我が儘な王女様
門兵に話をつけ、二人は城の中に入る。中を真っすぐ進み、中央階段を上がっていく。
人は少なく、入り口の門兵を含めて数人しかいない。海斗はクルス王がどこにいるかを聞き、謁見の間に向かった。
「パパ、だから護衛は要らないってば!」
謁見の間に入ら直前、中から声が聞こえた。女の子の。
「私はお前が心配なんだ。頼むから言うことを聞いてくれ」
落ち着いた声。恐らくクルス王だろう。険悪な雰囲気が中にある。
「タイミング悪かったな!護衛拒否られて」
大牙はものすごく嬉しそう。頭の中で王女を美化していた。見たことはないが、大牙の中では美女となっている。
「拒否られても仕事だし。我慢してもらわないとね」
海斗は謁見の間に入るための扉をノックした。
「入れ」
クルス王らしき声を聞き、扉を開けて一礼した。
「あ、海斗!」
頭を上げるとクルス王の隣にミーアが驚いたように海斗を凝視していた。
「ミーア?」
驚きつつ、海斗と大牙はクルス王の前まで歩いて行く。大牙が冷やかすように海斗を肘でつっついた。
「こりゃ運命だな。良かったじゃん」
ミーアと会えたのは正直少し嬉しかった。護衛は要らない、と言っていたことが心残り。
海斗と大牙がクルス王の前で右膝をついた。王に敬意を表している。
「そう堅苦しいのはいい。依頼内容は聞いているかい?」
「王女の護衛と、国を守る……ですよね?表向きは」
クルス王は頷く。いきなりミーアがクルス王の肩を揺すった。
「パパ。護衛ってこの二人?」
「ああ、それは海斗がするんだ。俺はサポートに回るから」
大牙が恐れ多くも口を挟んだ。ミーアは嬉しそうにはにかんだ。
「……だそうだ。ミーア、後で海斗くんを部屋に案内させるからとりあえず戻りなさい」
「わかった!」
ミーアが海斗と大牙の後ろの扉から部屋を出ていった。
「とりあえず、現状の説明から。最近は魔物からの攻撃も少なくてな。市民は安心してる。だが、悪魔の涙の封印を施せる人数を集めるのに手間取ってるんだ」
海斗には悪魔の涙を封印するのに必要な人員は知らされていない。この依頼が終わるのにいつまでかかるかはわからなかった。
「封印が終わるまで一ヶ月はかからないと思う。人数もあと少しでな。それまでは臨機応変に頼む」
結局、魔物が来たら退治する。ミーアの護衛をするという単純な依頼だと理解した。
「では失礼します」
一礼して立ち上がる。クルス王の側近が海斗をミーアの部屋に連れていくことになった。
「俺は遊んでくるから。闘いになった時、そこで。用があった時でも呼んでくれていいぜ」
と、言い残してどこかに消えた。多分、ナンパだと思う。
海斗はそれから謁見の間から歩いて二分の部屋の前まで歩かされた。
目の前にある部屋がミーアの部屋らしい。海斗はノックして扉を開いた。
「海斗だぁ!」
扉のすぐ近くで待機していたミーアは海斗に飛びついた。
「ミーアって王女様だったんだね。知らなかったよ」
「苗字はクルスって言ったよ?ほとんどの人は知ってると思ったし」
ミーアは身体を離した。海斗が扉を閉めた。
「俺が護衛につくけど、問題ある?」
「ないよ?知らない人だったら嫌だけど、海斗は一応知り合いだもんね」
知り合ったの少し前じゃん、とは言葉にしなかった。護衛と言っても、一日中ついているわけではない。
個人の時間もちゃんとある。
「ミーア、面倒なことが起きたらこの部屋か、クルスタワーの頂上に行って。その二カ所をまず捜すから」
あくまでも緊急事態の時だ。クルス王国がどうなるかは海斗にもわからない。
「わかった。じゃあちょっと城下街に行こう!」
「え?ちょっと……」
海斗の手を扉を開いて走り出した。城門にいる門兵が驚いた様子でこちらを見ていた。
「いいのか!?これ!」
「いいのいいのーー」
海斗の抑止を振り切り、城下街を歩き始めた。ため息をし、空を見た。
大きな翼を羽ばたかせながらクルス王国を旋回している大きな鳥が飛んでいた。翼を広げる姿はだいたい三メートルはありそうだ。
「何だろ……でかい鳥」
太陽の光が眩しく、目を少し閉じた。
「海斗?どうしたの?」
「何でもないよ」
顔をすぐミーアに向けて首を振った。
飛んでいた鳥は城の屋上に降りていった。