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6吠える乙女

誤字報告に感謝します。

これからもよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。


ジョディはテーブルの上の封筒を取ると中から書類を取り出して私の前に並べていく。

書類はそれぞれ綴じられていて全部で3つ。


それぞれの書類の表紙には、ブランドンと父と母の名前が書かれている。


「これが、キャロの婚約者と男爵夫妻の調査報告書だよ。ひとりで読みたい? 」


「よかったらジョディもいてくれる? 気が付いたことがあれば、すぐに相談したいから。」


「ん。じゃあゆっくり読んで。なにかあったら声をかけてね。」


ジョディはそう言って私の右手側の一人掛けのソファに沈み込んだ。


本当はひとりで読むのが不安だった。

もしかしたら心が痛すぎて途中で読むのをやめてしまいたくなるかもしれない。

でもジョディがいてくれたら心強い。きっと最後まで読みとおせる。


ふぅと息を付くと、まず私は『ブランドン・カーシー 身上調査報告書』と書かれている束を手に取る。

1枚目めくると次のページは目次で、出生、学歴、職歴、財政状況、交友関係などの項目がずらりと並んでいる。


どこから読もうかと考えていると、書類のところどころから細長い紙片が飛び出ているのに気が付いた。


「これ、付箋よね? 」


「うん。全部読むのもいいけど時間がかかるでしょう?

 とりあえず大事なところには印を付けておいてもらったんだ。」


「助かるわ。」


ドキドキしながら付箋の貼られた最初のページを開く。

付箋のページを読み、終わった次の付箋が貼られたページへと次々と読み進めていく。

付箋は私に関わる情報の箇所に的確に貼られていた。

たしかにどのページも私にとって非常に重要な情報ばかりだが……。


もしこれが小説だったら面白く感じただろう。だけど私は全然面白くなかった。

読んでいる間中、手が震えたり、頭が痛くなったり、顔が真っ赤になったり、逆に真っ青になったりした。


付箋のついた書類を一通り読み終わった私は深く息を吸うと大きなため息をついた。


「あのね、ジョディ。」


「うん。」


「婚約破棄するわ、私。」


「ぷっ! とりあえず婚約破棄の理由を教えてくれる? くぅっ……。 」


さもいま思い付いたかのように真顔で婚約破棄宣言する私が面白かったのかジョディが噴き出した。笑い堪えて肩を震わすジョディをちらりと睨むと、私は口を開いた。


「いいわ。

 まず、ブランドンは優秀な成績で王立学園を卒業したと聞いていたけど、実際は素行不調が原因で退学になりかけたこと複数回。

 最後の退学騒ぎのときはブランドンのお父様のカーシー子爵が匙を投げ、学費の支払いを止めてしまったためブランドンはあと1歩で本当に退学になるところだった。


 それを止めたのがお父様。

 ブランドンの学費を卒業まで支払う代わりに私との婚約を承諾させたんですって。

 学費の代償が私との婚約っていうのはすっごく気に入らない。

 これだけでも彼への温かい気持ちが消し飛んだわ。


 でね、お父様の金銭的援助でブランドンは無事卒業できた。

 素行は悪かったけど成績は悪くなかったのね。

 一応、卒業試験の結果は優秀よ。」


意外ではない。父の商会で働くブランドンの業務評価が高いと聞いている。

理解も早いし機転も利くそうだ。

たしかに博識だし説明も上手だ。

私もブランドンは頭がいいと思っていた。


「でもね、ブランドンの頭がどうであれ 問題は………彼の下半身だわっ!! 」


「ぶふっ! 」


再びジョディが噴き出す。

ジョディの前では上品ぶる必要がないからどうしても素がでてしまう。

それを知っるいるせいかジョディも遠慮がない。

笑いを堪えて体を震わせているジョディを無視してつづける。


「学生時代から女性との交際が途切れないことで有名。

 同時期に複数人と交際したこともある。

 退学騒ぎのおもな理由が学園内での風紀紊乱ふうきびんらんだというから呆れるわ。


 私と婚約してからも、少なくとも6人の女性と交際。一晩かぎりの相手だと数え切れないみたいね。

 ほらやっぱり下半身に問題があるとしか思えない!

 で、最新のお相手が商会ギルドの受付嬢のクレアさん。

 きっとあのパーティーのひとね。


 調査員がブランドンの昔の彼女に聞き込み調査をしたところ、皆、ブランドンに婚約者がいることを知っていたんですって。

 婚約者がいる男性と交際するその女性たちにも言いたいことは山ほどあるけどっ、他人だし会う機会もないから無視するけどっ、本当に頭にくるわっ! 」


言葉にしているちにだんだん興奮してきた私はがばっとソファから立ち上がると、丸めた書類を片手で握ってぶんぶんと振りながらまくし立てた。


「でねっ、ブランドンは婚約者、ようは私のことをね!

 相手の親から持ち掛けられた契約結婚だから愛情はないって吹聴していたんですって!

 しかも婿入りさえしてくれたらあとは自由にしてもよいことになっているから、愛人にならないかと誘われた人いたって……!!

 馬鹿なのっ? 馬鹿よね!? ああ、やっぱり頭も悪いわねっ!


 ブランドンがその元彼女たちに私のことをなんて言ってたか……悪かったわね!

 色気もないお子様で地味で平凡でちょろくて色気がないって、ああもう!

 そんなに色気が大事なのっ!?

 15歳の私にそんなの求めないでよっ!


 結局、私がパーティーで聞いた会話が全部事実だってよーくわかった!

 もう破棄よ、破棄! 婚約破棄決定よ!


 こんな、こんな…… “契約書の写し” まであるんだから!

 婚約破棄されても文句は言えないでしょう!? 」


そう。

おどろいたことに、父とブランドンが交わした契約書の写しまで添付されていたのだ。

契約書まで見つけられる調査員の優秀さに驚きだ。


契約内容は学費の援助からはじまり、婚約期間中及び結婚後にブランドンへ支給される毎月の支援額や、私との婚姻関係を継続できるならブランドンの行動には基本的に関知しないことなどが記載されている。


契約書によれば婚約期間中の現在もブランドンには少なくない額が支給されている。

結婚後の支給額は毎月のお小遣いにしては大きすぎる額だ。

ちなみにこれらのお金を生み出しているは、私が提供した "アイデア" があってこそだ。


「私にくれたプレゼントをそのお金で買っていたかもって思うと、嬉しがったのが馬鹿みたい!

 それに結婚後のブランドンの行動には関知しないって、そんなのブランドンの下半身が黙ってるわけないじゃないっ!

 もしそのことを知っても、苦しむのは私だけよね。


 だってお父様もお母様もブランドンに味方するだろうから!

  結局私が我慢して終わりよねっ!

 ここまでして私を男爵家に縛り付けることを考えていたなんて、本当に驚きだわ! 」


私に対する父とブランドンの考えを知ってショックを受けたけど、悲しい気持ちよりも圧倒的に怒りの感情でいっぱいだ。

散々吠えてふぅふぅと肩で息をする私に、ジョディは笑顔を向けた。


「うん。婚約者については婚約破棄でいいと思うよ。

 証拠が揃っているから破棄するのは簡単。

 慰謝料だって取れるよ。」


「慰謝料で揉めて、婚約破棄まで時間がかかるほうが嫌だわ。」


「取立てのプロに任せたらきっちり取立ててくれるよ。

 いざとなったら借金奴隷にするから取りはぐれないし。」


「わぁ……じゃあ、そうしようかしら? 」


「うん、了解。」


ジョディがニヤリとして親指を立てる。


『お父様に命令されて仕方なく婚約した気の毒なブランドン。一緒にして楽しかったし、穏便に婚約解消で。』と思っていた気持ちは木っ端みじんとなって、その辺に散らばった。

でも拾い集めるつもりはさらさらない。


だって私にはもう不要だから。

そのまま朽ちてしまえばいい。

乙女の純情を弄んだ罪を償わせてあげる! 首を洗って待ってなさいっ!!

お読みいただき、ありがとうございます。

誤字やおかしな表現がありましたらご指摘ください。

よろしくお願いします。


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