第77話 バイバイ。
俺もしたいよ。
でも。
紫音は上半身を屈めて、キスをしようとした。
だけれど、俺は紫音の両肩を持って、遠ざけた。
「紫音。ごめん。俺は紫音の本当の彼氏にはなれない」
俺だって好きだよ。愛してる。
でも、その本心は、伝えられない。
紫音は身体を起こすと、毛布で胸を隠して言った。
「……そうか。分かった……」
紫音はベッドから這うように出ると、フラフラとしながら、部屋から出ていった。
あーあ。
終わっちゃったな。
理屈じゃないもんな。
割り切れないよな。
俺はなんだか気疲れしてしまって、そのまま寝てしまった。
ピピピピ……。
アラームで目覚めた。
もう紫音と話せないのかな。
目を開けると、紫音が目の前にいた。
昨日のことなど無かったかのように、ニコニコしている。
紫音は笑顔だ。
「おにーちゃん。おはよ。今日も天気のいい1日になりそうだねぇ!!」
「あぁ。そうだな。今日からまたよろしくな」
紫音はあっかんべーをした。
「家族なんだから当たり前じゃん。ばっかじゃないの」
そういう紫音は、目の下にくまをつくっていた。
紫音は部屋から出たが、また戻ってきて言った。手には一緒に買ったネックレスをもっている。
「これ。捨てられなくて。わたしの宝物だから、持っていてもいいかな……?」
俺が頷くと、紫音は再び笑顔になった。
部屋を出ると、母さんがいた。
紫音の様子に気づいたのだろう。うちらが別れたことにも気づいているようだった。
心配そうな顔をしている。
母さんはツカツカとこっちにくると、俺を睨んで右手を振り上げた。
殴られるっ。
俺は目を瞑って歯を食いしばった。
(……ぺちん)
だがそれは、子供の遊びのように手加減満載のビンタだった。
母さんは言った。
「ほんとはね。うちの娘をたぶらかした貴方を本気で殴ろうと思ったの。でも、娘のそんな顔をみたら、できないわよ」
目を開けると、いつの間にか紫音もその場にいた。紫音は泣きそうな顔で、必死に母さんの腕にしがみついていた。
母さんは、ため息まじりに言った。
「紫音ちゃんのそんな顔をみたら、叩けないわよ。わかった。もう何も言わない。颯太くん。これからも紫音と仲良くしてあげて」
俺は、普段と同じように学校に行って、いつものように友達と話して、部活に行って。
きらりに、紫音と別れたことをメッセした。
学校が終わって校門をでると、きらりが待っていた。口は笑っているようだけれど、目は悲しそうだった。目の下には、盛大にクマを作っている。
きらりは俺の目の前までくると、俺をまっすぐに見て言った。
「そうくん。おかえりなさい」




