第79話 おばさん。
え。叔母さん?
「櫻子のお母さん?」
そう聞くと、きらりは頷いた。
俺は改めて女性を見た。
たしかに、櫻子に似ていて美人だ。
でも、目つきや表情から、プライドの高さや性格のキツさが滲み出ているようだった。
櫻子の母親は、こっちに一直線で来ると、きらりの肩をつかんで揺すった。
怒鳴るような口調だった。
「きらり。アンタなんなのよ!! 櫻子に入れ知恵したのあんたでしょ? ほんと親子揃って、わたくしの邪魔ばかり」
きらりは目を逸らした。
身体がこわばって萎縮しているのが伝わってくる。
「そ、そんなことないです……」
つか、こいつ。
キレたいのは、きらりの方だって言うの。
俺はすごくムカついた。
だから、きらりから櫻子の母親を引き剥がして言った。
「ちょっと、アンタ。なんなんだよ、いきなり。きらりから離れろよ!!」
すると、次の瞬間、視界に火花が散った。
どうやら俺はビンタされたらしい。
「部外者は引っ込んでて」
女はそう言うと、再び、きらりに掴み掛かった。
「そんなに神楽坂の財産が欲しいの? そもそも、あんたの母親が、妹のくせにしゃしゃり出て、神楽坂の財産をかっさらったのがいけないんじゃない。ほんとなんなのよ!!」
きらりは身を守るように腕をあげた。
「ひっ……。叔母さん。やめてください」
女はそんなことはお構いなしに大声をあげた。
「うちの旦那より年下のくせに!! 女のくせに!! ジジイに取り入って。この泥棒」
何かを憎むようなその視線は、まるで今は亡き、きらりの母親に向けられたもののように感じた。
俺はその様子をみて、とても醜いと思った。人とは増長すると、こんなにもなってしまうものなのか。
俺が割って入ろうとすると、女はより強くきらりを揺さぶった。きらりの身体は糸が切れた操り人形のようにグラグラしている。
そして、仕舞いには、きらりを突き飛ばした。突き飛ばされたきらりは、よろめいて倒れた。そして、階段から落ちた。
(バタンバタン。……ゴキッ)
鈍い音が響いた。
それは、きらりの命を奪う大鎌の斬首音のようだった。
本当に一瞬の出来事で、俺は何もできなかった。
きらりは、頭を向こうにして階段の踊り場に倒れている。
俺は、すぐに階段を降りて、きらりに駆け寄った。すると、つーっと床に血が広がっていくのが見えた。
櫻子の母親はその様子を見ると、何事も起きていないかのように、その場を立ち去った。
「自業自得よ」
去り際にそう言った女の口元は、微かに笑っているように見えた。
「きらり!! きらり!!」
俺は声をかけたが、きらりは目を閉じたままでピクリともしなかった。




