第12話 神楽坂さんの提案。
「あっ、どうぞ」
神楽坂さんは、俺の正面に座った。
黒くて長い髪を掻き上げて、左耳に挟み込む。
その所作も大人っぽくて美しい。
「突然、ごめんなさい。わたし、古い美術品に興味があって……。山西くん、美術鑑賞部の副部長でしょ? 今度、見学させてもらえないかな」
「もちろん。でも、普通に突然部室に来てもらっても大丈夫ですよ」
「わたし3年だし。1年生じゃないから、少し恥ずかしくて」
くーっ。この反応。
好みすぎてたまらない。
部活見学に来るだけで恥ずかしいなんて。やっぱり、控えめ美人だ。
大人っぽいのにシャイガール。
即ち、理想。
「じゃあ、今度、部活がある時に教えますよ。あ、連絡先教えてもらってもいいですか?」
神楽坂さんは、カバンから小さな便箋を出すと、サラサラとメモをとって渡してくれた。ペン字のお手本みたいに綺麗な字だ。さすが、ホンモノのお嬢様、神楽坂さん。
サラッと書いたメモも美文字。
文字には人柄がでる。即ち、理想のタイプ。
2人きりで話すのは初めてなのだ。
おれは神楽坂さんの一挙手一投足に夢中だった。
それに、棚ぼたで連絡先を入手してしまった。
「……ん?」
用事も済んだし、さっさと席を立つのかと思ったが、神楽坂さんはそのままテーブルにいる。じーっと俺のことをみると、ためらいがちに口を開いた。
「山西くん。この前、電車で、なんだかごめんね。後から何かお話が……、あったのかなって気になっちゃって」
お話はあったんだけどね。
冷静に言われても、ノンフィクションのパッションがないと再現は無理。
「……いや、良いんです」
「むぅ。気になるよ」
神楽坂さんは頬を膨らまして、甘えるような顔をした。整ってるお嬢様の無防備な表情。
完全にご褒美だ。
「あのね、山西君。都合よければ、これから……」
(ブブブ……)
紫音からだ。
くそ。こっちは良いところなのに。
でも、あんなことの後だ。
無視もできない。
「ちょっとすいません。家族からの電話で。出てもいいですか?」
神楽坂さんに了解をとって、電話にでた。
「颯太? ……まだ学校?」
あれ。呼び捨てだし。
いつもの不遜な口調だな。
「なんだよ。こっちは良いところなんだから、邪魔すんなよ」
「……女といるの? ちょっと。誰よ。あ、そうだ。帰りにウチの高校に来て。いいもの見せてあげる」
なんだ?
正直、面倒なんだが。
「……分かった。んじゃあ、切るぞ」
「ち、ちょっと。まだ話が……」
俺は電話を切った。
「すいません。神楽坂さん。それでなんでしたっけ?」
「あっ……、うん。いいの。用事あるみたいだし。さっきの電話、妹さん? 可愛い声」
なにか誘われるっぽかったぞ。
くそ、アイツ、邪魔しやがって。
「ほんと、口も悪いし粗暴で、品もないしオタクだし。ほんとどーしようもない妹で……」
そう言いながら、俺は何故か胸が苦しくなった。言葉が続かなくて咳払いをする。
「こほん……、いや、そんなこともなくて。ホントは、いいヤツで。優しいし可愛いし。兄貴想いで、いつも笑かしてくれて面白いし。って、ハハ。シスコンみたいっすね……」
だって、あいつの振る舞いは、きっと1人で秘密を抱えて辛い気持ちを隠すためだったり、俺のことを想ってなのだ。悪く言えるハズがない。




