第54話 きらりと紫音はもつれ状態らしい。
ホテルを出た後は、夕食をとって帰った。
きらりは終始上機嫌で、ずっと俺にべったりだった。
最後までできなかったのは少し残念だったが、お互いの気持ちの確認もできたし、楽しみを先に残したと考えれば、むしろ、最後までしなくて良かったとも思える。
きらりを送って家に帰ると、紫音が仁王立ちで待っていた。
「どうした?」
紫音は不機嫌そうだ。
「今日は水族館行かなかったの?」
「ま、まぁ」
「その時間、何してたの?」
「……ホテル」
紫音は風船のように膨れた?
「は? わたしのラブホデートの日は削除したくせに、きらりとは行ったの?」
「いや、まぁ、流れで」
「水族館からラブホに進路変更って、どんな流れだよ。わたしも連れて行け」
「今度な」
紫音は俺の袖を引っ張る。
「いやだー。いま、つれてけ」
結局、紫音に押し切られて、これから行くことになってしまった。
家の車を借りて、郊外まで足を伸ばす。
母さんには、紫音と食事に行くと言ったので、心配されることはなさそうだ。
紫音は、何やらスマホでホテルを探しているようだ。
俺は何をしてるんだろう。
一日に2回もホテルに行くことになってしまった。しかも、いまは煩悩が全くない。
今月のバイト代、今日一日で無くなりそうだよ。
性欲ゼロで妹といくラブホって……。
それなら、食べ放題とか日帰り温泉でも行った方が、幾分も良い気がする。
紫音に釘をさしておくか。
「約束だからラブホは行くけど、何もしないからな」
紫音はうんうんと頷いている。
突然、紫音が口を尖らせた。
「……空いてるところない」
俺は無意識に笑ってしまったらしい。
それに気づいた紫音は、眉を吊り上げている。
「あ、そなの? んじゃあ、帰ろうか」
紫音は「いやぁぁぁ」と手足をバタバタした。
「だって、空いてないんだから仕方ないじゃん」
「あ、ビジネスホテルなら空いてるよ!!」
ビジネスホテルなんて行ったら、泊まりしかないじゃん。おれ、明日、バイトなんだけど。
「泊まりはきつくない?」
すると、紫音は俺の質問に答えることなく、母さんにメッセージを送った。
「ママには、颯太がお酒飲んじゃって運転できないから、酔いを醒まして帰るって言ったから大丈夫!!」
「でも、ホテルはまずくない?」
「ママに、そのへんで朝まで時間潰すって言ったら、危ないからきちんとホテルに泊まりなさいだって。お部屋が決まったら連絡しなさいって言われた」
しまった。
先回りされた。
めでたく親公認。
これは、紫音が言ったと通りにホテルに泊まるしかなそそうだ。
仕方なく、紫音が見つけてくれたホテルにチェックインした。
手続きしながら、家族(兄妹)って、逢引きの最強の隠れ蓑だと気づいてしまった。たとえば、いま一緒にいるのが、きらりだったとしたら、相手が未成年なので、恋人でも、たぶん、宿泊はできないだろう。
しかし、兄妹なら、堂々とそれができてしまう。たとえば、兄(大学生)と弟(高2)でライブの追いかけで地方のホテルに泊まるとか、普通にあることであろう。
弟が妹になったからといって、面と向かって反対される理由はない。仮に怪しいと思ったしても、兄妹の関係を疑うことの方が、世間では、変態の烙印を押されかねないのである。
しかも、親に連絡されても問題ないし。
ということで、今日は紫音とお泊まりだ。
はぁ。
せっかくだ。
旅行気分を満喫することにしよう。
部屋で荷物をおいて、近所のスーパーに買い出しにいく。サワー数本と、惣菜。あと、お菓子とソフトドリンクを買った。
カートと押していると、知らない夫婦が俺たちのことを話していた。
「カップルかな? 初々しくていいねぇ。あの子、やけに可愛くない?」
どうやら紫音が美人なことにより、兄妹には見えないらしい。まぁ、実際に似てないし。
紫音、よくナンパされてるもんなぁ。
紫音なら、相手はよりどりみどりだと思うのに、俺でいいのかな?
「紫音、お前さ。かなりモテるじゃん? ほんと、俺でいいの?」
紫音は笑顔になった。
「颯太以外は考えられないよ。颯太にフラれたら、わたし一生独身かも」
おいおい。
怖いこと言わないでくれよ。
紫音はモジモジしている。
こいつ、たまに女子になるんだよな。
俺に何か質問があるらしい。
「あのね……、颯太は。もしわたしが奥さんでも満足できる……?」




