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「婚姻魔法」で縛られているので離婚する方法を模索する

作者: たべり

しばらく書けなかったので超短いですがリハビリのために書きました。

 ヨークは悩んでいた。アリスと結婚して7年。


 出会ってすぐに気が合った二人は、お付き合いを開始してからわずか半年で結婚した。

 結婚式では「婚姻魔法」を結んだ。これは永遠の愛を誓う二人がお互いに相手を尽くすことを神の前で誓い、どんな困難があっても絶対にお互いを裏切らないと宣言することで、神からの特別な祝福を受けるというものだ。

 50年以上前に廃れ、とうに使われなくなっていた「婚姻魔法」だったが、数年前に「婚姻魔法」を結び、街中で祝福される盛大な結婚式を開いた夫婦が現れた。そして、それに続き「婚姻魔法」を結ぶものが現れ始めていた。今では結婚にあたり「婚姻魔法」を結ぶことは当たり前のように行われており、何の疑問も抱かず、ヨークはアリスと「婚姻魔法」を結んだのだった。


 後悔したのは結婚2年目の時だった。娘が生まれてからアリスの態度が変わり、ヨークのことをないがしろにし始めたのだ。かつては、夜になってヨークが仕事から帰ってくると、妻は晩御飯の用意をして待っていてくれた。しかし、子供の面倒をみるのが大変だと言って、料理を作ってくれなくなった。仕方なく、その日は空腹のまま寝た。

 次の日、晩御飯を外で食べて帰ると帰りが遅いと文句を言われた。手を煩わせないように晩御飯を食べて帰ったと言うと、子供のために節約する気は無いのかと責められた。

 仕事が休みの日。寝室で休んでいると、私は子育てで休む暇がないのにあなたは私を気遣ってくれないと言い、そんなことはないと返すと態度で示せと、家の掃除をさせられた。

 その後、アリスは自分の晩御飯を作って食べると、娘を寝かしつけると言いながら自分も寝た。

 そのうち、妻は家事をしなくなり、子供にヨークへの不満を聞かせるようになった。だが、ヨークは我慢した。お互いに愛情をもって結婚し、子供も生まれた。子育ての大変さから一時的にイライラしているだけだろうと我慢した。

 そして、今ではヨークは料理や洗濯など一通りの家事が出来るようになった。家が汚くては落ち着かない。腹が減っていては仕事も満足にできない。切実な理由からであった。娘はいま5歳。父親への文句を聞かされて育った娘は父を見下すようになっていた。


 「ちょっと、あなた。洗濯物が干しっぱなしじゃない。乾いたら取り込んどいてって私言ったわよね」

 「もう、パパったらママの言いつけも守れないの?しっかりしなさい」


 母親に同調して、父親に対して命令口調で話す娘。子供が生まれて5年。もうこれ以上は耐えられなかった。


 離婚したい。一人になりたい。


 ヨークの思いは切実だった。しかし、妻も娘も外面が良く、外からは幸せな三人家族に見えるため、誰も彼の心の内を知ることはなかった。

 ある日、思いの他仕事が早く終わったヨークが家に帰りたくなく、街をぶらついていると後ろから声がした。


 「おや、ヨークさんではないですか?」


 聞き覚えのある声にヨークが振り向くと、そこに立っていたのは結婚式を執り行ってくれた神官だった。


 「これは、神官様。ご無沙汰しております」


 丁寧にあいさつするヨーク。しかし神官の顔を見て結婚式のことを思い出してしまう。あの頃は希望を抱き、幸せ一杯だった。だが現状はこの地獄。彼の表情が陰る。

 神官はそれを見咎め、どうしたのかと彼に問う。ヨークが折り入って相談したいことがあると話すと、神殿で聞こうと言うことになった。

 神官の私室に案内されるヨーク。


「本来は、私室でお話を伺うようなことは致しませんが、深刻なご様子なのでこちらで聞かせていただきましょう」


 そう言いながら座るように促す神官に勧められるまま椅子に腰を下ろしたヨークは、自分の家庭での現状を話し出した。


「実は、娘が生まれてから、妻が子育てが忙しいという理由で家事をしなくなったのです。今では炊事、洗濯、掃除すべて私が行っております」


 話しだしたヨークに神官が相槌を打つ。


「それはそれは……。お仕事をしながらの家事は大変でしょう」


「それだけではないのです。妻は私の家事が不満らしく、常に文句を言われ続け、娘にもそれを聞かせるのです。おかげで、5歳になった娘は私を見下し、妻に同調して二人で私を責めるのです」


 静かに話を聞いている神官に、ヨークは話し続ける。


「妻が変わって5年……、子育てが大変でストレスからくる一時的なものだろうと5年間耐えてきました。ですが、娘まで妻に同調しているのです。もう耐えられません……、もう妻とは離」


 神官は黙ってヨークの話を聞いていたが、ヨークが離婚と言いかけたときに、立ち上がる。ヨークは突然言葉に詰まり、苦しそうにうめいた。


「うっ」


 突如心臓に痛みを感じ、胸を押さえて息を詰まらせるヨーク。神官が駆け寄り、その場に崩れ落ちそうになるヨークに手を伸ばして支える。

 突然の出来事にも慌てることなく、神官は落ち着いた声でヨークにささやくように言う。


「ヨークさん、その先を考えてはいけません。心を無にするのです。目を瞑ってゆっくり息を吸って」


 神官に促されながら、目を瞑って大きく息を吸って吐く。数度繰り返したところで胸の痛みは引き、ヨークは目を開けて神官を見る。


「『結婚魔法』を結んだものは、相手への裏切りは許されません。それはご存じでしょう? ご自分の中で思う分にはいいのです。ですが、他人に話そうとしたり、実行に移そうとすると裏切ったとみなされます。裏切りへの代償は死、です。これを覆すことはできません」


 優しく諭すように、だが、きっぱりと神官がそう告げる。


「しかし……それでは私は……!」


 ヨークが掠れる声で振り絞るように言う。その悲痛な表情が彼の苦悩を物語っていた。彼の身を案じたのか神官は彼を憐れむような表情になる。だが、それもわずかの間。真剣な表情に戻った神官の声が優しく響いた。

 

「それが、『婚姻魔法』を結んだものの定めです。あなたは誓ったのでしょう?『死が二人を分かつまで』と。あなたが自ら望んだことなのですよ」


 優しい口調とは裏腹に、その声には有無を言わさぬ強さがあった。


「……あ」


 絶望に包まれ、床に崩れ落ちるヨーク。今度は神官に支えられることもなく崩れ落ちる。彼の目から大粒の涙がこぼれ落ちる。


 神官の話した言葉。ヨークはその言葉の本当の意味を分かってしまったのだ。

 『婚姻魔法』は永遠の愛を誓うような代物ではなく、契約期間を死と定めた隷属魔法の一形態なのだと。

 神官は無言でヨークを見つめている中、部屋にはヨークのむせび泣く声だけが聞こえていた。


読んでいただき、ありがとうございます

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