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11/22

10覚悟は決まった

誤字報告に感謝します。

これからもよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。


「これで全部じゃないんだ、キャロ。」


そう言いながらジョディは1枚の紙を差し出した。反射的にその紙を受け取り、目を向ける。


『オットー・ワッツ殺害についての報告書』


そう書いてあった。


「えっ……殺害? オットー・ワッツ……って院長が殺されたの?

 ウソ、いつ……。」


驚いてジョディを見る。


「オットー・ワッツが遺体で見つかったのは約半年前。

 ただ、オットー・ワッツは孤児院の院長を辞めたんだよ。

 キャロ、君が男爵家に引き取られた直後にね。

 職を失ったわりにオットーの生活は派手で、よく繁華街で目撃されていた。

 そのときオットーは『金づるを見つけた』と言ってたらしい。」


「それって、お父様が院長にお金を渡していた、とか? 」


おそるおそる聞いてみる。

でも答えは聞きたくない……。


「オットーが男爵らしき人物と一緒にいたという目撃証言もあったけど、お金を渡していたかどうかまではわからなかった。

 男爵夫妻の報告書を読んでわかっただろうけど、男爵夫妻は金遣いが荒い。

 お金の流れを辿るには時間がかかるし、どこまで辿れるかもわからない………。」


たしかにお父様もお母様も、お金を湯水のように使っていた。

あの無駄になったお金の中に院長へ渡すお金を紛れ込ませていたとしたら、すぐには判断できないのもうなずける。


お金のことは……どうでもよくないけど、それよりももっと重要なことを聞かなくちゃならない。

でも、()()の答えは、もっと聞きたくない!でも、訊くしかない……。


「ジョディ……院長を殺した犯人は、だれ? 」


ジョディは辛そうに私を見ている。ジョディが迷ってるのがすごく伝わってくる。

ああジョディ。私のためにそんな顔をさせてしまって、本当にごめん。

でも、私は聞かなくてはならないのよね?

だから……。


「ジョディ。ぶちまけて。私、受け止めるから。」


私は静かにジョディを見つめながらそういった。


私の言葉を聞いたジョディは一瞬だけ目を見開いて、そしてふわりと笑った。

けれどすぐに真顔に戻ると私を真正面から、見た。


コクリ。

私は静かにうなずき、再びジョディを見つめる。


ジョディの唇が動いた。


「犯人は見つかっていない……。

 けど、男爵……キャロの養父が第一容疑者だと僕らは考えてる。」


『まさか』という思いよりも、『やっぱり』という気持ちの方が大きかった。


「……わかったわ。でもお父様が捕まっていないのはなぜ?

 院長が殺されたのは半年も前でしょう?」


「証拠がないんだ。」


「証拠……」


「そう。さっき渡した報告書は、事件を捜査した憲兵隊の調査報告書を抜粋して、()()()側の調査結果を加えたものだよ。

 それを読んでもらうとわかるけど、オットーは胸に凶器のナイフが刺さったまま繁華街の路地裏で早朝に発見された。


 ただし、殺害の瞬間を目撃した者はいなかったし、オットーと男爵が一緒にいた証拠もない。

 唯一ナイフが証拠品だけど、どこにでも売っているごく普通の果物ナイフで持ち主を特定することができなかったんだ。


 憲兵隊はオットーの友人・知人にいろいろ聞き込んだけど有力な情報は得られなかった。

 ちなみに男爵も事情聴取されてるよ。

 でも憲兵隊のほうでは男爵は無関係と判断した。

 結局、犯人が見つからず、その後は再捜査もおこなわれていない状況なんだ。」


私はあらためて『オットー・ワッツ殺害についての報告書』の内容を読んでみる。

ジョディの言った通りだった。


報告書によると院長は『ワッツ』と姓を名乗っているが、正確には庶民だ。

院長が若い頃にワッツ家は没落し、爵位は返上したと書かれている。


貴族殺しは大罪なので憲兵隊も必死に捜査するが、庶民の場合はよほどの金持ちか有名人でもなければ、手間暇かけてわざわざ証拠集めなどしないのが普通らしい。


「お父様が犯人だと考えた理由は、私がいるから? 」


「うん。実は、今回キャロから男爵夫妻たちの調査を頼まれる前から、オットー殺害の件で男爵の調査はしていたんだよ。

 キャロが男爵家に引き取られたタイミングとオットーが孤児院の院長を辞めたタイミングがあまりにも合い過ぎていたからさ。

 それにオットーは無職のはずなのに金回りがいいから、これはって思ってたんだ。


 調べてみると、オットーの生活は年々派手になっていた。

 きっと男爵に要求する金額を増やしていたんだと思う。

 でも男爵家の財政状況はすごくよいとはいえないから、それならばいっそ……ということだったんじゃないかと考えたんだ。」


「なるほど……。

 院長とお父様の関係を示す手がかりも見つからなかったの? 」


「オットーが借りていた部屋には特になにもなかったと聞いているよ。」


「部屋を見ることってできるかな? 」


「ん、新しい住人がいなければ大丈夫だと思うよ。

 なにをする気か聞いていい? 」


「孤児院にいたときなんだけど、院長は大事なものを、だれにも見つからない特別な場所に隠していたの。

 だから今回ももしかしたら、って。」


「へえ……確認してみる価値はあるね。

 部屋を見られるか確認するよ。

 キャロも行きたい? 」


「ええ、行くわ。

 お金を取られたり、殴られたり、ろくでなしの院長だったけど、殺されていいわけじゃないもの。 

 それに、本当にお父様が犯人なら、きちんと罪を償ってほしいから……。」


「キャロ……。」


「あとね、ジョディには頼み、というか提案があるの。

 うまくいけば院長殺しの証拠が手に入るかもよ。」


「キャロの頼みなら、いくらでも頼まれてあげるよ。」


「そんな簡単に引き受けていいの?

 結構大変だと思うよ。

 私の “アイデア” を使うからね!

 それから ”記憶喪失のふり” を実行しようと思うの。」


「え、どうしてわざわざ?

 男爵夫妻も婚約者も信じる価値がないってわかったのに……。」


「うん。それはもういい。吹っ切ったから!

 それとは別に、お父様の罪を暴くのには時間がかかると思うの。

 でも、そのあいだ ”アイデア” を渡したくないのよ。

 記憶喪失になればお父様とお母様から距離を置けるし、ブランドンも私から遠ざけられる。

 一石三鳥でしょう? 」


わたしは少しおどけながら説明するとジョディは面白がってくれたけれど、すぐに真顔になった。


「ふふっ、なにそれ?

 でもね正直、キャロを男爵家に帰したくないな。

 容疑者の段階だけど、殺人犯がいる家なんて……キャロが心配だよ。」


ジョディがそう言いながら私の手を握ってくれる。


「ありがとう。でも私が帰らないと変に思われちゃう。

 お父様は院長のことはすでに忘れられたと考えてるはずよ。

 なら、このまま油断させておいた方がいいと思うの。

 まあ、私が記憶喪失になったら大騒ぎになるでしょうけど。」


「それでいいの? 逃げちゃうことだってできるよ? 」


「ジョディの “秘密” を使えば簡単そうよね?

 でも……利用されたとはいえ、この2年間、男爵家にはお世話になったわ。

 本当に愛されていると錯覚させてくれるくらいにね。

 だから、最後の幕は私が引きたいの。

 どんな結末になろうともね……。」


「わかったよ。

 できるだけ手を貸すからなんでも言って。

 本当になんでもやるから。」


ジョディの私の手を握る力が少し強くなる。

って言うか私たち、いつから手を握ってたの!?

意識したら急に恥ずかしくなってきたので、そっとジョディの手から私の手を引い……あれぇ? 思ったよりがっちり握られてる?


「ジョディ? 」


「なに? 」


「えっと、手をね。」


「手を? 」


「離してほしいなぁ、って。」


「離してほしいの? 」


「だってほら、えっと……。」


「ん、わかった。とりあえず離すね。」


(とりあえずって、なに? それにジョディがすごく切なさそうに見えるんだけど気のせいよね? )


なんだか今までになかった雰囲気にドギマギしてしまう。


(これじゃ、親友というより……ってだめだめ!

 婚約破棄を決めたけど、今はまだ婚約中なんだし。)


「んんっ! じゃあ、これからの計画を立てましょう。

 記憶喪失だけど、どうすれば疑われずにすむかしら? 」


「事故を偽装したらどうかな? 人員はこっちで用意するよ。」


「じゃあ、お願いするわ。

 今日はもうだいぶ遅くなったから、私の “アイデア” は次に会うときに伝えるわ。」


「ん。じゃあ、事故の偽装とオットーの部屋の件は任せて。

 次はいつ会える? 」


「ああ、えっと。」


(『いつ会える? 』って、妙な感じに聞こえて困る~~! )


「 “アイデア” を早く伝えたいわ。私は明日でも大丈夫よ。」


「じゃあ、明日にしよう。込み入った話になりそうだから、久しぶりに古書店うちに来ない? 」


「うん! 久しぶりにおじいちゃんにも会いたいし。」


「それじゃ、ランチを一緒にしようよ。」


「わーい! 楽しみ! 」


ジョディも楽しそうにニコリとした。


******


自宅を戻る馬車の中で、今日知ったことと、これから始めることを考えていた。


ブランドンにお母様、そしてお父様。

結局私は利用されていたことがわかったけど、今は驚くほど落ち着いてる。

父が殺人を犯したかもしれないと聞いたときも冷静だった。


(ブランドンのこともお母様のことも、すでに整理がついたみたい。

 お父様のことは、これからが正念場になりそうだけど……。)


私の向かいにはメイドのヘレンが座っている。

ジョディが連絡要員を手配してくれるって言ってたけど、私の方でも味方が必要だ。

そこでヘレンを巻き込もうかと考えている。


「あのね、ヘレン。

 私、これからあることを始めようと考えているの。

 それでね、できたらヘレンに手を貸してもらいたいのだけど、どうかしら? 」


「私でできることならお手伝いいたします。

 どんなことをすればいいですか?」


「まずは、手紙を届けたり、買い物したりするお遣いね。

 それから私が出かけるときに付いてきてほしいの。どうかしら? 」


「そのくらいでしたら、はい。大丈夫です! 」


「それから、まだあるの。

 実はこれが一番大事なんだけど……ヘレンは秘密を守れるかしら?

 父にも母にも、ほかのメイドたち、とにかく絶対にだれにも言ってはダメ。

 どう? 」


「えっと、旦那様や奥様に命令されないかぎりは大丈夫だと思います。」


「もし、父や母に命令されても無視していいわ。

 私が許可します。

 ね、それなら内緒にできるでしょう? 」


「お、お嬢様がそこまでおっしゃるなら、はい。そうします! 」


ヘレンが心を決めてくれたようだ。


「ありがとう、ヘレン! 悪いようにはしないから安心してね。

 それじゃ、ヘレンを私付きのメイドにするから、これからよろしくね! 」


「はい! よろしくお願いいたします。

 誠心誠意お仕えします。」


少し不安になりかけていたけど、始めたからには終わりまでやるしかない。

その先はまた考えればいい。

それに私にはジョディという強い味方も付いている。


(きっとうまくいくわ。ううん、うまくやるのよ! )

お読みいただき、ありがとうございます。

誤字やおかしな表現がありましたらご指摘ください。

よろしくお願いします。


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