第42話 バイトの後輩。
バイトに行くと、後輩の葉月がご機嫌だった。
「どうした?」
「山西さん。なんかね。バイトに新人の子が入るみたいですよ。しかも、かなり可愛いらしく、先輩たちが大騒ぎでした」
「へぇ」
俺はチケットをもぎりながら答えた。
ウチは仕事内容の割には時給が高く、人気がある。そのため、人員は常に余り気味なのだ。先日も店長は、人件費削減のため、しばらく新人は募集しないと言っていたんだがな……。
葉月は俺を覗き込んだ。
「あれれー。山西さんは、わたし以外の女の子に興味あるんですか? とんだ浮気者ですね」
「は? それ以前に、葉月に全く興味がないんだけど……」
葉月は大袈裟に口を開けた。
「え。だって、山西さん、前に付き合ってくれるって言ったじゃないですか」
「言ってねーし」
こいつ、異星人に誘拐でもされたんじゃねーか?
「ひどい。半年前に、バイト仲間で旅行に行った時に、わたしが体育座りしたら、浴衣の隙間からアソコ見られちゃって……」
思い出した。
思いっきり心当たりがある。
葉月が目の前で体育座りした時に、見てはいけないものを見てしまったのだ。
葉月は、やや演技がかって目を擦りながら続ける。
「わたし、男の子に見られるのは初めてだったんですよ?」
それで、本気で泣かれて責任とれって言われて、その場しのぎで、半年バイト辞めなかったら付き合ってもいい、って言ったような。
「あれは、酒の席だったし。お前があんまり泣くから……」
あの時は、きらりにまだ出会ってなかったし、女っ気もなかったから、(見た目だけは)可愛い彼女ができたらラッキー、くらいの軽い気持ちで答えてしまった。
俺は抗議した。
自分に落ち度があるっぽくても、とりあえず文句は言ってみる。
「それに、あんなんで見えるとは普通は思わないだろ」
葉月は片目でチラ見しながら言った。
「それで、感想は?……汚かったとか言ったら本気で泣きます」
エピソードは忘れていたが、そこだけは鮮明に覚えたので、自信を持って答えた。
「いや、つるんとして、きれいだった」
葉月は舌を出した。
「はい! 有罪!!」
「マジでごめん。いまは付き合ったりとかは……」
「ふぅーん。じゃあ、わたしのお願いを一つ聞いてください」
「……内容にもよる」
葉月は、目を少しだけ釣り上げ、いたずらっ子のような顔をして笑った。
「買い物につきあってください」
「そんなん女友達か取り巻きに頼めよ」
「いやです♡ 気になってる男の子がいて、山西さんに雰囲気が似てるから、アドバイス欲しいんです」
その人とうまくいけば、俺は開放されるだろうし。それくらいならいいか。
「……、もとはと言えば見ちゃった俺が原因だしな。わかった。いいよ」
「先輩♡ ありがとう♡」
そういって笑う彼女の名前は 葉月 陽菜。バイトの後輩だ。
身長は156の普通体型。年は俺より2つ下の専門学校生。彼女は声優になりたいらしく、その系のコースに通っている。目がパッチリしていて、顔も可愛いが、とにかく声が可愛い。
甘えてるような誘っているような声。
それでいて、ハスキーなのに粒が揃ってる。
耳元でずっと聞いていたくなる声だ。
ここのバイトには、3つのタブーがある。
その中の一つが、葉月 陽菜と電話で話すべからず、なのだ。
実際、バイトの中には、彼女の声で落ちた男が多数存在する。ある意味、魅了魔法に近いと思う。
ちなみに、俺は葉月の教育係で本性を知っていることにより、難を逃れている。
その本性は……。
男を落とすことで承認欲求を満たす魔性の女(自称処女)なのだ。あと女の子も好きらしい。この好きは、性の対象としてだ。
コイツに落とされるくらいなら、俺は一生、童貞をを選ぶ。
そんなコイツに俺と出かけたいと言われても、恐怖しか感じないのだが。
おれは、ふとあることに気づいた。
「おまえさ……」
「なんです? だーりん?」
「処女だって話、盛られてるのかと思ったんだけど、つるんとしてたし、閉じてたし、本当なのかもな。……信じなくてゴメンっ!!」
葉月は赤くなった。
だが、怒りのオーラを感じる。
恥じらい怒り?
新ジャンル開拓だ。
「せ•ん•ぱ•いっ。そんなこと言ってると、お願いごと2つに増やし……」
俺は時計を見た。
やばい。上映が終わる。
「葉月、そろそろ清掃はいるぞ」
「はい。先輩っ」
……。
午前の回の上映がひと段落した頃、店長がバイトを集めた。
「あー、すまんな。みんな。すぐ済むから、ちょっと聞いてくれ。新人の紹介だ」
すると、店長の陰から、女の子がピョコッと顔を出した。
バイトの男共がザワつく。
「あの子、ヤバくない? めっちゃ可愛い」などと言う声が、そこかしこから聞こえる。
その子はお辞儀をした。
「わ、わたし。今日から皆様と働くことになった、神楽坂 櫻子と申します……」
その時、俺は見てしまった。
葉月が櫻子をみて、舌なめずりしたのだ。
……、俺は決心した。
櫻子の貞操は俺がまもるっ!




