第34話 紫音、2針縫う。
さて。これどうしよう。
とりあえず、この酷いイベントタイトルを変えるか。
……無難に「紫音と外出」でいいかな。
よし、変更っと。
すると、またさっきの無機的な声が聞こえてきた。
「ファミリーカレンダーの既存イベント『紫音とラブホデートの日♡』が『紫音と外出する』に変更されました。……ユーザー:母さん、ユーザー:父さん がイベントの変更を確認しました」
へ? 変更を確認?
まさか、わざわざ音声で変更を通知したのか?
完全に2次被害じゃん。
最悪だ。
余計なことはせずに、放っておけば良かった。
紫音、ホントふざけるなよ。
俺が頭を抱えていると、診察室から紫音の声が聞こえてきた。
「せ、せんせいっ。縫うんですか?」
縫合が必要なのか。
やっぱり連れてきて良かった。
「ひぃ……、いたそう」
フフッ。愚妹よ。
少しは反省するがよい。
しばらく静かになった。
……まだやってるのかな?
少し心配になってきた。
俺は自分が、せわしなく貧乏ゆすりをしていることに気づいた。
すると、また紫音の声がした。
なんだか切羽詰まっている感じだ。
「いたいー。いたいっ。おに、おにーちゃん。タスケテ……」
「し、しおんっ!! どうしたっ」
俺が診察室に飛び込むと、先生が、小さい注射器を紫音に刺そうとしていた。
先生は「ほら。山西さんっ。縫った時の痛みを和らげるための麻酔なんですから、高校生なんだから、これくらい我慢して」
あぁ。縫合前のあのちっさな注射で大騒ぎしてたのか。そういえば、紫音は大の注射嫌いなんだっけ。ま、あの小さいのだし、大丈夫だろう。
面倒臭いし、外で待ってるか。
「あ。すいません。部屋間違えました」
おれが出て行こうとすると、紫音が俺に手を伸ばして言った。
「おにーちゃん……」
先生はメガネを持ち上げて言った。
「あ? ご家族の方? この子、動いて危ないから身体押さえるの手伝って」
結局、俺が紫音を羽交締めのようにして、固定役をすることになった。
2針縫うらしい。
案の定、1針目は大騒ぎをしたので、2針目に備えて俺が身体を押し付けると、耳にぺろっという感触があり、紫音に耳を舐められた。
「ジュテーム」
紫音が耳元でダンディな声で囁いた。
「……お前、随分と余裕じゃねーかよ」
角度的に顔は見えないが、耳元で紫音の声が聞こえる。
「なんだ。気持ちいいのか? もっと舐めてほしいか? ハァハァ……って、痛い、痛い、いたーいっ!!」
じゃれてるうちに、2針目を入れられたらしい。
耳元で叫ばれて、鼓膜が破れるかと思った。
縫合の後も簡単な処置があったが、その間、紫音は半べそで、ずっと俺にひっついていた。
治療が終わり、先生から説明があった。
傷は見た目よりも深く、砂利なども入っていたため、病院に来て正解だったらしい。数日はシャワーもやめた方がいいとのことだった。
家に帰ると、きらりはお風呂も終わり、母さんを手伝っていた。紫音のもこもこの部屋着を着ていたが、よく似合っている。
俺は、夕食の前に風呂に入ることにした。
そして今、俺は脱衣所にいる。
目の前には洗濯カゴ。
俺は悩んでいる。
その中にあるのは、きらりと紫音、双璧たる2大美少女の脱いだ服だけだ。20歳童貞男に無関心で居ろという方が無理な話な訳で。
紫音はともかく、きらりがどんな下着を履いているのか非常に気になる。
「別に観察したり嗅いだりする訳じゃないのだ。きらりの下着がどんなのか見るくらい、良いかな……」
俺は脱衣所でウロウロし、洗濯カゴに手を伸ばした。しかし、その刹那、きらりと紫音が肩を組んで歩く、さっきの尊い姿が頭に浮かんだ。
「そうだよな。よくないよな」
俺が思い直し、浴室に入ろうとすると、洗濯カゴに足をひっかけてしまった。カゴはひっくり返り、派手にその中身が散乱する。
目の前には、パンツが2枚。
その片方は見覚えがあるもの。
そして、もう一枚は見覚えのないパンツだった。そのパンツは、黒くて所々レースの色っぽいデザインで、元気っ子のきらりからすると、大胆すぎるデザインだった。
「きらり、こんな色っぽいの履いてるのか……」
とはいえ、紳士としては、散乱したのを放置もできない。俺はキラリのパンツをつまんで持ち上げた。決してパンツをよく見たかった訳ではない。
すると、脱衣所の扉が勢いよく開いた。
紫音だった。
「颯太ぁー。わたしらの下着を見たりしないで……よ……ね?」
紫音はそのまま回れ右をした。
「みんなー。ここに性犯罪者がいまーす!!」
紫音はまたこちらをみて、パンツと俺を交互に見た。どうやら、持っているのが自分のパンツではないと認識したらしい。
紫音は、口を尖らせた。
「なんでわたしのじゃないんだよ……」
そう言うと、また振り返って大声を出した。
「きらり!! この変態豚野郎が、アンタのパンツを透かして嗅いでたよ!!」
って、そこまではしてないし。
きらり真に受けちゃうんだから、大袈裟にいうのやめて!!




