第67話 颯太のお節介。
きらりと櫻子。
2人を会わせようと思った。
この話をしたとき、紫音には猛反対された。
だから、不意打ちをした。
どちらにも、俺と2人で会うと言って、きらりと櫻子を引きあわせることにした。
櫻子は、きらりに申し訳ないと思ってる
きらりは、心の奥底では、今でも櫻子を慕っている。
俺の問題は解決しようがない。
生みの母は、すでにこの世にはいないし、この……自分の中のアンバランスな感覚は、きっと、死ぬまで消えないのだろう。
でも、きらりと櫻子は違う。
まだ2人とも元気なのだ。仲直りできる可能性はある。
自然に任せていたら、永遠に2人が会うことはないだろう。そして、いつか会わなかったことを後悔するのだ。それがもどかしくて仕方ない。
2人とも話してくれるかな。
俺は2人に嫌われちゃうのかな……。
正直、これがどう転ぶのか、気が気ではない。
とはいえ、俺にできることがあるかも知れないのに、見過ごすことはできないと思った。
俺は元来、こういう時に自然に身体が動くタイプではない。誰かが困っていても「余計なことかな?」なんてためらっているうちに、他の人に先を越されてしまうことが、良くある。
今回は、代わりに問題を解決してくれる人はいない。
……うん。
俺が嫌われるくらいで済むのなら、対価としては安いものだ。
これでいい。
まず、きらりと待ち合わせした。
ドライブの約束をして、車で迎えに行く。
「そうくん。会いたかったよ」
窓を開けると、きらりはニコニコして走ってきた。今日のキラリはワンピースで、少し大人っぽい服装だった。
コツンコツンと足音がする。
ヒールなんて珍しい。
「ヒールなんて珍しいな」
「えへへ。服に合う靴がなくて。お母さんの靴を借りちゃった」
きらりは助手席に座ると、ペロッと舌を出した。
「へぇ。さすが、きらりのお母さんの靴だ。センスいいね。……あのな、今日は会ってほしい人がいるんだ。だから、ちょっとだけ、寄り道していいか?」
きらりは、頷くとそのまま黙ってしまった。
この前、櫻子との話を聞いたばかりだし、きっと、これから会うのが櫻子だと察したのだろう。
繋いだ手の温度が、下がっていくのが分かった。
10分ほど車を走らせると、次の目的地についた。櫻子は、車に気づくと手を振ってくれたが、助手席に、きらりが乗っていることに気づくと、表情を曇らせた。
櫻子は後部座席に乗った。
それから目的地に着くまで、2人は一言も話さなかった。この展開は予想していたが、やはり気まずい。
俺は車を海岸沿いに停めた。
2人とも何も話さない。
静寂すぎる空間に居た堪れなくなって、俺が先陣を切った。
「……櫻子、なんか話すことあるんじゃないの?」
ごめん、櫻子。
いま、すごく追い詰めているよな。
櫻子はの謝罪は、2人の母親の話とは切り離せない。でも、櫻子は年上だし、少なくとも、今回のことで、きらりには何の落ち度もない。
しばらく待ったが、櫻子は無言だった。
「……詳しい事情はともかく、櫻子の気持ちだけでも伝えた方がいいんじゃないか?」
すると、櫻子は語り出した。
言葉を選んでいるというより、言葉を絞り出しているようだった。
「きらりちゃん。……ごめん。許されるとは思ってないけど、ごめん」
きらりは、後ろを振り返らずに答えた。
「……今更、謝られたって遅い。それでお父さんが生き返る訳じゃない!!!!」
櫻子は俯いていて、ルームミラーからは顔が全く見えない。
「……うん。それもごめん」
「それ……、わたしのお父さんが死んでるのにソレってなんなのよ!!」
「ご、ごめん……」
櫻子の目からは、涙がボロボロと出ている。
俺は、この場を用意したくせに、俺も心が抉られる。
また沈黙が訪れた。
「せっかくだし、外に出ようか」
俺はそう言った。
ここ城ヶ島は、公園になっていて遊歩道があり、20分程歩くと海岸に降りることができる。
海岸までは切り立った崖沿いの階段を降りるのだが、所々、砂利になっていて、足場が悪い。
崖のずっと下には白い波が見えて、一定のリズムでザザーンと音がしている。
きらりはヒールだ。
慣れない靴で歩きづらそうにしている。
「大丈夫?」
「う、うん……」
階段を降り切って。
海と同じ高さに屈んで、水平線を見渡す。
凪の合間を縫って、無数のうみねこが飛んでいる。
場の最悪な雰囲気とは対照的に、空には雲ひとつなかった。
2人とも話さない。
あーあ。
おれ、やらかしたかな。
神様。
もしいるなら、時間を戻して……。
おれは、2人に振り返って言った。
「も、もどろうか……」
集団行動なのに、独り言。
急な階段を上がる。
俺が先頭で、2番目が櫻子、3番はきらりだ。
すると、パラパラと小石が落ちる音がした。
「キャッ!!」
きらりが、段を踏み外した。
階段には手摺がなく、階段の下は崖だ。
俺は手を伸ばすが、届かなかった。
「きいちゃん!!」
櫻子が手を伸ばした。
ザザザッと音がして、2人の姿が消えて、崖の中腹が揺れた。
2人とも階段から落ちてしまった。
その場には、俺1人が取り残された。




