第17話 きらりの夜驚の棘。
明けましておめでとうございます。昨年は小説を書き始めて、皆様のおかげで、とても充実して過ごすことができました。今年もよろしくお願いいたします。
さて、ずっと妹回だったので、久しぶりのメインヒロイン回です。内容的にはやや重いですが、きらりの素性に殆ど触れていなかったので、掘り下げてみました。
せっかくなので、きらり目線にしてみました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
ウチには分かる。
これは夢だ。何度もみたから分かる。
またいつもの風景。いつもの匂い。
道を曲がらなくても、その先がどうなってるか分かる。
皆んなが輪になって、私を寄ってたかって叩く。
大人も子供も。
伯母さんも伯父さんも。
皆んな、上が欠けた三日月のような薄気味の悪い笑顔で。
「お前は人殺しの子だ」
「お前の父親は、遺産目当てに母親を殺した人でなしだ」
「忌まわしい子」
パパ、ママ。
2人ともあんなに仲良しで、そんなことあるはずがないのに、どうして皆んな、わたしを避けるの?
怖いよ。
2人はお空にいて、お星様になったんだって。
お星様が迎えにきて、お空に連れていかれちゃったの?
だったら、私から2人を奪ったお星様なんてキライ。
お星様みたいな、私の名前もキライ……。
(リリリリ)
ウチは、スマホのアラームで起きた。
目を開けると、右手を天井に伸ばしていた。
「またあの頃の夢だ……」
手を伸ばしても、何にも届きはしないのに。ウチの身体は、いつ気づくのかな。
寝ぼけ眼を擦ると、スマホのメッセージを確認した。
少し前に彼氏ができて、毎日、寝るまでやり取りしている。彼は、ウチが寝たの後にいつも何か送ってくれるから、起きた時にそれを見るのが楽しみだ。
「きらり。怖い夢みてない?」
なんだかね。
君は、本当に勘がいい。
痴漢から助けてくれた時だって、君以外は誰も気づいてくれなかったんだよ?
そんな勘の良い君だから。
きっと、いつか、ウチの昔の秘密にも気づいちゃうんだろうな。
そうしたら、そしたら。
君も夢に出てきて、輪になってウチを叩くのかな。
そんなことあるわけないって思うのに、自分からお話するのは怖いよ。
だから、早く気づいて欲しい。
君の存在が、わたしの中でもっともっと大きくなって。欠かせぬものになってしまう前に。
さて、そろそろ行かないと。
寒かったので、お布団に潜ってジャージに着替えた。そうくんには内緒だけど、部活の朝練の走り込みは、自主練で補うことにしたのだ。
これ以上、そうくんに早起きさせられない。
玄関を出ると、まだ薄暗くて、小鳥がチチチチと鳴いていた。ウチはこの時間の凛とした空気が好きだ。
今朝は10キロほど走った。
走りながら、そうくんに始めて会った日のことを思い出していた。
あの日、ウチは痴漢されてるのに、みんな、ウチを囲んで輪になって知らんぷりで。ウチを見てたあの男の人は、ウチのスカートに手を入れて、ウチの大切なものを奪おうとしてた。
あぁ。夢と同じなんだって。
誰も助けてくれないんだって。
ウチ、ほんとはあの時、諦めてた。
でもね、そうくんが助けてくれた。
現実は、あの夢とは違ったの。
すごく嬉しかった。
それで、きっと、君のことを好きになってしまったんだと思う。
だから、あの後、電車の中で。
君が、告白してくれて、お嫁さんにしてくれるって言ってくれて。
嬉しかった。
ウチはきっと、夢の通りで。
きっと、幸せになることなんて許されない忌まわしい子で。
そんなウチに君は。
たとえ、束の間でも、君と結婚できるかもしれないと夢をみせてくれる。
すごく、すごく嬉しいんだ。
(ハァ、ハァ)
時計をみると、いつもよりペースが早かったみたい。すっかり、息が上がってしまった。
走り終えて、身体が冷える前にシャワーを浴びる。
シャワーを浴び終えると、おばあちゃんがタオルを出してくれていた。
「随分、懐かしいタオル」
ウチは、タオルを手に取った。
これは子供の頃、ママがプレゼントしてくれたタオル。
いまはもう、お日様みたいだったママの匂いはしない。
タオルの端には、ママがクマさんとウチの名前を刺繍してくれた。そこにあるのは、今はもう他人のように感じる、私の昔の名前だ。
「神楽坂 きらり」
私は、その懐かしい名前を、人差し指でなぞった。




