偽物
城門から城下街まで階段がある。長いとは言えないが、下からは門兵の位置が確認できなかった。
海斗は家の屋根に飛び乗り、城門前まで一気に跳んだ。
空中で門を眺めてから絶句した。
「嫌な予感は的中したわけだ」
二人の門兵の頭に穴が開いていた。血の臭い鼻に届く。
海斗は城内に突入し、辺りを見渡した。生きている人間はいない。
壁にもたれ掛かる人、首が胴から離れた人もいる。兵士の槍が心臓に突き刺さっている人も。
確実に何者かが侵入している。
海斗は謁見の間に急いだ。国を統治するクルス王がまだ生きているとすればそこにいる確率が一番高いからだ。
謁見の間の扉に兵士がもたれ掛かっていた。当然の如く絶命している。
「クルス王!」
扉を勢いよく開き、中の様子を見た。人間に似た姿をした何者かがクルス王の首に鋭い爪を添えていた。
「んだよ。煩いな。静かにしないと殺すぞ?」
肌が黒く、耳が尖っている。額についた第三の目が人間ではない、と海斗に思わせた。
「王様、俺はさ〜、あれの居場所を吐けば命は助けるって言ってるんだぜ?」
(あれ……?悪魔の涙か?)
クルス王は何も言わず首を横に振った。その瞬間、うっすらと笑った悪魔がクルス王の右腕をちぎった。
「あっああぁぁぁぁっ!!」
痛みに耐え切れずにその場でのたうちまわるクルス王。悪魔がちぎった右腕を放り捨て、クルス王の背中を踏み付けた。
「次は頭を潰すぜ?三秒待ってやる」
海斗は扉の近くで動けずにいた。動けば確実にクルス王は殺される。
「さ〜ん」
クルス王を踏み付ける足に力が入る。もがくことさえ許さなかった。
「に〜〜い」
「わかった!言う!」
クルス王は汗をダラダラと流しながら痛みに耐え、左腕で身体を起こした。右腕からは血が止まらない。
まだ止血すれば間に合うかもしれない。魔法で傷口を凍らせたり、焼けば血は止まる。
「はぁはぁ……この城の…真下にある」
悪魔は急に顔色を変え、クルス王の右足を切断した。そして首を掴み、顔を近付けた。
「カモフラージュのつもりか?偽物なのはわかってんだよ。その偽物の死体は地下に転がってる。だから俺様がわざわざ拷問しに来てんの。どこに隠した?」
クルス王は唾を呑んだ。
「い〜ち」
「クルスタワーの地下」
それを遠くから聞いた海斗の顔が真っ青になった。あそこにはミーアがいるはずだったから。
「遅いんだよば〜か」
クルス王の首が飛んだ。悪魔は海斗の方に首を向け、快感に浸っていた。
「人間を殺すのは最高だぜぇ。お前はてこずりそうだから後でじっくりねっとり相手してやるよ」
手についた血を舐め、翼を広げて窓から飛び出した。羽ばたかせ、クルスタワーに向かう悪魔を海斗は追い掛けた。