第56話 3人で会うのも悪くない。
朝起きると、紫音がキスをしてきた。
そして、俺の耳元で囁いた。
「赤ちゃんできちゃうかも……」
えっ。なんで?
心当たりが全くないんだが……。
紫音はいたずらっ子のような表情になって、指先をペロっと舐めた。
「颯太くんの美味しかったよ。今度は直接お口にいっぱい欲しいな……」
直接?
間接なら既にクリアみたいな言い方やめて。
「え? おまえ、なんかしたの?」
「なんだろーね? なーいしょ!!」
想像すると怖くて、知りたいけれど知りたくない。
あれから紫音はべったりだ。
しかも、優しい。
朝食の時も取り分けてくれるし、たまに「あーんっ」と食べさせてくれる。
そして、呼び方が「颯太くん」に変わった。
呼び捨てだった人が『君』付になるって、はたして、これは昇格なのだろうか。
それを見て母さんは頷いている。
この前、2人で泊まったし、大いなる勘違いをされているようだ。
そんな紫音だが、今日は、きらりと3人で会いたいと言い出した。俺としては、3人で会うことに不安しか感じないんだが。
きらりが家に来た。
俺と目が合うとニコッとした。
きらりは右腕、紫音は左腕に抱きついている。
両者とも口を尖らせているぞ。
紫音がいった。
「颯太くん。昨日は気持ち良かったね」
おいおい。
盛らんでくれ。
気持ち良かったのは、お前1人だろう。
きらりは眉間に皺を寄せた。
「……颯太くん? 呼び方変わったんだ……ウチだって、そうくんの舐めちゃったもん。そうくん、気持ちいいってすぐにイッちゃったし」
紫音も負けていない。
「颯太くんなんて、昨日、愛してるよって。そして、寝てる間に少し触ってたら、いっぱい出したんだよ?」
「ウチにだって、いっぱい出してくれたもん」
「そのあとはどうしたの? わたしは全部、舐めちゃった」
え?
そうだったの?
まじか。すげー愛だ。
俺、逆の立場なら多分できないわ。
全然覚えてないのが残念すぎる。
って、そんなこ言ったら、きらりが……。
ほらぁ。やっぱり、涙を浮かべて膨れてるじゃん。
「ウチだってウチだって……」
これはキリがないな。
俺は柏手を打った。
「はい。やめっ。紫音も、喧嘩するために、きらりを呼んだんじゃないだろ?」
俺は続けた。
「それで、紫音。今日は何かあったんじゃないの?」
紫音はきらりに、何かを耳打ちした。
きらりは話し始めた。
「そうだね。……そうくんにも、知っておいてもらわないとね」
きらりは真面目な顔になった。
何か大切な話らしい。
この前、紫音が櫻子と会っていたことと関係あるんだろうか。きらりが話を続ける。
「あのね。そうくん。ウチね。実はね。従姉妹がいるんだ。ウチと4つ違いの人。そうくんと同じ歳の人」
俺と同い年で、どことなく、きらりに似ている女性。俺の知り合いには、1人しか該当者がいない。
「神楽坂のことか?」
きらりと紫音は頷いた。
「ずっと黙っててごめんね」
きらりと櫻子が親族ってことは……。
俺が何年か前にみた新聞記事。
あれも、きらりに関係あるんだろうか。
おれが聞こうとすると、きらりは膝を掴んで震えていた。紫音は、きらりとアイコンタクトをすると、代わりに話し始めた。
きらりのお母さんがなくなったこと。
お父さんの自殺は自分に起因していること。
周りからの迫害。
それらは、小さい頃のきらりが経験した、信じられないほど過酷な話だった。
きらりは話を聞いているだけでも、過呼吸気味になった。俺はきらりを抱きしめた。
子供の頃、きらりにとって、櫻子は大好きなお姉さんだったらしい。しかし、ある日、櫻子に言われたのだ。
「あなたの顔なんて見たくない。どこかに行って」




