第73話 きらりの思い。
きらりは言った。
「今日は帰って」
俺は、それからどうやって帰ったのかよく覚えていない。天国から地獄に突き落とされたようで、何も考えられなかった。
「ただいま」
家のドアを開けると、紫音が立っていた。
てっきり怒られるのかと思ったら、心配そうに俺を見ていた。
「とりあえず、寝るわ」
ベッドに横になると、いつの間にか寝ていた。
翌朝、起きると、きらりからメッセージが来ていた。
「ウチ、そうくんのこと大好き。でも、しーちゃんのことも好き。そうくん、しーちゃんに告白されたら、どうするの?」
俺は返信した。
「それは断るよ」
「しーちゃんは、小さな頃から、そうくんのこと思ってて、断られたって受け入れられる訳がない。だから、キチンとお付き合いして、お別れして、戻ってきて欲しいの。それまで、ウチとは、お別れ」
きらりは、フリで紫音を騙すのはイヤらしかった。
本当に別れる。
それは、きらりなりの誠意なのだろう。
でも、なんだか、きらりに必要とされていないようで寂しい。
「俺が本当に紫音を好きになっちゃったら、どうるんだよ」
すると、きらりは声のトーンを落として、躊躇いがちに答えた。
「……だって、元々、本当に好きだよね? そうくんにも納得してほしいの。ごめんね。自分勝手で。だから、すごく辛いけれど、そうなったら仕方ない……と思ってる」
きらりの言いたいことは分かる気がする。
きっと、もし俺が紫音の告白を普通に断ったら、俺と紫音の関係も終わってしまうかも知れない。
分かったと伝えようとしていると、もう1通きた。
「でも、でも。……エッチはしないで欲しいかも。あのね。本当はウチ、すごく不安なの。でも、昨日、そうくんが沢山優しくしてくれたから、少しだけ勇気が出たんだ」
翌日、紫音を部屋に呼んだ。
紫音に、きらりと付き合ったことを伝えた。
紫音は泣き叫び、落ち着くと言った。
「わたしだって、好きなのに。颯太。わたしとも付き合って!! 二股でもいいから」
「それはできないよ。2人とも裏切ることになる」
紫音は顔を覆って座り込んだ。
俺は、きらりとの話を伝えた。
「それでな。紫音、俺も紫音が好きだ。だから、紫音と俺の気持ちに、納得いく区切りをつけたい。だから……、期限ありで付き合わないか。俺とお前の、兄妹じゃない最初で最後の時間があってもいいかなって」
「……考えさせて」
そういうと、紫音は部屋を出て行った。
自分ながらに馬鹿げた提案だ。
紫音は、自分が軽く扱われていると感じるかも知れない。
もしかすると、この提案自体で、紫音との関係が終わってしまうかも知れない。
でも、ちゃんと付き合って、ちゃんと別れる。それが、紫音への区切りなのではないかと思えた。




