第37話 紫音の日記。
(チュンチュン)
もう朝か……。
あれから2人は全く起きず、母さんに相談して、結局、紫音の部屋で寝ることになった。
そういえば、この部屋で寝るのは初めてかな。
こういう時のイベントって、お決まりだよな。
目覚めて横を見ると、美女が寝てるのだ。
俺には美少女のストックが2人もいる。
きっと両手に花……。
毛布をめくったが、誰もいない。
「おーい。きらりー? 紫音ー?」
あれ。ホントにいない。
なんだか、それはそれで寂しい。
だがっ。
これはチャンスだ。
紫音の部屋も荒らしてやれっ。
フフ。やつらに蹂躙された、いたいけなエロ本達の仇をとるのだ。
しかし、なかった。
ベッドの下にも、クローゼットの上の段に。
なかった。
エロ本じゃなくても、せめて、エッチな下着とか、何か面白いものがあると思ったのに。
あいつのビッチは口だけだな。
ほんと。
すると、ベッドのマットの間に挟まっている小さなアルバムらしきものを見つけた。位置がずれてしまったので戻そうと思ったら、床に落ちて、開いた。
開いたページには、青く丸いお団子のような絵が目に飛び込んできた。
それは、ソーダ味の飴玉で、おれが子供の紫音にあげたものらしかった。それは、俺のことばかりが書いてある日記だった。
読んではいけないと思った。でも、自分のことが書いてあるのだ。紫音にどんな風に思われているのか気になって、つい読んでしまった。
日記は紫音が小学5年の頃から始まっていた。最初は子供らしい丸い字で、家族のことが沢山書かれていた。花火大会、旅行、毎日のこと。
きっと、この頃は、これを隠してはいなかったのだと思う。
小学生6年、中学生となるにつれ、字が少しずつバランス良く大人っぽくなっていく。次第に、俺についての話題が増えていった。
そんなある日を境に、しばらく日記が途絶えた。
1ヶ月ほどしてまた始まったが、文体が少し変わっていた。それは、明確な違いではないが、日記の客体が、読み手から自分自身に変わったように思えた。
おそらく、この頃に、自分の生まれについて気づいたのだろう。しばらくして、その気づきは確信になったようだった。
◯月3日「……わたしは、お兄ちゃんやパパと血が繋がってない。ママもわたしに隠している。もしかしたら、ママとも血が繋がっていないのかもしれない……。本当のお父さんは誰なのかも分からない」
◯月5日「わたしが泣いていると、颯太が土手に連れていってくれた。そこから見ると、わたしの家はオモチャみたいに小さくて、それがおかしく思えて、2人で笑った。颯太に『紫音は大切な僕の妹。君もあの向日葵のように前を向いて』と言われた。颯太が大切って言ってくれた。わたしは、きっと頑張れる」
日記はずっと続き、つい先日の日付けになった。
「颯太が大好き。ママに相談したら、颯太と結婚できると教えてくれた。颯太と結婚したら、本当の家族になれるのかな。そうなれたら良いな。颯太とチビっ子と3人で、毎日、笑って過ごすの。そうなれるかな。なれるといいな」
(ポタッ)
日記に涙が落ちた。
「やべっ」
俺はいつの間にか泣いていた。
「ただいまー」
紫音の声が聞こえた。
俺は日記を元の場所に戻した。
きらりが午前中に用事があったらしく、父さんと車で家まで送ったらしい。
紫音が部屋に戻ってきた。
俺が起きていたので、睨まれた。
「颯太、おまえ。わたしの部屋を荒らしてないだろうな?」
「いや、別に。なんか大人のオモチャっぽいの見つけてないし」
紫音は分かりやすく動揺した。
「えっ。えっ。どど、どこで見つけたの? 絶対に分からないとこにあったハズなのに」
え、図星?
「って、嘘だよ。なに、お前、ホントにもってるの?」
「はぁ? 颯太、嘘ついたの? 信じられない。まじ殺したい……、って痛っ。キャッ」
紫音はこっちに来ようとして、バランスを崩した。俺は咄嗟に、紫音を抱きしめた。
紫音は「ありがと……」と言ったが、日記の中の紫音の気持ちに応えたくて、俺は抱きしめ続けた。
すると、俺に抱かれたまま紫音がいった。
「もしかして、……あれ見ちゃった?」
「うん。ごめん」
「……そっか。ね。颯太」
「ん?」
「チビは1人って書いたけど、10人くらいでもいいよ?」
「ははっ。そんなに養えないよ」
「頑張って。未来のパパさん」
俺からは紫音の顔は見えない。
声はいつも通りだけど、いま、紫音はどんな顔をしているのだろうか。




