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4必要ではないけど効果的な手段

誤字報告に感謝します。

これからもよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。


ブランドンへの想いはかなり冷めている。

でもブランドンと過ごした2年間を思うと、憎み合って別れるのは心が痛い。

できれば穏便に別れたい。


(初恋、だからかな?)


「ご両親のほうはちょっと複雑……かな。キャロは……信じたいんだよね?」


「うん。引き取られてからずっと、優しくしてくれたんだ。

 前にも言ったかもしれないけど、引き取ってもらってすぐの男爵家ってどちらかといえば貧乏だったんだよ。

 それなのにご飯を食べさせてくれて、もっとたくさん食べなさい、育ち盛りなんだからって。

 服だって何着も買ってくれて、孤児院で着てたボロ布にくらべたらすごく上等なのに、『安物ですまない』って謝るんだよ。


 教育だって受けさせてくれた。

 今じゃ話し方やマナーだって孤児院時代とは別人だよ。

 あ、今はジョディと話しているから昔に引きずられてるけど、普段は “お嬢様“ なんだから! 本当だよ! 」


 ジョディが笑いながら『信じるよ』と言ってくれた。


「ほら、孤児に優しくしてくれる人って少ないでしょ? 孤児院のいたとき本当に優しかったのって、ジョディとジョディのおじいちゃんだけだったもん。

 街にも親切な人はいたけど気まぐれだったし、親切そうに近づいてきて攫われそうになったこともあったし。

 孤児院で世話はしてくれたけど最低限だったし、酔っぱらった院長にはたまに殴られてたし。」


孤児院の院長は、私やほかの子がもらったりと拾ったりして貯めたお金を奪っては酒代にしていた酔っ払いで、機嫌が悪いと子供を殴るろくでなしだった。

バチが当たればいいのにっていつも思ってたっけ。


「だから引き取られて “無償の愛” ってあるんだなぁって感動して、恩返しに “アイデア” を教えて……そしたらお金持ちになって。

 よかったなぁ、これからもみんなでずっと幸せにって……。


 それなのに今になって、私が愛されていると思ってたのは、全部私の “アイデア” 目当てだったのかって思ったら、今まで優しくしてくれたのが全部演技なのかもしれないって思ったら、私がいた世界が全部まやかしだったのかと思ったら悲しくなったんだ……。


 きっと私が“アイデア”を持たない役立たずだったら、とっくに追い出されていたかもしれないってね……。

 ブランドンを婿養子にしようとした理由が、私を他家に嫁がせないためだったのかって思ったら信用もされてなかったんだなぁって。


 それなのに、引き取ってもらって幸せだったから…… “アイデア”とは別に、私自身を愛してくれていたんだって信じたい想いが心の底で叫んでるんだよね……。」


涙が零れそうになって慌ててギュッと目を閉じたけど、間に合わなかった。

すっと頬になにかが触れたので目を開けると、ジョディがハンカチで涙をぬぐってくれていた。

顔が近くて驚いたが、ジョディはせっせと私の涙を拭いてくれている。ジョディの長いまつげが日に透けてきれいだなぁ……とまた見惚れてしまった。


「ありがと。もう大丈夫。ハンカチ、洗って返すね。」


「いいよ。あげるから持ってて。」


私は少し照れながらジョディのハンカチを受け取る。


「ところでさ、キャロの“アイデア”を知っているのって、男爵夫妻以外にだれかいる? 」


「ジョディ以外にはいないと思う。なんで? 」


「ううん、ちょっとね。」


ジョディにしては歯切れが悪いけど、こういうときのジョディは確信を持てるまではなにを聞いても教えてくれない。聞くだけ無駄なんだよね。


「でさ、キャロ。男爵夫妻の調査ももちろんするけど、それとは別にひとつ思い付いたことがある。ただ、キャロは気に入らないと思う。」


「え、なになに? 聞いてから決めるよ。」


「あはは、だよね。えっとねキャロ。記憶喪失にならない? 」


は? ちょっと意味がわからない。いま “記憶喪失” って聞こえたけど聞き間違いだよね?


「ジョディ……私の頭、殴るの? 痛いの嫌なんだけど。」


「ちょっ、真顔で言わないで。怖い。

 正確には “記憶喪失のふり” だね。本当に記憶を失うのは無理でしょ?

 だから “ふり” 。」


「いやいやいや! それって要するに男爵夫妻を騙して試すってことだよね?

 それに “ふり” って、私に記憶喪失の演技をしろってことでょ!?

 そんなの無理だよぉ。それにそんなのいつまでやればいいのよ? 」


「男爵夫妻の愛情の真偽を確かめるまで。キャロならできると思う。」


「ぜったいに無理! それってもしかしたら永遠にやらなきゃかもしれないじゃない。

 むしろ『まだ演技してるのかも? 』って疑心暗鬼の極みになっちゃうよ? 」


そう。気の長い人たちなら記憶が戻るまでずっと演技しつづける可能性だってあるはずだ。


「うん。だから期限を決める。記憶喪失になってキャロが “アイデア” を出せなくなっても、しばらくは今まで通りの生活がつづくと思う。

 もし、期限の最後までキャロへの対応が今と変わらないなら、それはもう演技かそうじゃないかなんて関係ないよ。

 本気でキャロに愛情を持ってるよ、たぶん。」


「たぶんかぁ……。 」


「うん、たぶん。

 でも逆に演技しているとしたら、キャロのご機嫌を取ってちやほやしても記憶が戻らないことにいら立つはずでしょ。

 まだ戻らないのか、今日もダメなのか、ってね。

 そのうち “なんでこんな役立たずをわざわざ世話しなきゃならないんだ” ってなるから、そうしたら……。」


「……殺される? 」


「あははは! そんなわけないないでしょ。

 だって記憶が戻る可能性はゼロじゃないんだから。

 まあ、軟禁ってところかな。」


「……軟禁。」


「そう。生かさず殺さずキープね。

 記憶が戻ればよし、戻らなかったらそのままにしておけばいいだけだもの。」


私はゴクリと唾を飲み込んだ。

ジョディは本気で私に提案してるんだ。

でもこれって罠だよね、養父母の心を試す罠。

これってある意味裏切りじゃない?

こんなことして許されるのかな?

心から私を愛してるってわかっても、今度は私が罪の意識に耐えられないかもしれない……ってジョディはそんなの気付いてるよね。


それでも提案してるってことは……。


「必要かな? 」


「必要、ではないよ。でも真偽を見分けるには有効な手段。

 ひどい手段だからキャロは嫌かもしれないけど。まあ、調査結果を見てから決めていいと思うよ。

 決めるのはキャロ自身。」


信じたい。でも信じきれない。

心の中では、


『嘘の愛情でもいいじゃないか。いまが幸せなんだから。自分がちょっと我慢すれば、この幸せはつづくんだから。』


と囁く声も聞こえる。


でも。私は疑いながら愛情を受けるなんていやだ。

彼らの愛情が嘘ではなかったと心から信じたい。

そのためならなんでもする、かもしれない。


「わかった。調査結果が出るまでどのくらいかかるの? 」


「3日でやらせる。」


「早っ! ってやらせる? 」


「知り合いに頼むからね。

 僕の秘密、知ってるでしょ? やらせるよ。

 だから3日後にまた会おうね。

 とりあえず今日と同じ時間にここで。もしかしたら移動するかもしれないから覚えておいて。」


ジュディはニヤッと笑うとそう言った。


「うん。わかった。じゃあ3日後に。」


「うん。」


カップに残ったハーブティーを飲み干すと、ジョディが水筒と一緒のカップをバスケットにしまう。あたりを見回すと、結構離れたベンチにヘレンがちょこんと座っているのが見えた。

私が立ち上がると、ヘレンも立ち上がり、こちらへ向かってちょこちょこと駆けてくる。


「あのメイドさん、ずっとあそこでこっちを見張ってたよ。やっぱり良いメイドだね。」


「あの子、ヘレンっていうの。

 ジョディへの連絡はあの子を通じてするつもりだから覚えておいて。」


「ん、了解。じゃあ、また。」


「ジョディ。」


「ん? 」


「いろいろとありがとう。やっぱり親友のジョディを頼ってよかった。

 今日聞いたこと、ちゃんと考えてみるね。」


「どういたしまして。キャロのためならいつでも大歓迎だよ。」


ジョディはにこりと笑うと、私とヘレンが馬車まで行くのを見送ってくれた。


馬車に乗ると邸に帰るよう伝える。


「ヘレン、今日のことは内緒よ。

 だれかに訊かれたら、『お嬢様はひとりで公園を散策してました。』っていうのよ。

 わかった? 」


「は、はい! わかりました! あ、あと……。」


おずおずとヘレンが差し出したのは私が公園で渡したお金だった。

どうやら使わなかったようだ


(それを返そうなんてするなんて律儀な子ね。)


「それはヘレンへあげたお小遣いよ。取っておきなさい。

 あ、3日後に公園に行くから、そのときも一緒に来てちょうだい。」


「はい! わかりました! 」


お金をそのままもらえたのが嬉しかったのか、ヘレンは少しにこにこしている。

馬車に揺られながら窓から外を眺めていると往来を走る子供たちが見えた。

それほどみすぼらしくない格好をしているので、余裕のある商人や職人の子供たちだろうか。


(私も昔は街中を走ってお金を拾ったり、食べ物をもらったりしていたっけ……。

 お金はめったに拾えなかったから、飲んだくれの院長に奪われまいと必死だったなぁ。

 そういえば拾ったお金を複雑な折り方をした紙の中に隠したら、怒って引きちぎってたっけ。   あ……。)


いま、なにかを思い出しかけた。

院長と拾ったお金、折り紙……。

折り紙!!


(そうだそうだ!

 折り紙の中にお金を隠してたのがバレて、ひどく殴られたあとで『この紙はなんだ』って聞かれて、ぽろっと ”アイデア” のこと言ったような気がする。

 でも、あれっきり院長にはなにも訊かれなかったからいままで忘れてた……。

 あれっていつだっけ? )


必死に考えたけれど思い出せないまま邸に着いてしまった。

馬車を降りてホールに入ると、安堵の表情をした母が出迎えてくれた。

体調は悪くないことを伝えて少し部屋で休むと言うと、あっさりと解放してくれたのでほっとした。


自室に戻ってからも、お風呂に入りながら、寝る支度をしながらも、院長と折り紙のことを考えつづけた。


「だめだ……。思い出せない。ここまで出かかってるんだけどなぁ……。」


結局その日は思い出すことができず、そのまま寝てしまった。

ジョディに会ったおかげで心のこわばりがほぐれ、すっと眠りにつくことができた。


…………雨の音が聞こえる…………


私、まだ寝ているのよね? ここ、どこだっけ?


雨の日は服が濡れるから院の外に出られない。

しかも孤児院は雨漏りする。

だから雨の日が嫌いだった。

院内中の器をあちこちに置いて雨漏りの水受けにしていたっけ。


院長に折り紙を破かれた日も雨で、雨漏りと外に行けないのとお金を取られたのでむしゃくしゃしていた。


だから、外出先から帰ってきた院長にお金を返せって言いに行ったんだ。

でも院長は、私から取り上げたお金で買った酒を飲んでご機嫌で私に言った。


『そのうちお前は俺に感謝する日がくるだろうさ。』


『そんな日は絶対に来ないわ! 』


『ふふん、今度の視察が楽しみだなぁ。』


そこまで言って院長は鼾をかいて寝てしまった。

私は取られたお金を取り換えそうと院長のポケットを漁ってわずかばかりの釣銭をちょろまかしたような気がする。


ああ。その何日かあとで男爵夫妻が視察に来て、それって、私が引き取られた日だった、かな?

うんきっとたぶん……そう……。


私は再び深い眠りに落ちていった……。

お読みいただき、ありがとうございます。

誤字やおかしな表現がありましたらご指摘ください。

よろしくお願いします。



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