第38話 バイトはシアターで。
おれは映画館でバイトしている。週に2回だが、大学に入ってから続けているので、大体の仕事は覚えている。
好きな映画にも関われるし、上映前の新作をテスト鑑賞できたりもする。バイト仲間も良い人達が多いし、このバイトが好きだ。
映画館の仕事は多岐に渡る。
フロント、売店、フロア。
どれも立ちっぱなしで、実は体力勝負なのだ。
とくにフロアは、インターバルの短い時間に清掃をこなさなければならず、シアター内を走り回ることになる。
今日のフロア担当は、俺と後輩の葉月だ。
次の清掃はシアター3だ。
上映が終わる少し前に入り口でスタンバイし、タイミングを待つ。
シアター3の次の上映は、話題のアニメの劇場版だ。観客には子供も多いので、やたら汚れている。
ポップコーンの散乱は日常茶飯事だし、前には、シートにソフトクリームが塗りたくられていることもあった。
中に入ると案の定、大荒れだった。
床にはドリンクが飛び散り、シートにはポップコーンが散乱している。
葉月と手分けして一気に清掃する。
ホウキを持って、シートからゴミを一気に掻き出す。俺は時計を見た。
やばい。
終わらない。
葉月の方をみると、彼女もまだ終わっていなかった。俺の方はギリギリで終わった。
ふぅ。
ため息をつき、シアターから出ようとすると、葉月はまだ最前列で作業していた。
入り口の方をみると、ゾロゾロと観客が入ってきた。もし、自分の席が汚れていたら、クレームになりかねない。
俺は葉月の方に走った。
「葉月!! 終わりそうか? 手伝う!!」
葉月は半べそだ。
「山西さーん。終わらないですぅ。ポップコーンを背もたれの隙間に詰められていて……」
ほんと、迷惑なことするなよ。
詰める子供も、それを注意しない親もどうかと思う。
スペースがせまく、2人だと効率が悪い。
「葉月は先に戻って。後は俺がやるから」
観客がやってくると本当に気まずいのだ。時には怒鳴られることもある。
人柱は1人でいい。
俺がポップコーンをひとつひとつ取り出していると、目の前に人がきた。
「あ、すいません。まもなく作業終わりますので……」
俺は顔をあげた。
「山西くん……?」
すると、神楽坂さんが立っていた。
「神楽坂さん……。とりあえず、席どうぞ」
俺はそう言うとシアター外に出た。
俺はシアター3の上映スケジュールを確認する。するとやはり、いま上映しているのは、魔法少女系アニメの劇場版だった。
正直、意外すぎた。
神楽坂さん、実はこういうの好きなのか。
あと、映画館なのに1人に見えた。
……彼氏とかは居ないのかな。
すると、後ろから声をかけられた。
「山西くん!!」
追いかけて来てくれたらしい。
「神楽坂さん。アニメとか好きなんですね」
神楽坂さんは、バツが悪そうに、右手の人差し指で毛先をクルクルとした。
「あの……、これはですね。付き合いというか」
「お友達とですか? それか彼氏さんと?」
「いや、そんな人いないです!!」
神楽坂さんはモジモジしながら続けた。
「その……、認めます。わたし、本当はアニメ大好きなんですっ!! それもこういう魔法少女みたいなのが特に……」
神楽坂さんは、恥ずかしそうに俯いて、目に涙をためている。
「このシリーズ、面白いですもんね」
俺は見たことなかったが、その方が神楽坂さん的に居心地いいと思い、話を合わせた。
すると、神楽坂さんは急に饒舌になった。
「そ、そうなんですよぉ。とくに、主人公のリリカちゃんが戦うとことかっ。わたし、感動……」
なんか予想外にあついぞ。
あまり深い話になるとボロが出そうだ。
「神楽坂さん。そろそろ時間ですし、座席に戻ってください」
神楽坂さんは時計をみた。
ベルトにダイヤが散りばめられていて、見るからに高級そうな腕時計だ。
「あっ、ほんとうだっ。……あの。山西くん、バイトの後、用事ありますか?」
「いや、特には」
「あ、あのっ。終わったら、ご飯いきませんか?」
そう言った神楽坂さんの顔は、普通の女の子だった。




