第18話 2人の休日。
俺はとある駅の改札前にいる。
今日は、ここできらりと待ち合わせしている。
いわゆる、デートだ。
チェリーな俺は、もちろんデートなどしたことはない。でも、昨日、きらりと話していて「もちろん経験あるし余裕ー」と見栄を張ってしまった。
年上は辛いぜ。
まぁ、昨日、必死に下調べしたし、なんとかなるだろう。
待ち合わせの5分前にきらりがきた。
白いワンピースにヒールのある黒い靴を着ている。ワンピースも絞りが入っていて、なんだかオシャレだ。
「ごめんなさい。そうくん、待ちましたか?」
「いや、おれも来たばかり」
実際は30分は待ったのだが、そんなことはどうでもいい。それより、問題なのは、今日のキラリだ。
普段はボーイッシュな服装が多いキラリが、めっちゃ女の子っぽい格好をしている。意外にも、よく似合っている。
やばい。
可愛い。
この子って、こんなに可愛いかったのか。
すると、きらりがむくれた。
「昨日、頑張ってお洋服選んだんですよ? 何か感想は?」
いや、そのまま伝えたら、なりふり構わず女の子を口説きたいAVスカウトのようになってしまいそうだ。
俺は濃度1%くらいに希釈して感想を伝えた。
「か、可愛いと思う」
すると、きらりは幸せそうな顔をした。
「……嬉しいです。早くいきましょ」
きらりは俺の手を握った。
あれ?
なんか俺ってばリードされてないか?
めっちゃ手汗かいてるから恥ずかしい。
今日は映画を見にいく予定なのだが、少し時間があるので食事をすることにした。
「どこいきましょうか?」
きらりが不安そうな顔をするが、大丈夫。
口コミ4.9の店をピックアップしてある。
映画館からも近い。
おれのプランは完璧だ。
I'm perfect.
しかし、行ってみると臨時休業だった。
年中無休って書いてあったじゃん。
今日は年末年始でも何でもない、ただの週末よ? もっと頑張ろうよ。
なんで閉まってるんだよ。
嘘つき。
俺が途方に暮れていると、ピョコっときらりが覗き込んできた。
「あっ、わたし、行ってみたいお店あるんです。よければ、付き合ってもらえませんか?」
行ってみると猫カフェだった。
大小様々な猫たちが、店内を自由に歩いている。軽くサンドウィッチを食べて、コーヒを飲んだ。
「猫って、こんな色んな種類がいるんだね」
「そうですよ? ウフフ。もしかして、猫は三毛猫ちゃんだけだと思ってましたか?」
猫はみんな可愛いが、特に子猫は天使のような可愛さだった。途中、子猫がきらりの胸元にダイブして、キラリがアタフタする姿を見れた。子猫、グッドジョブ。
その後は映画館に行く予定だ。
今度こそ俺のリサーチは完璧なハズ。
事前にきらりから好きなジャンルを聞き取ってある。
ジャンルとしては、アクションやドキュメンタリーが好きで、意外にもアニメも好きらしかった。
ちょうどバスケを題材にした劇場アニメが今日公開だったので、それにした。
実は俺は、この作品の原作勢で、面白いのは確約されている。フフッ。完璧だ。
きっと、おれのコーディネイトに感動して、「素敵! このあとホテル行きたいです!!」となること請け合いだ。
映画館につき、お目当ての作品を探す。
すると、チケット売り場のインフォメーションボードに表示がなかった。
ん。下の方に何かペラが貼ってあるぞ。
「本日公開予定だった◯◯は、諸事情により急遽、公開延期になりました。ご来場のみなさまにおきましては……」
は?
そんなことあるの?
じ、じゃあ、他の映画館にいくか。
俺はお目当ての作品名で検索をかけた。するとなぜか主演声優のSNSがヒットした。
そこには謝罪メッセージがアップされていた。
「この度は、わたくしの不倫問題により、製作者様および配給会社の皆様には多大なるご迷惑を……」
その下には坊主にして頭を下げる声優の写真があった。
お前が坊主になっても、俺のデートはどうにもならんよ。
とにかく上映しろ! 上映!!
……はぁ。まじかよ。
どんだけ運が悪いんだよ。俺は。
きらりをみると、不安そうな顔をしている。
「そうくん? 映画はまたでもいいよ?」
いやいや、よくないっしょ。
デートで彼女と映画を観るというミッションをなんとしてもクリアしたいのだ。
有人のカウンターに相談すると、ちょうど5分後に始まるドキュメンタリーがあるとのことだった。
「きらり。ちょうど5分で始まる映画があるんだけど、それでいいかな? ドキュメンタリーで、この前、映画評論家が絶賛してたやつ。△△っていうんだけど」
きらりはその作品を知らないらしくて、首を傾げた。
「そうくんが観たいなら、ウチもそれがいい♪」
きらりはホント天使だぜ。
いちいち逆らう、うちの堕天使(妹)にも聞かせてやりたい。
売店でポップコーンとコーラを買って、座先につく。すると、きらりが俺の肩に寄りかかってきた。コーラはLサイズにしてストローを2本挿してもらった。
コーラを飲むたびに、きらりと目が合う。
なんかこういうのって、カップルっぽくていいなぁ。どうにもならん相手を追いかけるより、ずっとこのまま付き合うのもアリなのかな……。
映画が始まると、何年か前に世間を騒がせた事件についての映画だった。この事件については、俺も覚えている。
たしか、殺人事件で、普通の家庭の普通のお父さんが突然、犯罪者になったのだ。
自白もなく真偽は不明だったが、当時は、犯人叩きの偏向報道が激しく、老若男女問わず、皆んなで輪になって、その父親を追い詰めた。
結局、その父親はずっと無罪を訴えたのに、有罪になった。そして、獄中で自殺した。
ずっとスケープゴートのように、その父親を責め立てたマスコミは、受刑者が亡くなると、まるで、その後の始末を全部視聴者に押し付けるかのように、事件のことを全く報道しなくなった。
当時の俺はそんな中の1人だったが、その後のマスコミの対応には違和感を持ったのを覚えている。
映画は、その事件で採用されなかった様々な客観的な証拠を吟味して、冤罪の可能性を探るものだった。
——ちょっと重い映画だったかな?
きらりを見ると、俯いていた。
息が浅く、きらりの手はすごく冷たくなっていて、小刻みに震えていた。
体調が悪いのかな。
まだ映画の途中だったが、きらりを連れて映画館から出た。
「きらり、大丈夫?」
すると、きらりは震える手と手を重ねるようにして、答えた。
「……うん。ちょっと気分が悪くなっちゃって。せっかくの映画だったのに、ご、ごめんなさい」
「体調、悪そうだよ。俺の方こそ、なんかごめんな」
「そうくんは悪くない。でも、なんか身体が気持ち悪くて、少し落ち着きたいし、シャワー浴びたい」
え。
シャワーって、ここは街中だし、そんな都合よくは……。
すると、都合よく目の前にシャワーのある落ち着ける施設……。
ラブホがあった。
俺の今日の運気は、もしかすると、この一瞬のために残してあったのかも知れない。




