表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/22

3親友に会う

誤字報告に感謝します。

これからもよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。


声が漏れないよう布団を被る。知らずに身体が丸くなる。横向きに膝を抱えて、声を押し殺して、泣いた。

泣き疲れて眠るまで、泣いた。


***

翌朝。

冷たい水を持って来させようとメイドを呼ぶと、昨夜ジョディへの手紙を託したメイドだった。

名前はたしか……ヘレンだったはず。


「お嬢様。お手紙はご本人様にお届けしました。」


「ありがとう。なにか言っていた? 」


「はい、その場でお読みなって、 “承知した” とのお言付けがございました。」


「わかったわ。ありがとう。

 ね、ヘレン? 時々だけど昨日みたいに手紙を届けるお遣いをしてもらえないかしら?」


「! はい。もちろんいたします。」


「その代わり、ほかの人には内緒よ? 父と母にも言ってはダメ。

 その代わりお駄賃は弾むわ。どう? 」


「は、はい。わかりました! 」


「ええ、よろしくね。」


(別に悪いことをさせるわけではないけど一応、口止めしておくにこしたことはないよね。

 お遣いは別にだれでもいいけど、ひとりだけに頼む方が確実だし安全なはず。)


そう考えながら、冷たい水で目を冷やしたおかげで目の腫れが引いたので、階下の食堂へ降りることにした。


***


一見、いつもと変わらない朝食風景。

でも私は、機械的にナイフとフォークと口を動かして1秒でも早く苦痛の時間が終わることを祈ってる……。


そして私はいまシダー公園の噴水を目指して歩いている。

今日は日差しが強いので、お供に連れてきたメイドのヘレンが日傘を私に差しかけながら斜め後ろを付いてくる。


昨夜具合が悪かった私を心配した母が、外出を許可する代わりにどうしてもメイドをお供にするように言い張ったので仕方なくだ。

 

噴水前に着くと、ベンチをぐるりと見渡す。


いた、ジョディだ!


ベンチに座って本を読んでいるジョディの前に立つと、私と日傘の影が本にかかる。

ジョディが顔を上げる。

肩より少し長いまっすぐな黒髪をおろした姿は、知らない人が見たら美少女だと思うだろう。


「キャロ。」


「ジョディ。久しぶり。座っても? 」


「もちろん。」


日傘を持つヘレンにお小遣いをいくらか渡して自由にするようにと伝える。

ヘレンは私と離れることを渋っていたが、結局お小遣いを受け取ると振り向き振り向きしながら離れていった。

ヘレンの姿が遠くなったところでジョディの隣に座る。


「なかなか良いメイドだね。キャロを心配してる。」


「そう? 普通じゃないかな? 」


「ん、まあいいか。それでなにがあったの? 」


単刀直入に訊かれて一瞬ひるんだけど、この率直さこそがジョディだ。気を遣われるよりずっといい。


私は昨夜のことを最初から最後まで残さずぶちまけた。ブランドンに対する罵詈雑言と私の気持ちを交えながら。

ジョディは最初から最後まで黙って聞いてくれた。


「というわけだったの。私、どうしたらいいと思う? 」


「それはキャロが、これからどうしたいかによるけど。」


「どうしていいかわからないのよ……。」


「ふぅん。じゃあ、ひとつずつ確認していこうか?」


「うん、お願い。」


「その前に。」


ジョディはベンチの上に置いてあったバスケットから水筒とカップを2つ取り出すと、水筒の中身をカップに注いだ。

ハーブティーのよい香りが漂ってくる。カップを私に渡してくれる。


「さて。まず、キャロは男爵夫妻を信じたいと思っている?」


「うん、そう。私、彼らを信じたいんだと思う。」


「キャロが見たこと聞いたことを忘れて、なかったことにするのは? 」


「無理だわ。もう疑ってしまっているもの。ブランドンはすでに有罪ギルティだけど。

 せめてお父様とお母様は信じたいけど……でも信じられなくて辛いのよ……。」


「ん、わかった。じゃあ、信じられる根拠を探そう。彼らを調べるんだ。」


「調べるって……でもどうやって? 」


「調べる手段は知っている。力になれるよ。」


「でもそれってお金がいるでしょ? 私、あんまりお金もってないんだけど。」


「ああ、それは心配しなくてもいいけど。キャロ、お金ないの? 」


「うん。毎月のお小遣いくらい。そんなに使わないけど、それほど多くない額だし。

 あとは必要に応じて買ってくれる感じだよ。だからお金を持ってなくても困らないんだ。」


私の話を聞いたジョディはじっとなにかを考えている。黒髪が日光を受けてキラキラと光っていてとてもきれい……。


「キャロ? 」


名前を呼ばれてハッとする。思わずジョディに見惚れていた。慌てて返事をする。


「ごめん、なにか言った。」


「うん。調査にかかるお金を立て替えるよ、って言った。」


「えっ、そんなのだめだよ! 金の切れ目は縁の切れ目! 友達同士でお金の貸し借りはダメ! 」


「ぷっ、なにそれ? キャロってときどき面白いことを言うよね。でも調査は必要でしょ?

 それにキャロを信用しているから立て替えるんだもん。

 それともキャロは借りたお金を踏み倒すかもしれないの? 」


「そんなはずないでしょ! 絶対に返すわよ!

 出世払いになっちゃうけど……いつまでかかるかわかんないけど……いい? 」


「うん、交渉成立。でもそんなに借金が負担なら、いつかひとつだけお願いを聞いて? 」


「聞く聞く! ジョディのお願いならなんでも聞くよ! 」


「ふふ、じゃあ指切り、はい約束ね。

 それじゃあ調査するのは決定ね。

 次にどうするかは調査結果によって変わるかな。」


ジョディは自分のカップからハーブティーをコクリと飲んだ。私もつられてカップに口を付ける。ミントのさわやかな香りのあとにほのかな甘みが口に広がる。


「美味しい……。」


「おじいちゃんの御用達のブレンド。気に入ったなら、今度持ってくるよ。」


「うん、ありがとう!」


「ん。で、調査結果によってキャロがどうするかって話なんだけど。

 まあ、ぶっちゃけ、婚約者が浮気してたのは現時点で間違いないみたいだから、まずそれをどうするかだね。


 これまでにした浮気は許して結婚するか。

 その場合、結婚後に浮気される可能性はあるね。

 これまでの浮気の証拠を突きつけて『不貞行為をしたら離婚』って条項で契約して結婚するって手もあるかもだけど……。

 あとはすっぱり破談。」


「うーん、ブランドンはきっとお父様に頼まれて仕方なく、私の相手をしていたんだと思うんだ。だから円満にお別れできるんじゃないかなって思ってるの。

 それは別として、そんな契約してまで結婚するのってどうなんだろ? それって幸せかな? 」


「それで本当に浮気しなくなれば幸せなんじゃないかな?

 僕はおすすめしないけど、ね。

 まあ、婚約者のこともついでに調べるから、それを見てみるといいよ。」


「わかった。」


ブランドンへの想いはかなり冷めている。でもブランドンと過ごした2年間を思うと、憎み合って別れるのは心が痛い。

できれば穏便に別れたい。


(初恋、だからかな?)

誤字やおかしな表現がありましたらご指摘ください。

よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ