第20話 颯太、紫音に詰められる。
昨日は、あれからキラリと沢山話して、沢山笑った。
きらりは、苦労知らずの純水ではなく、汚泥の中の清水だとは思っていた。でも、俺が思っているよりも、ずっと辛い思いをしてきたのだろう。
きらりは、子供の頃にお父さんにバスケを教えてもらったらしい。お父さんは、ずっと実業団でバスケをしていて、もう少しでプロというところまでいったということだった。
バスケを通じて、きっとお父さんの影を追っているのだろう。
ところで、昨日、帰ってきてから紫音に詰められた。キスしたと言ったところ、風船のように頬を膨らませて、部屋から出て行ってしまった。
そして、俺は今、紫音の部屋のドアを叩いている。
(ドンドン!!)
「しおん、出てこい」
俺は紫音の部屋のドアを叩いている。
紫音にどうしても抗議したいことがあるのだ。
あいつ、こともあろうか俺の部屋のエロ本の全ページに自分の写真を貼りつけやがった。しかも、原作の意向を無視した無難着衣スナップときてる。
自室のエロ本コーナーといえば、女人禁制立ち入り禁止の聖域だろ。そこを土足で踏み荒らすとかあり得ない。あいつ、同居だからって調子乗りすぎだ。
数分すると、紫音が自分の髪の毛を撫でながら出てきた。
「なに? こっちは忙しいんだけど」
俺はエロ本の該当ページを開いてみせた。
「これ見ろ。これなんなんだよ!!」
すると、なぜか紫音がキレた。
「こんな可愛い妹がいるのに、ほかの女でするのが悪いでしょ!!」
いや、普通に悪くないでしょ。
おかずを自由に選択する権利は、きっとどこかの法律で保障……されてるハズだし?
「いや、あんな普通のスナップじゃ役に立たないでしょ。もうちょっと思いやりをもって原作に沿ってくれよ……。これとか妖艶なバックアングルなのに、お前の写真、焼き肉食ってる時のヤツじゃん」
「どっちも口開けてるんだから一緒じゃん!! それにネットで流れたら困るじゃん」
「そんなのお前の自己都合だろ。っていうか、紙ベースでどうやって流通するんだよ!!」
すると、紫音はキョロキョロした。
「お前、取り敢えず部屋に入れ」
紫音に引っ張られて部屋に入った。
すると、部屋には年頃女子の良い匂いが充満していた。
そういえば、ここに入るのは数年ぶりだ。
いつの間にやら、子供っぽかったこの部屋は、可愛らしい女子の空間になっていた。
「部屋に入れてどうすんだよ」
紫音はキレ気味でいった。
「だから、やってやるっていってるんだよ」
「は?」
「だから、希望のポーズして見せてあげるっていってるの!!」
「紐パンとか全裸とかM字開脚希望だけど、いいの?」
「っっ……!! お前、少し性癖を改善した方がいいぞ? ……い、いいよ。でも、その代わり、他の女でするな!!」
「無理。神楽坂さんとキラリはヘビロテだし」
「へ、へびろて……。キラリはいい。その神楽坂って誰だ」
え。きらりはいいの?
意外……。
「あー、俺の大学の……」
「そのラスボス感満載のヤツ誰だよ。変身してステータス爆上がりする前に、早く殺れ。滅せよ。滅ぼせ」
こいつ、なんか怪しげな教祖みたいで怖いんだけど。
「やれっていうか、現状、俺がフラれてる感じ?」
紫音は満足そうな顔をした。
「ふーん。まぁ、ならいいや」
なに、こいつ。
すっげー、感じ悪いんですけれど。
いいタイミングだ。
ちょっと気になってたことを聞いておこう。
「おまえさ。どうして俺のこと好きなの?」
すると、紫音に背中を思いっきり叩かれた。
「なっ、普通。女の子にそういうこと聞くか? 恥ずかしいじゃん」
いや、さっきまでM字開脚を脚了承してた人が言っても説得力ないから。
「別にいいじゃん、何でも」
「いや、今後の参考に聞きたいし」
「颯太に今後は不要だがな。……だからだよ」
「えっ?」
紫音は口ごもる。
「顔が好みだからだよ!! 悪いかっ」
え?
そんな薄っぺらいの?
もっとドラマを期待してしちゃったぜ。
「そんなん一時的じゃね?」
「小学校高学年から持続してるんだから、一時的な訳ないじゃん。お前みたいな個性的な顔、他にいない。……一生、好きだと思…う」
なんだか、褒められているハズなのに、小馬鹿にされてるみたいで、すっげーむかつく。
「ま、そんな貧弱な理由なら選考対象外ってことで」
「ち、ちょっと待って。他にもあるよ。子供の頃、チョコくれたりとか……」
「明日には他の男に行きそうな理由だし」
「と、とにかくっ。大好きなんだからいいじゃん。ね、颯太。わたしと付き合お? ママも良いって」
やっぱ、この家の奴らは裏切り者ばっかりだ。
紫音が近づいてきた。
「あ、颯太、前髪にゴミが。目を瞑って」
俺は目を瞑った。
(ちゅ)
目を開けると、紫音にキスされていた。
紫音のくちびるは柔らかくて、柑橘系の味だった。
「お前、なにすんだよ」
紫音は俺の肩に擦り寄ってくる。
「やった。キスしちゃった。えへへっ。ね、颯太。これから毎日したいよ。って、いたっ。デコピンとかひどい」
「調子にのるな」
愛おしそうにしてくれる、きらりのキス。
嬉しそうにしてくれる、紫音のキス。
どっちも捨てがたくて、俺を幸せな気持ちにしてくれる。
俺は、2人とも大切で。
どちらも「妹」の枠内には収まらなくなりつつあるのを感じていた。




