未来シミュレート
……今から十二年後、この国を震度七の大地震が襲う。その二年前、つまり今から十年後には海溝型巨大地震が発生し、これによって引き起こされた巨大津波で、外国が大きな被害を受ける。八年後、アメリカでテロが発生する。それは今から六年後に再開した中東の戦争の影響だ。四年後、飛行機事故が起き、乗客が――
「……なんか、暗い話ばかりですね」
僕はパソコンから顔を上げ、先輩に言った。
「ははは! それは仕方ない。大きな出来事をピックアップしているからな。大統領選挙の結果とかもあるけどな」
「へぇー、でも、本当に起きるかもしれないって思うと、ちょっとわくわくしますね。不謹慎ですけど」
「おっ、疑ってるのか? こいつめ」
「ちょっと、髪を触らないでくださいよ! そりゃ、先輩の才能は疑っていませんけど、えっと、この未来シミュレーター? 先輩が作ったこのプログラムはさすがにちょっと信じがたいです」
「そうか、ちなみに競馬の結果も出てるぞ」
「信じます。僕を救ってください」
「これは宗教じゃないんだよ。それに、冗談だ」
「でも、先輩なら作れますよね? ね? ね?」
「必死だなあ。馬よりも君は留年の心配をしたほうがいいんじゃないか?」
「心配だからその分、学費を稼ごうと考えてるんですよ。これが僕の未来シミュレートです」
「イジッてくれるね、まったく。ところで、君の出身地は?」
「え、なんですか、急に」
「いいから」
「長野県ですけど」
「よし、と。これで来年、君の地元で大地震が起きるよ」
「何してくれてんですか!」
「はははっ!」
「笑い事じゃないですよ。なに、未来を操作してくれてんですか……。まあ、実際には起きないでしょうけど」
「ははっ、どうだろうね」
「『どうだろうね』じゃ困るんですよ。あくまで、予想でしょ」
「でも、こうやって二十年先までシミュレートしてみると、この国だけじゃなく、地球そのものが老年期に入った気がしてくるなあ」
「ガタガタのボロボロってことですか? えっと十三年後からは……うわあ、悲惨ですね。持ち直すといいんですけど」
「五十年先まで見てみるか?」
「いいですよ。えっと、来年は……うわっ、地震に続いて大型台風まで。それから飛行機事故も……。飛行機事故って確率低いと聞きますけど、結構起きてますね。まあ、人災といえばそうですけど。それから……って消しちゃうんですか!? もったいないなあ」
先輩は僕からマウスをひょいと取り上げ、プログラムを削除した。
「ただの暇つぶしだよ。そろそろ就活に本腰を入れないといけないからな」
「ああ、来年には卒業ですもんね。って先輩、本腰を入れるの遅くないですか?」
「まあ、未来のことを考えるのは難しいということだ」
「綺麗にオチてないですよ」
あれから一年が経ち、先輩のいない大学で、僕はあのシミュレーションのことをよく思い出す。
二週間前、先輩がシミュレートしたとおりに大地震が起きた。そしてその一週間後には台風も発生した。
先輩とは連絡が取れなくなってしまい、もう未来の詳細はわからない。けど、僕は二十年後に自分がどうなるかだけは知っている。
プツッと指一本で虫を潰すかのように、人類は消えてなくなる。
……なんて、留年した現実から目を背けたいだけなのかもしれない。
僕にはそれすら、もうわからない。