を失っても、俺への気持ちのエッセンスを、感情の奥底に残してくれたのではないかと思う。
きらりは、言葉を続けた。
「……でも、颯太さんの顔をみてると、ぽかぽかして懐かしい気持ちになるんですよ。不思議かも」
まぁ、でも。
きらりが生きていてくれて、そして、身体も前のように元気に動かせて、バスケも続けられる。
なによりも、そういうのが嬉しい。
きらりと俺のことは。
何年掛かっても、また俺を好きにさせるし。
……うん。
俺のことを忘れてしまったのは悲しいけれど、仕方がない。
お見舞いに行って、楽しくおしゃべりする。
そんな日々がしばらく続いた。
ある日、病室できらりと話していたら、夢中になってしまって、外が暗くなっていた。
……もうこんな時間だ。
「じゃあ、今日はそろそろ帰るわ。また明日な」
すると、きらりは少し寂しい顔をした。
「あのね。昨日、変な夢をみたよ。わたしが痴漢されて、そうくんに助けてもらう夢。えへへ。なんだか幸せな夢だった」
「痴漢されて幸せな夢って、やばくない?(笑)」
「違うし。助けてもらった幸せな夢だもん!!」
「なぁ、きらり。俺と付き合わない?」
「んーっ。夢みたいに幸せな気持ちにさせてくれる?」
「絶対にするっ!!」
「どうも軽いんだよなぁ。でも、考えておいてあげます♡」
俺は心の中でガッツポーズをした。
2度目の告白も期待できそうな気が……する。
そんなきらりの顔を見ていると、俺も幸せな気持ちになる。たとえ俺のことを思い出せなくても、絶対に幸せにするから。
きらり。
大好きだよ。愛してる。
(おわり)
ご愛読いただきまして、ありがとうございました。本作の結末については、かなり迷いましたが、このような展開にしてみました。
さてさて、本編はこれにて完結ですが、後日、あと1話だけ追加する予定です。
即席一週間カップルの紫音をメインにしたIFルートです。オマケみたいものですが、よければ、そちらもどうぞ。
では。また!!
別の作品でお会いしましょう。




