ドライ
西の砦に樹里はいた。死神が持つような黒い大きな鎌を両手で持ちながら一品の魔人を見据えていた。
「俺ってばチョーついてる!」
「はい?」
ガッツポーズをとる、その理由は樹里には理解出来なかった。
「だって相手がそこら辺のダサい男だけじゃないんだぜ?お前、俺っちのペットになれよ」
魔人が指差したのは樹里本人だ。数人のウィザードの魔法使いと無数の兵士を無視し、樹里のみに話しかけた。
「お前の相手は俺たちだ!」
ウィザードの二人が魔人に切り掛かる。魔人の目はその二人に見向きもせず、樹里を見詰めていた。
「無視すんじゃねぇよ!」
「うるさいなぁ。俺っちの邪魔すんなよ」
魔人の黒い片翼が魔人に巻き付き、何かに吸い込まれるように消えた。
次の瞬間、魔人は通り過ぎたウィザードの二人の後ろに現れた。
「お前ら二人は見物してな」
魔人の右手から黒い鞭のような物が伸びた。二人が振り向く寸前に両足の腱に鞭を巻き付けた。
巻き付いた部分が赤く燃え上がり、腱を焼いて行く。
「あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」
悲鳴が兵士の耳にも届き、誰かが最初に逃げた。その場にいるのが怖くなったのがわかる。
その一人に続いて全員が逃げ出した。
「腰抜けが多いな。まぁ、あいつらは後で殺しとくか」
鞭を消し、逃げた兵士を見下す。残ったウィザードは樹里ともう一人。
女の子で足が震えていた。魔人の近くで悶える仲間のように自分もなるのではないか?
そういう恐怖心が足を震えさせた。
「御主人になる俺っちの名前はドライだ。お前は生きたまま捕獲して調教して、俺っち好みのペットにする」
「悪いけど、そんな趣味ないから!それに海斗以外の男に興味ないし?」
今どこかにいる海斗に向けてこの気持ちが届くように両手を合わせ一瞬願う。
「光縛」
同時にそう呟いた。ドライの足元から白い鎖が現れ、ドライ本人に巻き付いた。
「ちょっ!待て!」
「待たない。気持ち悪いもん」
黒い大鎌でドライの首を刈り取った。指をぱちん、と鳴らす。
白い鎖がドライの胴体を締め付け、ばらばらの肉片に変えた。
緑色の血が周りに垂れ、臭い臭いが広がる。樹里は一目散にその場から離れた。
「海斗はどこかなぁ〜」
とりあえず、海斗に言われた城に向かうことにした。