ミーア
城下街では人々が行き交い、買い物やデートをしている人々がいた。
「すっげー!初めて来たけど、クルス王国っていいな!」
大牙が海斗の隣から動き、人混みの中に紛れていく。
「大牙はほっとくとして、何か食べるかな」
大牙に見つからないように動き、近くのオープンカフェに入った。
ホットサンドとコーヒーを注文し、席に座った。
「海斗どこだぁぁぁ!!」
海斗の身体がびくっと震えた。大牙が人混みのど真ん中で名前を呼んでいた。
迷惑この上ない行動だった。この時、海斗は心の中で決めた。
(絶対に俺は返事しない)
恥ずかしかった。自分の名前を呼ばれることが。文句を言ってやりたかったが、我慢した。
「お待たせしましたぁ!」
女性の店員がホットサンドとコーヒーを海斗の前のテーブルに並べた。
「ありがとう」
微笑みかけ、海斗はホットサンドを食べ始めた。一口目を噛み終わり、コーヒーで流し込む。
コーヒーをテーブルに置くと向かいの席に知らない女の子が座っていた。
「君……誰?」
「ミーア=クルス。ちょっとここにいてもいい?疲れちゃって」
「いいけど」
海斗を見つめるミーアの視線が気になった。海斗は一枚のホットサンドを皿ごとミーアに渡した。
「どうぞ。俺はもう要らないから」
「そう?じゃあ遠慮なく」
もちろん嘘だ。二枚ではまだ食べ足りない。でも我慢できない程ではない。
大牙に街中で名前を叫ばれるより随分マシだ。比べるだけ無駄。
ミーアの食べる姿を凝視するのも悪いと思い、目を逸らす。
コーヒーを一口飲んでからミーアが食べ切るのを待った。
両手を合わせてごちそうさま、と小さく会釈。海斗はそれを見て黙って頷いた。
「じゃあ、俺はそろそろ行くよ」
コーヒーを飲み干して席を立った。ミーアも同時に立ち上がり、海斗の隣に立つ。
「少しついてってもいい?退屈で」
ミーアはブロンドの長い髪を自分の手で撫でる。ミーアのミニスカートがよく似合う女の子だな、と思った。
「途中までだよ。後で城に行かないといけないから」
「城に?何の用事?」
首を傾げてミーアは尋ねた。海斗は頭を手で掻いた。
「内緒」
隠す理由も無かったが、言わないといけない理由もない。
海斗は人の流れに合わせ、とりあえず城下街を見て回ることにした。
歩き始めると海斗の左腕にミーアが抱き着いてきた。
「こうしないとナンパされちゃうの。ほら、あたし可愛いから」
会って数分の男に抱き着くのはどうかと思ったが、言葉にしなかった。
代わりに溜め息をついた。
「えっと、名前何だっけ?」
「赤坂海斗。海斗でいいよ」
「海斗はいい人そうだから。あたしの勘は当たるんだ〜〜」
それが抱き着いた理由らしい。誰にでも抱き着くようならまず、親の顔が見てみたいと思った。
「それでどこ行くの?」
「決めてないけど、とりあえず動こうと思ってね」
海斗がそう言うとミーアは海斗の左腕を離し、手を掴んだ。
「案内するよ!お礼もしたいし」
「お礼?」
「ホットサンド!」
ああ、と理解する。少しお腹が空いた。