第2話
夜が明け敵の攻撃がやむ頃、俺は仲間と合流しようと味方陣地にある救護所へと向かった。
先の上官とは別の、俺の分隊の連中が居ないかと探したが……そもそも探すこと自体が困難だ。
「ああ神よ」
「いてぇ……」
「あっはっはっはっは!! 最高だよ!!」
味方陣地の中は負傷した兵士のうめき声と、それらの兵士を治療するために走り回る軍医でごった返していた。
仲間の姿を確認しようにもこう人数が多くては分かりっこない。
「なんてこった! 煙草屋だ! 生きてたか!」
どうしたものかと遠巻きに眺めていると聞きなれた声が聞こえてきた。
振り返ってみると機関銃を担いだ中年の男が立っている、ちなみに煙草屋ってのは俺のあだ名だ。
軍の同期で名前はモーゼス、短足胴長で汚い軍服に身を包み、黄色い歯を見せて笑っている。
「モーゼス! よくもおいてってくれたなこの野郎!」
俺は嬉しさで一杯で、煙草と血の臭いが酷いモーゼスに抱きついていった。
「砲弾でてっきり死んじまったかと思ったぞ。ピクリとも動かねぇんだからな」
「目が覚めたら地獄だったよ。ところで他の仲間は?」
俺の言葉に、モーゼスは黙り込む。
「……分隊長と俺だけさ。生きてるのは。他のは撃たれたか吹っ飛ばされた」
「……そうか」
死体はあそこだろう、モーゼスは塹壕の方角を指差して言った。
回収しに行ってやりたい気持ちはない。
あんな地獄に戻るのは御免蒙る。
「分隊長はどこに?」
「今補充要員を確保しに行ってる。もうちょいで戻ってくるさ」
「補充……ね」
正直まともな人間が来るとは思えない、近頃ペイル軍は学生は勿論女まで戦場に投入している有様だからだ。
まぁ女はせいぜい後方で衛生兵代わりに配備されることが殆どだが。
などと思っていたらこちらに向かってやって来る見慣れた男に気が付いた。
血で汚れた軍服に身を包んだ栗色の坊主頭の男、エリアン軍曹、隣に女を連れてこちらに近づきながら驚いた表情をしている。
「一等兵! お前生きていたのか!」
「ええ生きていましたとも。エリアン軍曹」
モーゼスと同じ反応をしてきた、正直この反応には飽きてきたから違う反応が見てみたいもんだ。
「……その子が補充ですか?」
「ああ、アヌック一等兵だ。訓練ではそれなりの成績を叩きだしたそうだ。仲良くするようにな」
隣の女に視線を向けてみる。
なるほど綺麗な顔をしている、軍服はまだ戦闘をしていないお陰かピカピカだ。
まぁ死んだ奴のものを洗濯しただけだろうが。
金髪に青い瞳のお嬢さん、背丈は俺と同じくらい、お胸が小さくて要らん劣情を抱かなくて済みそうだ。
「アヌックね……言っとくがここにはお化粧道具も風呂もドレスも無いぞ。やっていけそうか?」
ちょっと意地悪をしてみたくなった。
そして俺の言葉にアヌックは笑いながらこう返した。
「兵士に必要なものはタマです。貴方にはありますか?」
アヌックの返答に、隣に居たモーゼスは噴き出した。
「ブフォッ……い、言われてんぞ煙草屋っ」
「黙ってろよモーゼス。だがいい返事だ。気に入ったよ」
こめかみを引くつかせながら、俺とアヌックは握手を交わした。
これで俺達の分隊は完成。
堅物なエリアン軍曹、煙草好きなモーゼス、毒舌のアヌックに俺、この分隊でアールスの地を攻略しながら、弟を探さなくてはならない。
不安要素の塊だった。