第27話 名軍師、紫音。
俺は追い詰められていた。
そう。この勝負は始まる前から負けていたのだ。
紫音にキスをかまされた時点で、俺に残された選択肢はひとつだった。
俺は答えた。
「こいつは……、その。俺の彼女です……」
俺は紫音の方を見た。
紫音は俺の背中に隠れて、顔だけ出している。ニコニコしながら大きく頷いていた。
この勝ち誇った満足そうな顔。
まじでムカつくわー。
神楽坂さんはよろめいて、地面に膝をついた。
あぁ。
あの美しいおみ足に傷が……。
はぁ。あの地面になりたい。
神楽坂さんは、わなわなと震えて口を開いた。
「そ、そ、そうですか。山西くんは年下がお好きなのですね。わたし帰ります。ご機嫌よう」
ご機嫌よう、ご機嫌ようって言われた……。
さらば、俺の青春。
紫音は神楽坂さんにあっかんべーをしている。
ほんと、こいつ。
妹ヒロインとは思えない態度の悪さなんだけど。
俺は、紫音を振り払った。
そして、睨んだ。
すると、紫音に逆ギレされた。
神楽坂さんの背中を睨み、猛獣のように牙をむいている。
「颯太!! あの女は誰っ? あの顔、絶対、お前を狙ってるだろ」
「いや、神楽坂さん」
「か、かぐらざかぁー? あいつが例のラスボスか。おまえ。まだ殺ってなかったの? 変身する前に倒せって言ったよね? ね?」
なんかプレスがすごい。
圧迫面接みたいだ。
つか、今って、むしろ、俺がキレたい状況なんですが?
「倒せって、なんだよ」
「言葉のまんまだよ」
「意味わからんし」
「颯太、あの女の何がいいの?」
「全部? 神楽坂たんマジ天使」
すると、紫音は深々とため息をついた。
「いやぁ、わたしは愕然としたよ。そのゴマ粒みたいに小さな目は節穴でしゅかー? あいつ可愛いだけで性格悪いだろ。まじ、お前、見る目なさすぎ」
「は? お前に見る目のこと言われたくないんだけど」
「あーあ。キラリに告白したときは、少しは見どころあると思ったのに」
つか。なんかコイツ、妙にキラリの評価が高いんだよね。褒めてもらったのに大変恐縮なのですが、きらりへの告白は、人違いですから。
「……そろそろ帰ろうぜ」
どうせ同じ家に帰るのだ。
ここで言い争う意味はない。
俺が歩き出すと、紫音がタタッと付いてくる。
そして、下から俺を見上げると、黒髪を耳に挟み込んで言った。
「ね。わたしって、颯太の彼女なんでしょ?」
「は? 何いってんの?」
俺はため息混じりに言った。
(がんっ)
痛っ。
こいつ、蹴りやがった。
「颯太、自分の言ったことに責任もてよ。その口でついさっき『か・の・じょ』と言ったじゃん」
「あれは、お前の策略に引っかかっただけだし。ホント、どーすんだよ。神楽坂さんの中で、お前が彼女ってことになっちゃったじゃん」
紫音は俺に腕を組んできた。
猫のようにピッタリと身体をすり寄せてくる。
「いいじゃん。付き合えば。颯太さ。もし、わたし妊娠しても、そーやって、テイの良いこと言って、逃げるつもり?」
「いや、結婚でもなんでもして、責任とるよ」
住まいも一緒、両親までグルで、どこに逃げる場所があるって言うんだよ。
すると、紫音はガバーっと両手で抱きついてきた。
「ウフフ。颯太。わたしもだーい好きっ」
『わたしも』の要素がどこから湧いてきたのか謎なんだが。なんか会話が噛み合ってない気がするのだけれど、俺だけか?
「そいえば、お前って、きらりと仲良いの?」
前々から気になっていた。紫音の中で、キラリの評価がやたら高いのだ。前に連絡先交換したということは、きらり本人から聞いたことはあったが。
「え。普通にメッセージのやり取りしてるだけだよ。颯太の子供の時の写真とか送ったり」
勝手に子供時代の写真を送るのは『やり取りしてるだけ』ではない気がする。
「おまえ、勝手なことするなよ」
「いやぁ、きらりたん性格良すぎ。まじ神」
既視感がハンパない。
なんか、俺もさっき神楽坂さんに同じようなこと言ってた気がするし。やっぱ、うちら、じつは血が繋がっているのかも知れない。




