第35話 私設図書館、盗賊に襲われる。
その日の晩飯は鍋だった。
母さんと父さんが並んで座り、その正面に紫音とキラリ。俺は父さん側のお誕生日席だ。
思えば、紫音が友達を連れてきたのは初めてかもしれない。そのせいか、両親は、きらりが来たことをすごく喜んでいた。
紫音は、表面的には人当たりがよく、友達も多い。だが、どこかで『これ以上入ってくるな』という線引きをしている気がする。そのため、仲の良い友達は少ない、っていうか、たぶん、居ない。
母さんが鍋の具をとりわけ、きらりに渡す。すると、きらりは「ありがとうございます」と言って、天使スマイルをした。
両親ともそれにメロメロで、娘とは趣が違うショートカットの少女に興味津々のようだった。
特に父さんはキラリのバスケ部の話に興味があるらしく、練習の話や試合の話に大喜びだった。
俺はそんな様子を見ながら、ビールを一気に飲み干す。
俺はスポーツ全般、苦手な訳ではないのだがあまり興味がない。運動部にも入っていなかったし、父さんにキャッチボールやバスケに誘われても、渋ることが多かった。
でも、嬉しそうな父さんの顔をみると、子供とスポーツをしたかったんだろうな、と思った。
そういえば、父さんもバスケ部だったっけ。かなり上手かったと聞いた事がある。
きらりはきっと父さんにバスケに誘われたら、喜んで付き合ってくれるだろう。きらりと結婚したら……、そう思っていると、いきなり話を振られた。
父さんだ。
機嫌良く呑んでいるせいか、ちょっと顔が赤い。
「それで、きらりちゃんと颯太の関係は?」
「……いや、(人違いでできた)彼女だよ」
父さんは口笛を吹いた。
「それで、きらりちゃんは颯太のことどう思ってるの?」
きらりは一瞬、紫音の方を気にしたが、小さく頷くと答えた。
「わたし、颯太さんのことお慕いしています」
お慕いかぁ……なんか良いな。
快活なこの子が言うと、尚更良い。
父さんは俺の肩をパンパンと叩いた。
普段からよく話す人だが、今日はなお一層、饒舌だった。
母さんは、俺とキラリと紫音を順繰りに見ると、「ふぅーん」とでも言いたげな顔をした。
そして、きらりの手を握った。
「きらりちゃん。そう君のこと、よろしくね。それと、紫音のことも。自分の家だと思って、また遊びにきてね」
きらりは嬉しそうに頷いた。
母さんは優しくて気がきく女性だ。
きっと、きらりが、おばあさんと2人暮らしと聞いて、ワイワイ過ごせる鍋にしたんだと思う。
俺は生みの母のことをあまり覚えていない。
きっと、母さんはみたいな人だったのかなと思った。
気づくとグラスが空だった。
きらりが注いでくれながら、囁いた。
「ウチも、早く、そうくんとお酒を飲めるようになりたいな」
俺は飲みすぎてしまったらしい。
夕食が終わると猛烈な睡魔におそわれ、先に部屋に戻ることにした。
きらりと紫音は2人で片付けを手伝っている。
俺は部屋に戻るとすぐに寝てしまったらしい。目が覚めると、紫音とキラリが部屋にいた。
俺の部屋は狭い。2人がヒソヒソ話をしていても、内容が聞こえてしまう。
紫音の声だ。
「そうそう。これ。颯太こういうのが好きみたい。きっと、一人でして見せてあげると……」
きらりが答える。
「え、でも。ウチ、いくらそうくんのお願いでも、さすがにそれは……。いや、1人で? それは、その。たまにはしたことはあるけれど……」
いや、そんな本を持っているだけで、お願いはしてないんだけどな……。
それにしても、すごい話しをしてるな。女子だけだと、こんなに生々しい話をするものなのか。
でも、いまの状況は。
おれの私設図書館に盗賊が入り、コレクションが荒らされているということだ。
決して看過できる状況ではない。
でも、2人の会話をもっと聞きたい自分もいる。
どうするべきか。悩ましい。




