第52話 たまには、きらりと過ごしたい。
バイト先の慰安旅行の件が紫音にバレた。
すると、紫音は大騒ぎして、自分も旅行に連れて行けと言った。
だから、別の機会に、紫音と家族旅行に行こうと思う。ふっ。家族旅行だし、もちろん、父さん母さんも一緒だ。
今日は、きらりと約束している。
この前はあんな感じになっちゃったし、久しぶりのデートらしく、それっぽく行きたい。
ところで、きらりは、あまり会いたいとは言ってこない。控えめなだけかもしれないが、もしかすると、会いたいと思ってくれていないのかな、と心配になってしまう。
5分ほど待つと、きらりが来た。
黒いパーカーに黒のキャップをかぶっている。
デニムのパンツはダメージが入っていて、これで小さな犬でも連れていたら、お忍びのタレントと間違われそうだ。
きらりは、駆け寄ってくると言った。
「待たせたにゃん」
にゃん語は、最近のきらりのマイブームらしい。俺の歳でやったらかなり痛いが、女子高生なら、ぜんぜんアリだと思う。
『可愛いは正義』
俺が哲学者だったら、是非、後世に遺したい言葉だ。
しまった。妄想の世界に没入してた。
おれは、さらりと答えた。
「いや、俺も来たばっかり。じゃあ、行こうか」
今日は水族館に行く予定だ。
レンタカーを借りているので、今日のデートは、いつもと少し違う。
レンタカー屋でカップル限定のフェアをしていて、格安で借りる事ができた。家の車を借りようとも思ったが、子猫は体調が不安定なので、家の車を占有するのは控えた方がいいと思った。
レンタカー屋は、駅から歩いて5分ほどだ。きらりと一緒に短い散策を楽しむ。
普段、見慣れている風景だが、2人で歩くと新鮮に感じた。
きらりがソッと手を握ってきた。
「今日はすっごく楽しみ。昨日は楽しみすぎて、寝られなかったニャン」
こんなに楽しみにしてもらえて光栄だ。
レンタカー屋で手続きをする。
小さな車だったが、2人なら十分な広さだ。
手続きをしていると、スタッフのオジサンは、きらりが気になるらしかった。
「あの子、アンタの彼女? 可愛い子だねぇ。アンタにもったいないよ」
なんだこのオッサン。失礼なやっちゃな。
でも、外からみると、それだけ不釣り合いに見えるってことか?
水族館までは1時間程だ。
高速の出口を出て、少しいくと海が見えてきた。視界いっぱいに海が広がると、きらりは、また手を握ってきた。
信号待ちになると、きらりは潤んだ目で俺の顔を覗き込んだ。
「ウチのこと……好き?」
こんな質問が来るということは、不安に思わせているのだろうか。
「ああ。……好きだよ」
分かりやすく、大好きとか愛してるって言った方が女の子は喜ぶのかも知れない。でも、等身大の気持ちは、こんな感じだ。
すると、きらりがキスをしてきた。
いつもは、チュッとするだけなのだが、躊躇いがちに舌を入れてきた。柔らかい唇をもっと堪能したいところだが、いいところで信号が青に変わった。
「ちょっ、きらり。信号が……」
俺がそういうと、きらりは唇を離した。
「そっか……。ウチも。すき」
きらりは、そのまま俺の耳元に口を近づけ、囁いた。
「ね、そうくん。寄り道していかない?」
きらりはホテルの方を見ている。
これって誘われている?
今回は、きらりの体調も悪くない。
さらば俺の童貞くん。
きみとは、今日でサヨナラすることになりそうだ。




