第59話 プレゼントが被った場合はどうすれば?
おれはワイシャツを太陽にかざした。
どこからどう見ても、陽菜にもらったのと同じに見える。
ど、どうしたら。
ちょっとでも違うデザインならば、言いようはあったのだが。全く同じだ。何て感想を言えばいいのか、さっぱり分からない。
櫻子はじーっとこちらを見ている。
少し目が潤んでいるような気がする。
さっき、同じワンボックスの中で、陽菜にプレゼントをもらったのだ。櫻子は、そのことを知っているかも知れない。
本当は、初めてもらったように狂喜乱舞すべきなのだろうが、やぶへびになるかも知れない。
かと言って感想を言わないわけにもいかない。
ええい。ままよ。
「櫻子。ありがとう!! 黒いシャツだぁ。この襟とシルエット。おれこう言うの大好き。おれのこと考えて選んでくれたんだろ? 自分でもこんな良いの選べないよ。その気持ちがほんと嬉しいよ」
櫻子は、何回か瞬きしてニコッとした。
おれ、この返答でよかったのかな。
何か反応してくれ。
櫻子は、右手で左の膝を抱き寄せると、少し恥ずかしそうに言った。
「……やっぱ優しい人。……うん。わたしも嬉しい。そう言ってくれて、ありがとう」
「優しくなんてないよ」
俺は心の中で、安堵のため息をついた。
なんとか及第点は取れたみたいだ。
初めてもらった系の返答をしなくてよかった。
櫻子はポツリポツリと話し出した。
「ねぇ、この前の話。やっぱ、好きでもない人と結婚したくない。わたし颯太くんの赤ちゃん欲しいな……」
俺はポンポンと櫻子の肩を叩いた。
「観光いこうぜ。浴衣の櫻子とでかけたい」
「……。そうだね。わたしをエスコートして欲しいです」
俺が右手を逆手で差し出すと、櫻子もそっと手を添えた。
ここは温泉地で、真ん中には湯畑ある。
エメラルド色の温泉が湖のようになっていて美しい。
柵に手をかけて、櫻子は向こう側を指差した。
「颯太くん!! あの板なんだろう」
「あれは、樋だよ。あれで源泉の温度を調整するんだ」
櫻子は少女のようにはしゃいだ。
「ね。あれは? あの白いの」
「あれは、湯の花だよ。温泉の成分だね」
「すっごーい!! 颯太くん物知りっ」
ふっ。
キザ男演出用に予習しておいて良かったぜ。
それにしても、あの旅館は神楽坂グループのものだ。櫻子が湯畑を知らない訳がない。
だから、あのはしゃいでいる櫻子は優しさなのだ。それは同情ではなくて……。
櫻子と何かを食べると、すごく喜んでくれる。でも、櫻子は普段、それよりもずっと良い物を食べているのだ。
でも、喜んでくれる。
それは、櫻子の魅力だろうと思う。
俺は、この子を喜ばせることができるのだろうか、と思って一歩を踏み出せないでいた。でも、それは、きっと俺側の問題で。……おれの卑屈なコンプレックスなのだろう。
きっと、この子は。
安物のアクセサリーでも、心から喜んでくれる。
だから。でも。
そんな素敵なこの子に、相応しい男になりたい。
櫻子は、またこちらを振り返った。
幸せそうに笑いかけてくれる。
俺は……。
気づけば、口から言葉が出ていた。
「櫻子。君のそう言うところ、すごく好きだよ。おれ、君に相応しい男になれるかな」
あの電車の中で。
この子への告白から、全ては始まった。
あの時は、ただ美人なこの子に憧れて追いかけていただけだった。
でも、そんな飾り付けを全部取っ払った彼女の笑顔は。憧れていた理想の櫻子よりも、何百倍も魅力的なのだ。




