第69話 入院。
あれからレスキューの人が来てくれたのだが、かなりの大騒ぎになってしまった。
隊員がロープと金具を器用に使い、1人ずつ吊り上げてくれた。
櫻子は大怪我をしていて、素人の俺にも一目で骨折しているのが分かった。
「櫻子、大丈夫か? 俺がこんなところに誘ったばっかりに。ごめん」
すると、櫻子は「そんなことない」とでも言いたげに首を横に振った。
櫻子は、そのまま入院することになった。不幸中の幸いで、骨折時に神経や血管の損傷はなかったようだが、日常生活が送れるのに、3ヶ月はかかるということだった。
きらりと櫻子は、元通り……とまではいかないが、時々メッセージのやり取りをしているらしい。お節介をした甲斐があった。
そんな訳で、今日は櫻子のお見舞いに来ている。
病院につくと、受付で面会者名簿に記入するように言われた。名簿には部屋番号と名前を書くようになっているので、部屋ごとの来訪者名が分かる。
俺は名簿に自分の名前を書きながら言った。
「きらりの分も一緒に書くよ。櫻子の部屋は……、あれ。俺たちの少し前に来ている人いるや。名前は、神楽坂すみれ……」
きらりの顔色が変わった。
「ね。そうくん。ウチ、お見舞いの品を忘れちゃったよ。ちょっと買い物に付き合って」
そんなハズはないのだが、きらりの言う通りにした方が良さそうだった。
駅の近くのデパートに行って、お菓子を物色した。きらりは、変わったお菓子を見つけてはニコニコしている。
「きらり。さっきの名簿の人は……」
きらりは俯いて、胸に手を当てた。
「櫻子ちゃんのお母さん」
やはりそうか。
「今日のお見舞いはやめとくか?」
すると、きらりは首を横に振った。
「ううん。大丈夫。もう帰ったみたい。櫻子ちゃんがメッセージくれた」
「そうか」
俺は、きらりを抱きしめた。
背中をギュッと抱き寄せると、きらりの華奢な肩がすくむように持ち上がった。きらりは冗談っぽく言った。
「そうくん。痛いよー」
「きらりのことは、俺が守るから」
俺は、きらりが大切だ。人違いで告白してしまったこの子は、もはや、俺にとって欠かせない存在になっている。
「ありがとう。もう大丈夫」
きらりは笑った。
病院に戻り、病室につくと、すでに櫻子のお母さんは居なかった。
櫻子はこちらに向くと、申し訳なさそうな顔をした。
「2人とも。気を遣わせてしまってごめんね」
「いや、俺たちの方こそ、病人に気を遣わせてしまってごめん」
きらりの口数は少なかったが、海の時のような壁は感じなかった。
5分ほど世間話をして、帰ろうとすると櫻子が言った。
「きいちゃん。お母様のことだけど、わたし、このままじゃダメだと思ってるの。だから……」
すると、きらりが言葉を遮った。
「櫻子ちゃん。その話は怪我が治ったらしよ? まずは、早く元気になってね」
ひとまず、ヘビーな話は先送りになった。
帰り道、気になって、きらりに聞いてみた。
「きらり。櫻子の家とのこと、どうするの?」
「あーあ。ウチも分からないよ。ねっ。そうくん。どこか遊びに連れて行って」
きらりは、いつも控えめなので、こういうことを言うのは珍しかった。そんな子の我儘には、全力で付き合ってあげたい。
「ちょっと待ってて」
俺はそう言うと、バイト先に電話した。夕方からバイトの予定だったが、陽菜にヘルプをお願いして、休めることになった。
戻ると、きらりが不安そうな顔でコチラを見ていた。
俺はピースサインを作って答えた。
「もちろん。遊びにいこう!! 今日は、とことん付き合うぜっ」




