第62話 相部屋。
部屋に戻ると、布団が敷いてあった。
布団が3組並んでいる。
布団同士に隙間はなく、一体化していた。
これって、仲居さんに3人で楽しむとでも思われたのだろうか。
まぁ、寝る位置で揉めることがなくていいのかも知れないが、おれは部屋の端っこの壁際が好きなのだ。
陽菜は飲んでいないハズなのに、足元がフラついていた。
「陽菜。おまえ、酒飲んでないよな? なんでフラフラしてるの?」
「わからないぃ〜。でも、フワフワするぅ」
陽菜が端の布団にダイビングした。
こちらを向くと、布団をポンポンとしてアニメ声で囁いた。
「ねぇ。お姉さんが教えてあげようか?」
「いいから、はよ寝ろ」
すると、陽菜は手足をバタバタした。
「いやだー。ポンポンして?」
「……はいはい」
添い寝して肩のあたりをポンポンとしてあげると、陽菜は、すぐにすぅすぅと寝息をたてはじめた。
寝顔は可愛いんだけどなぁ。
俺が布団から起き出すと、退屈そうな櫻子と目があった。
「陽菜、なんか酒臭かったんだけど、いつのまにか飲んじゃったのかな?」
櫻子は首を傾げた。
「もしかしたら、食前酒じゃない?」
食前酒って……、そんなことあるのかな。
でも、食前酒も立派なお酒だし、弱ければあの量で酔ってしまうこともあるのかも知れない。
櫻子の顔を見る。
……こっちの人は、まだ酒に飲まれていないようで良かった。
とりあえず、窓際の広縁で一息つくことにした。
さっき買って来た日本酒を出して、部屋にあった、どこにでもあるようなグラスに注いだ。
そこそこ高級な日本酒なのに、このグラスじゃあ、ただの水みたいだな。
でも、目の前の美人は普通じゃないから、逆にちょうど良いのかも知れない。
櫻子は、俺の隣に座り、ニコニコしながらお酒を飲んでいる。
今日の櫻子は饒舌で、子供の頃に飼っていた犬の話や、小さな頃の思い出を色々と教えてくれた。その話は小さな頃のものばかりで、中学以降の話は殆どなかった。
少しの沈黙が訪れ、櫻子が俺の肩に頭を預けてきた。すると、櫻子の黒髪から、フワッと良い匂いがした。
櫻子が顎をあげて、唇を近づけてくる。
リップグロスを塗っているのか、唇はツヤツヤしていた。
櫻子は、俺の唇を素通りして耳元囁いた。
「さっきの話の続き聞きたい?」
「……うん」
今は部屋に2人だ。このタイミングを逃したら、聞けないままになってしまうかも知れない。
櫻子はトロンとした視線を俺に向け、甘えた声を出した。
「……エッチしてくれたら、お話してもいいよ」
それを聞いて、自分の酔いが、一気に醒めるのを感じた。……正直、興醒めだ。
真面目な話なのに、エッチと絡めるのも意味が分からないし、こっちは2人のために動いているのに、言外の『話してあげる』というニュアンスに腹が立った。
酒のせいか、つい本音が口調に出てしまった。
「……そんな言い方されるのは、不愉快なんだけど」




