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6/22

5背中を押される

誤字報告に感謝します。

これからもよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。


院長に折り紙を破かれた日も雨で、雨漏りと外に行けないのとお金を取られたのでむしゃくしゃしていた。


だから、外出先から帰ってきた院長にお金を返せって言いに行ったんだ。

でも院長は、私から取り上げたお金で買った酒を飲んでご機嫌で私に言った。


『そのうちお前は俺に感謝する日がくるだろうさ。』


『そんな日は絶対に来ないわ! 』


『ふふん、今度の視察が楽しみだなぁ。』


そこまで言って院長は鼾をかいて寝てしまった。私は取られたお金を取り換えそうと院長のポケットを漁ってわずかばかりの釣銭をちょろまかしたような気がする。


ああ。その何日かあとで男爵夫妻が視察に来て、それって、私が引き取られた日だった、かな?


うんきっとたぶん……そう……。




私は再び深い眠りに落ちていった……。



***********


翌早朝、飛び起きた私は夢現で思い出した内容を忘れないうちに書き記していく。


そして、『院長に話した。(と思う)』と便箋にそれだけ書いて封筒に入れ封をすると、“キャロ” と署名する。


(ジョディならこれでわかってくれるはず。それにしても……ジョディはこのことを想定してたのよね、きっと。だから私に……はぁ。)


深いため息をついて外を見ると、やっぱり雨だった。


(今日のヘレンへのお駄賃は少し多めにしてあげよう。)


そう考えながら時計を見ると、まだみんな寝ている時間だ。もう一度寝ようかとベッドに潜り込んだが、昨夜早くに寝てしまったせいかあまり眠くない。だからジョディの提案を真剣に考えてみた。



ブランドンの浮気については、私がこの目で見たんだから有罪ギルティ確定だ。ブランドンへの気持ちは冷めているけど、浮気されたことには腹が立つ。


私は、一生を共にする人を愛したいし、同じくらい愛されたい……。

だからもうブランドンとは無理。

あとは穏便に婚約解消できればいいな……。


お父様…お母様…これまで受けた優しさが全部嘘だとは思えないし、思いたくない。

でも、ついさっき思い出した記憶のせいで、ますます信じるのがむずかしくなっちゃった……でもなぁ。



"でもでも" とばかり考えているうちにジョディとの約束の日が来た。



*******


【ジョディ視点】


時間よりだいぶ早く着いたから、当然キャロはまだ来ていない。

今日、キャロは辛い思いをするだろう。彼らの調査をすると決めたときから結果はわかっていたんだ。


キャロを傷つけないために


『全部キャロの気のせいだよ、男爵夫妻も婚約者も君を愛している。安心して彼らの側にいていいんだよ。』


って耳あたりのよいことばかり並べることもできたけど、キャロはそんな言葉は望んでいないはず。


いまはまだキャロは迷ってる。信じたい気持ちが残ってるから。

キャロは本当に優しい。

子供のころから変わってないんだよね。

でもあと数時間後には気持ちは逆転するだろう。


キャロ。

こんなふうに背中を押して本当にごめん。でもキャロは負けないでしょう?


でもやっぱり傷つくキャロは見たくないな。

悲しみにこぼす涙も見たくないよ。

だってキャロが大切なんだ。

お互いの秘密を交換した唯一無二なんだから。

一度は諦めたキャロを取り戻せるならなんでもするよ。


ああ、そろそろ約束の時間だ。

遠くにキャロの姿が見える。

僕が付いてるから。

最後まで付き合うよ。

だから許して、ね。


*******


公園に着いたので馬車を降りる。お供は今日もヘレンだ。

噴水までは遠くないのでゆっくり歩いても約束の時間に遅れることはないだろう。


とうとう今日になってしまった。

報告書を読むのはもちろんだけど、そのあとのことを思うと気が重い。


すでにジョディが待っていて、私を見ると立ち上がった。

 

「キャロ、さっそくだけど移動するよ。」


ジョディは挨拶もそこそこに移動をはじめると、私たちが入ってきた側とは別の出口から出るとそこで待っていた馬車に乗り込む。

私とヘレンもジョディにつづく。


「いきなりでごめんね。」

「大丈夫よ。でもどこに向かっているの?」

「ん、隠れ家、かな。」

「隠れ家。」

「うん。そこで見せるよ。」


“なにを” と言わないのはヘレンが同乗しているからだろう。ジョディは、こういうところもとても慎重だ。


馬車は5分ほど走って止まった。


「降りよう。君はここで待ってて。」


ヘレンが降りようとするとジョディが止めた。


「大丈夫。御者がいるから。キャロルお嬢様の安全は保障するから安心して。」


ヘレンは戸惑っていたが、私が頷くのを見ると、そのまま残ることに決めたようだ。

馬車が止まったのは大きなレストランの前だったが、ジョディはその建物脇の路地る。

そのまま進んでいくと建物の裏側に出た。


そこは小さな空き地のようになっていて、建物の壁にはドアがふたつ、空き地の隅には大きなゴミ箱が並んでいる。レストランの勝手口のようだ。

ジョディは右側のドアの鍵を開けて中に入ると私にも入るよう促した。なかはレストランの備品庫らしい。


「ここをこうして……。」


ジョディが壁際でゴソゴソしたと思ったら棚がスライドして通路が現れた。


「わぁ。秘密基地だね。」

「そう、隠れ家。開け方は秘密。」


ジョディは立てた人差し指を唇に当てて、にっと笑った。

廊下の左側にはドアがいくつか並んでいる。

ジョディは2つ目のドアの前で立ち止まるとノブを回してドアを開けてくれる。


なかは執務室のような造りで、奥に執務机と椅子があり、壁は本の詰まった棚で埋め尽くされている。

部屋の中央に置かれた応接セットのテーブルの上には大きな封筒が載っている。


「座って。どこでもいいよ。」

「じゃあここ。」


私が選んだのは三人掛けのソファで、その真ん中にポスンと座った。座り心地がいい。


ジョディはテーブルの上の封筒を取ると中から書類を取り出して私の前に並べていく。

書類はそれぞれ綴じられていて全部で3つ。


それぞれの書類の表紙には、ブランドンと父と母の名前が書かれている。


「これが、キャロの婚約者と男爵夫妻の調査報告書だよ。ひとりで読みたい? 」

お読みいただき、ありがとうございます。

本日17時頃に第6話を更新予定です。


誤字やおかしな表現がありましたらご指摘ください。

よろしくお願いします。


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