予感
数分ごとに海斗の財布からお金が減っていく。そのつどため息をつきながら財布な視線を落とした。
「食べるなとは言わないけどさ。もうちょっと抑えない?」
ミーアは饅頭を両手に持ち、一つを口にくわえている。おいしそうに食べるから気分は良かった。
「ほんはにお金ははった?」
「飲み込んでから喋りなよ」
数回噛み、飲み込んでからもう一度言った。
「そんなにお金かかった?」
「それなりにね」
本当のところ、まだまだ余裕がある。遠慮してほしいのが本音だった。
護衛だがミーアの財布になった覚えはなかった。
それから数分後、大牙が壁から壁へと跳び移りながら海斗を捜していた。
市民から歓喜の声を浴びながら、汗をかいて捜した。
「いた。海斗!」
見つけると海斗の目の前に飛び降り、息を整えた。海斗は嫌な予感が頭を過ぎった。
「東西にある砦が魔物の大群の襲撃を受けてるらしい。統率のとれた……な」
「統率?誰かが指揮してるってこと?ありえない」
「とりあえず加勢に行がないとまずい!」
海斗は右手を強く握った。血が出そうな力強さで。ミーアにクルスタワーに行っておくように頼み、海斗と大牙は東へ動いた。
西には他の仲間が数人向かっていると大牙から聞いた。
「クルス王国の中に入れるわけにはいかない。片っ端から消していくよ」
魔力を足に込めて身体能力を向上させ、砦に急いだ。大牙もそれに続く。
到着した時、魔物の臭いより人間の死臭の方が強かった。明らかに数負けしている。
「どこから来たよ?こいつら」
「どこでもいいよ。やるよ」
砦にある防壁の上で二人は大剣を構えた。上から銃を撃っていた兵士たちに遠くの魔物を撃つように指示し、魔物の大群の中に身を投じた。
魔物と違い、一発でも急所に喰らえば致命的な傷を負う。スリルの中、大牙と海斗は大剣で命を奪い続けた。
「数が多すぎる!」
海斗は愚痴をこぼしながら大剣に魔力を流した。緑色の光を放った。
「風牙!」
大剣を振ると衝撃波が発生し、複数の魔物を切断した。
指輪を大剣に変化させ、二本目にも魔力を込める。
「大牙!跳べ!」
大牙は頭上に跳び上がった。海斗は目で確認し、その場で回転を始めた。
衝撃波がいくつも発生し、魔物が次々と絶命していく。
何度か繰り返すと魔物は四分の一まで数が減っていた。
「海斗!後は俺がやるから西に行け!」
「頼んだ!」
大剣をしまい、クルス王国の中を突っ切る。途中であることに気づいた。
「非常事態なのに何で皆外にいる?」
普通ならば兵士が避難させるか家に居させるはずだった。にもかかわらず、市民は外を歩き回っている。
クルス王にも魔物が攻めてきているという話は回っているはず。
「海斗!」
声に振り向くと同じギルドのメンバーが近づいてきた。
「樹里!君も来てたの!?」
海斗は樹里という女の子に信頼をおいていた。大牙と同じくらい。
「うん。今から西の砦に向かうところ」
海斗は口許に手を当てた。頷いてから樹里の肩に置く。
「西が終わったらすぐ城に来て。嫌な予感がする」
「わかった。じゃあ仕事終わったらまた……ね?」
「たまにはゆっくりするのもいいね」
樹里はくすっと笑った。いつも大牙と一緒にいることを知っている。
苦労してそうな海斗に隠れて想いを寄せていた。
今の目標は大牙のポジションを奪い、海斗の隣にいることだ。
そんなことはいざ知らず、樹里を見送ってから海斗は城に向かった。