第48話 神楽坂のプレゼント。
レジに並び、ラッピングしてもらう。
リボンのついた白い袋に入れてもらった。
わたしはバッグを抱きしめた。
……颯太、よろこんでくれるかな。
そしてわたしは、神楽坂の邪魔をしようとした自分を小さく感じた。
せめて、アドバイスくらいはちゃんとしよう。
それくらいはいいよね? きらり。
「ありがとうございます。次、神楽坂さんのプレゼントを選びませんか?」
神楽坂は意外に優柔不断で、なかなか決まらなかった。
しばらくまわると、神楽坂がシャツを手に取った。
あ、あれ颯太好きそうだな。
教えてあげるか。
「あ、あいつ。黒いワイシャツ欲しいって言ってましたよ。それ、きっと喜びますよ」
神楽坂は値札をみて、俯いた。
わたしが覗き込むと、税込10,000円だった。
この店にしては随分と高いが、生地にイタリア産の細い番手のコットンをふんだんに用いているとのことだった。たしかに、手触りがいい。
神楽坂の予算は10,000円だが、さっき私に1,000円貸してくれた。
だから、お金が足りない。
「はぁ」
神楽坂はシャツを棚に戻そうとした。
わたしのせいだ。
さすがにこれは申し訳なさすぎる。
「あの、わたしこのバッグ返品しますので……」
「いえ、それは、既に貴女のものです」
その様子を見ていた創業者さんが言った。
「あの、1,000円値引きしますね」
神楽坂は、張り紙を指さした。
そこにはこう書いてある。
「当店はギリギリのコストで低価格の商品を提供しているため、一切の値引きはできません。悪しからずご了承ください」
神楽坂は言った。
「ここ、値引きできないお店ですよ。わたしだけ安く買うのは、フェアじゃないです。それにプレゼントを値引きで買うのは、イヤです」
その気持ちはわからないでも無い。
でも、どうするんだろう。
すると、神楽坂がどこかに電話した。
「芹沢。いま、◯◯にいるのですが。そう、神楽坂グループ、傘下の……。ここの黒シャツ、商品番号xxxxxxの定価を一律で一千円下げさせなさい」
すると、5分ほどで、創業者さんに電話があった。彼の顔は引きつっている。
「え? いくらなんでも、今すぐには無理です。原価計算もし直しませんと……、いやっ。資金を引き上げられたら、当社は不渡りを出してしまいます。はい。はい。……分かりました」
彼はいった。
「ただいま、その商品の定価を変更しました。どうぞご購入ください」
彼は半べそだった。
在庫もすべて価格変更。
どれほどの損出なのだろうか。
それにしても、神楽坂 櫻子。
値引きがいやだからって、定価の方を変更させやがった。恐ろしい。
究極のワガママ女だ。
買い物が終わり、店を出た。
当初の目的である、神楽坂に身を引かせるという目標を達成できていない。わたしは、まだ帰る訳にはいかない。
すると、神楽坂は言った。
「わたし、お腹が空きました。よければ、夕食にお付き合い頂けませんか?」
いや、いくらなんでも。
敵と食卓を囲む気にはなれない。




