第51話 とある翌日のデート。
結局、おれは、きらりと会うことにした。
めぐると葉月には、申し訳ないが、別日にお願いしようと思う。
駅前で待ち合わせしていると、タタッときらりが駆けてきた。おれはすぐに気づいたが、気づいていないフリをした。
「そうくーん!!」
満面の笑みで声をかけてくれる。
思えば、きらりと出会ってから色々と変わった。
でも、まだ数ヶ月なんだよなぁ、と思う。
頻繁にやり取りしているが、きらりには、負の感情が見えない。それは、とことん良い子ということなのだろうが、少し違和感がある。
俺も笑顔を返した。
まずは、カフェでお茶をする。
すると、きらりが紙袋を渡してくれた。
「これ……、お誕生日おめでとうございます」
あぁ。誕生日か。
19から20歳はそれなりに区切り感があったが、20から21歳は、俺自身無関心だった。
それで、みんな誘ってくれたのね。
紫音のことで気を揉んでいて、ぜんぜん意識してなかった。
「ありがとう」
袋の中にはラッピング袋が入っていた。
ラッピングを解くと、ベルトが入っていた。
茶色の皮のベルトで、バックルは真鍮のような色をしている。まさに俺の好みだ。
実は、先月、お気に入りのベルトが切れてしまったのだ。きらりには、「ベルト切れちゃって、太ったのかな?」と話した事があったが、他愛もない話だった。よく覚えていてくれたなぁ。
それだけ、いつも俺のことを見ていてくれるということだろう。
おれは、きらりのことをちゃんと、見れているのだろうか。きらりは負の感情がないのではなくて、俺が気づけていないだけなのではないか。
もっと、きらりのことを知りたい。
まぁ、俺はきらりの誕生日をしらない。
さしあたりは、そこへんの解決からかな。
普通に聞けばいいって?
たぶん、俺が忘れているだけなのだ。
今更、聞けないって……。
カフェでは、きらりは学校であったことを色々と話してくれた。最近は、紫音ともよく遊んでいるらしく、紫音の名前が何度も出てきた。
まぁ、恋愛模様を考えると悩ましくもあるが、2人とも良い子だし、仲良くなる事は、基本的には好ましいと思っている。
俺はきらりに言った。
「この後、行きたいとことかある?」
「そうくんの行きたいところがいい」
正直、きらりを丸裸にしたい。
心も身体も通じ合えば、今までと違う面……本心を見せてくれるかも知れない。
俺は矛盾している。
きらりのピュアなところが好きなのに、同時に、毒のある生々しい面も見てみたいのだ。
エッチしたいと言ってみるか。
誕生日効果でOKでそうだし、ダンディに「ここを出たらラブホを予約してあるんだ」とか言いたいところだが、あいにく、今日はそんな気分ではなかった。
「うちに子猫きてさ。よければ、うちに遊びにこない?」
きらりは頷いた。
「うん、ウチもしーちゃんのこと気になってて、行きたいです」
「なんか、デートっぽくなくて悪いな」
「そんなことない。ネコちゃん好きニャン」
自分の彼女ながらに可愛すぎるっ。
裏とか表とかどうでもいい。
ショートカットだから、猫耳似合いそう。
コスにはボリュームが足りないが、それはそれで、小慣れていなくて、案外、新鮮かも知れない。
家に着くと、「みぃー、みぃー」と猫の鳴き声がした。
紫音が子猫と格闘しているようだ。
シャンプーを嫌がって、なかなか洗えない様子だった。
「颯太、きらり。いいところにきた。ちょっと手伝って……」
結局、俺がシャワー、きらりは胴体、紫音はシャンプーをコショコショと、役割分担してなんとか洗い終わった。
子猫は「殺される」とでも思っているのだろう。小さな体だが、必死に抵抗されると、シャワーさえままなない。
紫音は、文字通り、汗を拭いながら言った。
「無理に洗うの可哀想なんだけど、さすがにノミいる子を家に上げられないし」
でも、この子猫、ぱっと見綺麗だし。
「そんなのいないでしょ?」
紫音は、汚れを落とした水を指差す。
すると、なにか虫のような小さなものが蠢いていた。
……ひぃ。
これは念入りに洗わないとダメそうだ。
紫音は、俺らの顔を交互にみて、ため息をついた。
「きらり、……誕生日なのに、ごめんね」
「いや、大丈夫」
紫音は目を丸くして、ポンと手のひらを叩いた。
「あ、じゃあ、颯太、この子の名前決めて良いよ」
「まじで俺でいいの?」
紫音ときらりは頷いた。
俺は、子供の時にハムスターがどうしても欲しくて、妄想の中で飼っていた。当然、名前もある。それを、こんなところで披露することになるとは。
俺は自信をもって答えた。
「ちょちょ助」
「この子、女の子……」
「じゃあ、ちょちょ美」
紫音は頬をぷくーっと膨らませた。
キレているご様子だ。
誕生日早々にキレられるとは。
今年一年が、思いやられる。
紫音は言った。
「……、本気でやってる?」
「やってるけど」
「なっ……。まじか、おまえ。颯太は、クビ。きらり、かわりにつけて!!」
ふ、紫音よ。
お前は知らないだろうが、きらりのネーミングセンスも相当なもんだぞ?
きらりは腕組みをして必死に考えている。
「に、にゃーちゃん」
「……」
毒にも薬にもならない感じの名前だな。
きらりの顔をみる。
キラキラした目で俺たちを見ているぞ。
採用される気マンマンらしい。
門前払いしたら、本気で泣かれそうだ。
ボツにできん。
一番困るヤツだ。
紫音は、俺と目を合わせると、困り顔で頷いた。
そうか。そうだよな。
聞いた俺らが悪いよな。
おれはつとめて明るい声を出した。
「い、いい名前だねっ」
我が家の愛猫は、にゃーちゃんになった。




