第23話 勘違い
俺、金田大輝はあの日……佐藤とのバスケ勝負で完敗して以降全てを失った。
佐藤に負けた日は、バスケットボールすら見たくなくて、部活を休んだ。
本当に、バスケが嫌いになった。
もう二度とバスケなんてしたくないと本気で思ったが、俺にはバスケ部という居場所がある。
俺はこれまでバスケ部に貢献してきた。そう、全国まで連れて行ってやったんだ。そんな大きな恩が俺のことをあいつらはコケにしたりしねぇだろ。
そうだ。俺がいねぇとダメなやつらだんだ。
そう信じて次の日部活に行くとあいつらは今まで通りだった。
やっぱり、やっぱりだ。バスケ部の王を以前俺のままなんだよ。
少し、バスケに対するモチベーションが回復し、練習をして
「おい、スポドリもってこい」
今まで通り、後輩に命令した。
「は? 誰があんたの言うことなんか聞くかっつーの笑素人に負けたクソ雑魚のくせに笑」
「……は?」
「あーやっぱりみんなが思ってた通りっすわ……つーことでいいですよね? キャプテン?」
「ああ、この間の件でその態度も少しは変わると思ったが、無駄だったようだな」
キャプテンがそういうと、今まで言うこと聞いていたバスケ部の後輩たちも俺のことを馬鹿にするようになり、先輩の態度も明らかに変わった。
みんな俺のことを素人に負けたクソ雑魚だって馬鹿にしやがる。
こいつらマジでクソばかりだ。
「ふざけんな!! 馬鹿にしやがって!! 俺のおかげでどれだけ美味しい思いをしたと思ってるんだ!! 俺がいたおかげで全国大会まで行けたんだぞ!!」
そう声に圧を持たせながら言ったらあいつらは
「金田くんいらないんでー佐藤先輩連れてきてくださいよーぶっちゃけ佐藤先輩の方が何百倍も上手だし、教わりたいっす」
「おいおい、何百倍って……何千倍もだろ? 佐藤先輩に失礼だろ!」
「そりゃそうか!」
「あはは!」
って馬鹿にしながら言いやがった。
バスケ部のやつら全員が笑う。
俺に期待していたキャプテンも。
俺のことをおだてていた先輩も。
俺にひれ伏していた同級生も。
俺のこと尊敬していた後輩も。
俺はその日、バスケ部を辞めた。
教室でもあれだけ媚びを売っていた横島や永田は俺を馬鹿にするような目で見やがるし、誰もつるんでこねぇし、都合の良かった女どもも全員俺様のことをふりやがった……
何が女の子見ると見境なく口説く癖直した方がいいよだ!!
ありえねぇだろ……こんな時こそ、俺を支えるのが彼女の役割じゃねぇのかよ!!
本当に、この学校での俺の居場所は完全になくなった。
底辺中の底辺。
「金田くん! おはよー」
でも唯一、白咲華だけは俺に話しかけてくれている。あいつだけは全部失って、居場所がなくなった俺のことを気にかけていた。
完全に理解した。
華は俺に惚れてると。
今まで寧々にしか目がいってなかったが、こいつも寧々と容姿も人気も同等だ。相手に尽しそうだし、少なくとも俺を見捨てた女よりも上玉には違いない。
あとはどういう流れで華から告らせるかだ……
「あ、金田くんまた明日ねっ……」
放課後、華からいつも通りの別れの挨拶。しかし、どこかいつものような元気さがない。
何か忘れ物を取りに戻ってきたのか、華は一人だ。
「……おい、今日はなんか元気なくね?」
「ん? え? あはは……ちょっとね」
華は図星を突かれたように困ったような笑顔で肯定した。
これはチャンスだ。クク……どうやら天は俺に味方しているようだな。こんなん俺に堕とせって言っているようなもんだろうが。
「どうした? 話、聞いてやってもいいぜ?」
「え!? そんな……大丈夫……だよ?」
「そんなこと言うなって、いつもの礼として相談に乗ってやりてぇんだよ」
こう言えば人が良いお前は断れねぇだろ。
「えっと……じゃ、じゃあ。お願いしてもいいかな?」
はは、俺の思った通りだな。こいつのこと理解してるのは俺だけだ。
「えっと、テツくんっていう1つ年下の男の子なんだけど、怒らせちゃって……その、どうやったら仲直りできるかな?」
………………は? テツくんって誰だよ? まさか彼氏じゃねぇだろうな?
そう言えば、華には年下の彼氏がいるっと噂を聞いたことがある。正直、モテない奴らが華に振られた時の見苦しい言い訳だと思って気にもかけていなかったが、まさか……!
華の表情を見ると明らかに真剣で落ち込んでいる顔をしている。その顔を見て察する。
おいおい……マジのやつじゃねぇか。
あ? つまり、つまりだ……これは……俺に対する裏切りじゃねぇか?
ふざけんな……ぜってぇ引き離してやる!! こいつは俺の女なんだよ!!
いや、待て、落ち着け、ここは余裕を見せて……あくまでクールに……だ。
「あーなんつーかさ、そのテツくん? ってやつ最低だな」
「……え?」
「いや、だってそうだろ? 華のことこんなに悲しませてよ。マジ最低だわ。俺ならそんな顔はぜってぇさせねぇのにな?」
「………………」
「そんなやつ捨ててさ、俺の女になれよ」
こういえば、大抵の女は揺らぐ。今までがそうだったからな。
「あはは……金田くん、冗談……だよね?」
「冗談じゃねぇよ……お前も俺のことが好きなんだろ? な? 今すぐ別れて俺の女になるなら許してやるからさ」
俺に対して何か後ろめたいことがあるのか華は俺から距離を置き始める。
俺はじりっと華が逃げられないように、壁側に追い詰めていく。
「す、好き? え……えっと? その、別れるって? ど、どういう」
「わかってるんだよ。俺のこと好きだから佐藤のやつのせいであぶれ者にされた俺を気にかけて話しかけてくるんだろ?」
「え? あの……あ、そんなつもりなくてー」
「はぁ!? ふざけんなよ!? オイ!!」
大きな声で華を威圧した。俺が本気で怒ってると思わせるためだ。
「ひっ!? ご、ごめんね? か……金田くん? お、怒ってる?」
効果は絶大だったようで、華はとても怯えた表情をしている。
恐怖で支配しれば良い。華みてぇな女は少しでも威圧すればなんでも言うことを聞くからな。
「そりゃそうだろ? お前が素直に認めねぇからだよ……俺のことが好きだってな。ほら、さっさとー」
「金田」
とても低い声が後ろから聞こえた。
その瞬間、体が硬直する。
聞いたことがない声。いや、違う。聞いたことがある。少しだけ。
そうだ……あの時だ。
と理解した瞬間、体が震えだす。
「佐藤くんっ!!」
さっきまでの怯えていた表情が嘘のように安堵した顔をしながら華は佐藤の元へと駆け出し、やつの後ろに隠れた。
眼鏡を外したあの時の佐藤が今、目の前にいる。
「金田、これはなに?」
華に裾を握られて調子に乗りやがって……ナ、ナイト気取りか? じ、邪魔すんじゃねーよ!!
「う、う、うるせぇな! お前には関係ないんだよ!」
佐藤を殴ろうとした瞬間、腕を掴まれた。
っ!? 動かな!?
「金田? これはなんだって聞いてるんだけど」
「……ひっ」
あの目だ……あの時、心を折られた時みた佐藤の心底つまらなさそうな無機質な目。
「あ、あう……」
だめだ……この目を見ると声が詰まってなにも言えねぇ……喉が渇く、体が震える。ゾワっと背筋が冷える。この感じ……やべぇ。
フラッシュバックする。全てが崩れさるような……喪失感が。
そして胸がキュッとなるような絶望感が
「う、ぅぅぅ!!」
自分の惨めさから逃れるようになんとか腕を払いのけ、教室を飛び出した。