第61話 山おろし。
肩を震わせてまで、話しをさせることなのだろうか。大きな括りでは、俺の自己満足で、ただのお節介なのだ。
「いや……そんなこ……は」
俺が続きを言う前に、山から冷たい風が吹いてきた。
「くちゅん」
櫻子はくしゃみをした。
さっきから寒かったもんな。仕方ない。
もう夕方近い。
いくら初夏といっても、標高の高い場所は冷えるらしい。
櫻子は浴衣だ。
陣羽織も着ていない。
きっと、すごく寒かったのだと思う。
「寒かったよな。ごめん。気づかなくて……」
俺は、羽織ってたシャツを櫻子に掛けて、とりあえず部屋に戻ることにした。
俺に手を引かれながら、櫻子は呟いた。
「やっぱ、優しい。やっぱ、颯太くんいいな……」
ふぅ。
まだ夜がある。
話のつづきをする時間はまだまだあるさ。
部屋に戻ると、夕食の時間になっていた。
俺も浴衣に着替えて、櫻子と遅れて食事会場にいく。
「山西先輩、こっちこっち」
陽菜に手招きされて席についた。
会場は大広間なのだが、部屋ごとに膳が並べられている。
俺は陽菜の正面に座った。横には櫻子がいる。
料理は、懐石料理を創作風にアレンジしたものだった。
陽菜は俺と櫻子を見比べると、口に指を添えて言った。
「先輩。2人でどこいってたんですかぁ?」
「湯畑だよ」
「ほんとーかなぁ? 実は部屋に残ってエッチなことしてたとか?」
「そんなことないし」
櫻子を見ると、なぜか耳まで赤くなっていた。
陽菜は俺を見つめると、浴衣の太もものあたりを、はだけさせてみせた。陽菜は小声になった。
「先輩、また見せてあげようか?」
「汚いもん見せんなよ」
「ひどい。ピンクで綺麗って言ってくれたでしょ……?」
「って、話を盛るなよ。ピンクとは言ってない……って、ん?」
浴衣の袖が引っ張られた。
櫻子だ。口を尖らせている。
「……颯太くんの遊び人」
ほらほら。
勘違いされちゃったじゃないか。
陽菜を睨むと、笑顔で返された。
それからは、店長の腹芸を披露されたり、バイト仲間の恋愛話を聞いたり。意外な人が付き合っていたりしてビックリした。
酒も料理も美味しくて、楽しく過ごせた。
最後に一本締めをして、懇親会は終わった。
すると、どこからともなく拍手が起きた。
きっと、旅館を手配してくれた櫻子に対する拍手なのかな、と思ったが、誰も宛先を口にしなかったし、櫻子も気に留める様子はなく、一緒に拍手をしていた。
ただただ、皆がここにいる空間。
ちょっと憂き世ばなれしていて、縁日の後みたいだ。
……こういう空気感はいいなぁと思う。




