海斗と大牙
砂漠の中を二人の男がゆっくりと周りを警戒しながら歩いていた。
「大牙、下にいる気がするんだけど」
「海斗もか?」
地面がぐらぐらと揺れ、二人の真下から石でできた腕が上がってきた。
左右に跳び、上がってくるのを待った。
「標的か?」
大牙が聞くと海斗がポケットから二つ折りにされた紙を開いた。
「'ロックゴーレム'。合ってるよ」
背中に背負った大剣を大牙は前に構えた。
「んじゃ、さっさと終わらて帰るべ!」
紙をポケットに戻し、嵌めていた指輪が二つの銃に変わった。
「そうだね」
「今回は双銃か?」
「大牙が頑張ってくれそうだし」
「OKOK。俺が頑張ればいいのな」
大牙は砂の地面を蹴って走り出した。ロックゴーレムの右のストレートをかわし、その腕に大剣を切り上げた。
「かってぇ〜〜!」
「石で出来てるんだから当然だよね」
海斗はロックゴーレムの右肩に跳び乗り、肩の関節を狙って双銃を連射するために構える。
銃口からは赤い弾丸が放たれた。
「大牙!そこどいて!」
二人はロックゴーレムから距離を取る。放たれた赤い弾丸は肩にめり込む、停止していた。
「3、2、1………」
ロックゴーレムの右肩が爆発し、腕が砂の上に落下した。
「海斗、意外と頑張ってないか?」
「そんなことないよ。ほら、さっさと倒す!」
「はいはい」
大牙が持っていた大剣が炎を帯びる。その炎は刀身よりも長く伸びた。
「切れ味は悪いけど、焼き尽くしてやるよ!」
大牙はロックゴーレムの身体を炎で切っていく。だが切断しているわけではない。
切られた場所は少しずつ溶け始めていた。
ロックゴーレムの攻撃をかわしながら切った跡を残していく。
「そんな単調な攻撃じゃ当たんないね!」
大牙はロックゴーレムの背中から炎を伸ばし、突き刺した。
「炎陣」
炎がロックゴーレムの全身を包み込んだ。抵抗するように左腕を振り回すが、大牙には当たらない。
海斗は深呼吸し、地面に両手をついた。
「手伝うよ。風陣」
周りの炎が風でロックゴーレムに回転しながら押し付けられていく。
数秒後、ロックゴーレムは燃え尽き、焦げた身体の一部だけが砂の上に転がっていた。
「任務完了っと」
大剣を背中に戻しながら海斗の側に寄って行く。
「そうだね。じゃあ戻ろうか」
砂漠の中を二人は歩き、来た道を戻りはじめた。数日後、二人はギルドという場所に辿り着いた。
「マスター、終わったぞ〜!っていないし」
ギルドの中には酒を飲む人と談笑してる人、踊ってる人がいた。
二人が向かった先は入口からまっすぐ歩いた場所にある受付。
「ロックゴーレムの依頼、完了しました」
海斗がそう言うと受付は机の下から紙を出し、ペンを渡した。
海斗がそこに記入し、それで正式に依頼が完了したことになる。
「ねえ、お姉さん。後で一緒にお茶なんてどう?」
空気を読まない男、大牙がナンパを開始した。
「海斗さんが一緒ならいいですよ?」
「俺も?……いつかね」
「だそうです」
「海斗、ちょっと身体交換しようぜ?ナンパしてくるから」
「無茶言うなよ。はい、終わりました」
紙とペンを返し、受付が確認すると報酬が入っている封筒を手渡された。
「お疲れ様です。それと、二階でマスターが呼んでいましたので向かって下さい」
「わかった。ありがと」
「海斗、他に言うことはないのか?今日も綺麗ですねとか、デートしてくだぐおぉぉ……」
海斗のチョップが大牙の頭にヒットし、うずくまった。
「ここ数日間、初めてのクリーンヒット……」
自分の頭を優しく摩りながら階段を上がって行く海斗の後ろをついて行った。
「海斗と大牙!待ってたぞ!ガハハハハッ!」
酒を片手に、書類を片付けている男がいた。
「マスター、話は何で「また酒飲みながら仕事してほぐぅっ!……何で!?」」
今日二発目のチョップは胸に入った。
「実は頼みたい依頼があってな。半端なやつには頼めないような依頼だ」
マスターの顔は仕事の顔に戻った。見るとまだ酒瓶の中身はほとんど減っていなかった。
「その依頼内容は何ですか?」
マスターは紙を一枚ずつ二人に配り、話を続けた。
「内容はクルス王国の王女の護衛。まあ、付き人だ」
付き人?
「それならクルス王国の兵士にやらせればいいんじゃねえの?」
大牙がそう言うと海斗は頷いた。マスターも深く二度頷いた。
「俺もそう思ったんだ。だが、話を聞いて考えが変わった。内容は王女を守るとあるが、クルス王国の全てを守れ」
「クルス王国の全て?全市民を守れってことですか?さすがに無理です」
海斗は紙をマスターの机に置いた。
たった一人の護衛ならできる自信はあった。相手が王女でも粗相のないようにすればいい。
でも今回の依頼はそんなレベルではない。
「何人か頼りになるやつには声をかけてある。二人だけに頼むつもりじゃない。そして、半端なやつに頼めない理由をまだ言ってない」
少し緊張気味の大牙と海斗はマスターの言葉を待った。
「クルス王国の城の地下。ある物が大切に封印されている。…………'悪魔の涙'」
「悪魔の涙?何それ?」
大牙は海斗に顔向けた。首を横に振り、知らないと返す。
「クルス王国にはないが、他に'悪魔の腕輪'という物がある。この二つが破壊されると、闇がこの世界を包み込むと言われている」
「責任重大ね。何で今、それが狙われるんですか?」
「封印が弱くなってるんだろうな。魔物が無意識にそこに向かってるんだ」
「封印をかけ直すまで魔物を討伐し続ける。それが今回の依頼ね。王女の護衛の理由は?」
大牙にちょっとした疑問が浮かんだ。今回の依頼はクルス王国を守ることが最重要。
王女の付き人までする必要がわからなかった。
「王女はわがままで、たまに城を抜け出すんだ。年も近いし、海斗なら面倒見れると思ってな」
「俺は!?」
「大牙はナンパばっかしてるから頼めないな」
大牙は持っていた紙を床に落とし、膝をついた。
「急ぎで悪いんだが、今から向かってもらいたい」
「了解です。大牙、行くよ?」
一礼して海斗は階段を降りて行った。
「大牙、お前が海斗を支えてやってくれ」
「わかってるよ、マスター」
膝についた埃を叩き、海斗を追った。
海斗はゆっくり歩いて大牙を待っていた。近くの駅まで進み、列車に乗り込む。
乗り込んでから数分後、列車は動き出した。
「海斗、悪魔の涙ってどんな形してるか想像できるか?」
壁に寄り掛かり窓の外を見ていた海斗は視線を大牙に変えた。
「涙って言うくらいなんだから、水晶みたいな感じだと思うよ。実物は多分見れないだろうし」
「見せてくれって言って見られるなら守るように頼まないしな。俺らは外の警備だけかぁ……」
大牙はため息をつきながら目を閉じて眠ろうとした。
(魔物を狩るだけで済めばいいんだけどね)
今回の依頼に、嫌な予感がしていた。