迷子探しの板
海斗とミーアは螺旋階段を登っている。壁にはランプが設置してあり、薄暗いながらも照らしていた。
クルス王国の象徴の一つで城の隣に建てられた通称『クルスタワー』だ。
ミーアがオープンカフェから向かった場所がここだった。
「頂上までは五分くらいかな?」
頂上からは城下街を一望できるらしい。クルスタワーはこの階段があるため利用する人が少ない。
「毎回この階段を登るのはしんどいからね。俺もたまに来れればいいや」
闘いに慣れている海斗にとって、階段など苦にはならない。
無駄な物は基本身につけていないから身軽なのだ。
「あ、そろそろ頂上だよ!」ミーアが軽い足取りで階段を駆け上がっていく。海斗も小走りで追い掛けた。
屋上の扉を開いて外に出ると青い空が目の前に広がった。
「凄い。高い所から見るのは違った景色が見れるね」
「でしょ!?やっぱり高い所っていいよね〜」
ミーアが手摺りに手をつき、下を見下ろす。
「海斗、あれ何かな?」
海斗も隣でミーアが指差した場所を見た。大牙が板を掲げていた。
『迷子を探しています。海斗というイケメンです。髪は黒く、指輪を二つ付けています』
見て身体が固まった。怒りが込み上げてくる。ミーアが苦笑いして海斗を見た。
「海斗のことだよね?」黙って頷く。今気づいて良かったと思う。長時間されてたらたまったもんじゃない。
「ミーア、先に下に行ってるよ。下の入り口で待ってて」
返事を聞かずに海斗は走り出した。螺旋階段を一気に駆け降り、クルスタワーの扉を開く。
「うわ、速っ」
ミーアが階段を下りながら扉の開く音を聞いた。急ぐように駆け足で下り始めた。
海斗は道の真ん中にいる大牙にドロップキックをかます。壁にたたき付けられる大牙を見向きもせず、奪い取った板を粉砕した。
大牙がぶつかった壁のコンクリートが少し剥げている。が、大牙は気にせず立ち上がり服を叩いた。
「魔力で肉体強化してなかったら怪我じゃ済まないぞ!」「俺はお前以上に迷惑してたんだけど?それについて謝る気はないの?」
粉々に粉砕され、地面に散らばった板の破片を指差しながら大牙を睨む。
「あははは……すいませんでした」
深々と頭を下げた。道の真ん中で。
「海斗〜!はぁ、はぁ。やっと追いついたよぉ」
ミーアがクルスタワーから息を切らしながら走って来た。即座に大牙は反応し、ミーアの前で右足の膝をついた。
「一目惚れしました。結婚してください」
「あたし、軽い人には興味ないの」
一蹴し、海斗に近づいた。大牙の心は石のように固くなった。
頭の中で「軽い」という言葉が幾度となく繰り返される。
大牙にとってナンパは出会い頭の挨拶に過ぎない。相手がノリでOKしてくれれば先がある。
ほとんどの女性は無視や拒否をする。大牙も軽い人には興味がなかった。
見た目でチェックし、ノリでOKせず、なおかつ考えて付き合ってくれる人を目下捜索中なのだ。
「海斗ならいいんだ……」
「大牙、城行くよ」
立ち上がり、大きな溜め息をついた。
(この世の人間をもっと平等にするべきだ)
「じゃあ、あたしは別行動するね!海斗、またね!」
「ああ」
「がーーーん」
ミニスカートを翻し、人混みに消えていった。
「野郎二人の何が楽しいんだ……」
「先行ってるから、早く来いよ」
大牙に一声かけ、海斗はクルス王国で一番でかい建物の城に向かって歩き出した。