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帝國の書庫番  作者: 跳魚誘
19/41

帝國の書庫番 十七幕

新たな絲は寒晒しの中、二人を結ぶ紐となる。

 冬になると、闇夜に響いていた虫達の声も静まり、人々も心なしか口数を減らす。つい最近まで目を楽しませていた木葉は散って焚火の糧となり、年末前の僅かな平穏に浸る人々はその火に集って手を翳す。有坂孝晴は、あれ以来少しだけ変わった。週に二、三度は第三書記部に顔を出すようになり、仕事の進捗や確認を行う。直ぐにふらりと出て行ってしまうし、書記官達との会話は最低限であるものの、それでも以前に較べて関わりが増えたのは事実だ。彼らの孝晴に対する見方も少し変化したらしく、孝晴からではなく、書記官達から話し掛けてくる事さえ、時折ある。

 実際の所孝晴は、麟太郎を自分から遠ざけるべきだという気待ちを変えた訳ではない。けれど、最も近くで孝晴の異質さを感じて来た筈の麟太郎が、そして嘘を吐かない麟太郎が、それでも「孝晴の前で死なない」と断言したのだ。だから、自分も少しだけ、人に近付いてみても良いかも知れない、そう思った。それだけの事、だったのだが。まさか部下から苦言以外の内容で「一等書記」と呼びかけられる日が来るなど、夢にも思わなかった。麟太郎に買わせるようになってから久しく訪れて居なかった饅頭屋にも、足を運んでみた。案の定、女将は文官服姿の孝晴に目を丸くして驚いたが、それでも「坊っちゃんはこし餡だろ、ずっとうちの饅頭を食べてくれてたのは知ってるからねぇ」と手際良く饅頭九つを包んでくれた。記憶より少し白髪が増えたが、語り口は全く変わらない。流石に「ちょっと見ないうちに男前になったもんだね」と言われた事には、そこまで長い間会っていない訳ではないのにと閉口したが、女将の表情から察するに、どうやら自分は恥ずかしそうな顔をしていたらしい。女将は孝晴が木偶の三男と評されている事を知っているだろうに、最後に「またいらっしゃいな」と笑った。

 文官服で夕刻の街を歩きながら、孝晴は考える。ここ数年、國外情勢は大きく変化した。その中で旭暉は上手く立ち回り、戦乱に手を出す事だけは避けている。それ故の平和が、今の帝都にはある。女将の饅頭の味は変わらず、瓦斯燈の数も増え、新しい石橋が架かり、詳細地図が作成され、最新の兵器による軍備も進んだ。しかし。

(何で今議会にゃ、軍事関連法案の提出が矢鱈多いンだ? いや、法整備自体は必要だ、そもそも旭暉は新政府になってから対外戦を経験してねぇ。備えあれば憂い無したァ言うが、まるで……。)

 まるでこの先、外ツ國と戦争する事が決まっているかのような。孝晴は、包みから饅頭を一つ取り出して頬張る。勿論、此方にその気が無くとも始まってしまうのが戦争であるし、不意に巻き込まれる形の戦争は國にとって最悪の事態だ。だからこそ外交というものがある。他國と利害関係を一致させ、敵を牽制する。此迄の洋外省は、未だ國を富まするが先決と、一貫して領土拡大方針を避けて来た。当然だろう。うち幾つかは孝晴が潰したが、数年前までも叛乱の企てが続いていたのだ。國同士の戦争が出来る程、旭暉は「一つ」では無い。外ツ國からの情報が入って来るという事は、技術や思想や文化だけで無く、歴史――外ツ國同士でどのような争いが行われて来たかを知る事でもある。地続きの大陸がどんな戦乱を経験したかを思えば、周囲を海に囲まれた旭暉は幸いだ。しかし、洋外省が此処に来て外進を仄めかすような文書を出している事も気になっていた。内部で密かに情勢の変化を掴んでいるのだろうか?いや、ならば関連議案が提出される事など無いだろう。文書と自らの足での情報収集を基本とする孝晴であるが、それでも分からない事は伝手を頼るしかない。三ツ目の饅頭を咀嚼して飲み込むと、孝晴は息を吐いた。

(政治家以外で外ツ國の情勢に詳しいって言や、太田家なンだろうがなぁ……。俺ぁ理一の件ですっかり坊っちゃんにゃ嫌われちまったし、)

 あの若い太田榮羽音ヨハネの貌を思い浮かべ、そして、ふと。そう言えば、あの切裂きの件。異人が被害に遭ったと言う話は「聞いていない」。孝晴は特に異人街と接点も無く、それ以外に異人と接する場所は(政府や軍の関係各所を除けば)観光地や別荘地くらいのものなのだから、彼らの状況が耳に入らないのは当然とも言える。盲点だった。

「……坊っちゃんの機嫌取りに行って、聞いてみっか……。」

 あの「白狐」の方に、という言葉は、五ツ目の饅頭と一緒に飲み込む。こし餡饅頭は、季節が変わろうと、自身が変わろうと、相変わらず美味かった。



 それから半月。孝晴は面会の約束を取り付け、太田邸に向かった。早いもので、街の装いも風の匂いも、すっかり冬だ。泣き出しそうな曇天の下、孝晴は珍しく爪先まで洋装で固め、綿裏地の洋外套を羽織っていた。太田家の洋館を訪れるのに何を着たらよいのやらと悩んだ末、仕方なく訪問用の洋装を仕立てたのだ。普段洋装を着るのは晩餐会や親睦会等の催し事に出席する時くらいの為、礼装の三ツ揃で事足りる。しかし訪問の為だけにそれを着るのは、慶事も無いのに紋付袴で顔を出すようなものだと思えば、滑稽な事この上ない。そうして長兄が背広を仕立てた店を訪れた所、通常は一月程かかるが、有坂家の、そして贔屓の客である孝雅の弟であればと、二週間で仕上げてくれたのだ。まさかそんな所で兄弟の恩恵に与ると思ってはいなかったが、情報を得る為の行動は早いに越した事は無い。

 門番に用件を告げて、少し待つ。屋敷から案内役の使用人が迎えに来るのはいつも通りだが、どうも様子がおかしい。余り歓迎されてはいないようだ、と察したものの、先の件をこれ程までに引き摺っているのだろうか。先ずは説明から始めなければならないかと考えながら開かれる玄関を眺めていた孝晴は、隙間から飛び出して来た影に目を見張った。


「帰れ!」


 どん、と胸に重い衝撃が響く。が、力が入り切っていない。孝晴は呆然と、太田榮羽音の金茶色の髪を見下ろしていた。彼は拳を握って、壁でも叩くように何度も振り下ろす。彼は、泣いていた。直後に四辻鞠哉が飛んで来て、落ち着いてくださいと宥めながら引き離す。

「帰れ、帰れよこのヤロウ!」

「……どうしたってんだぃ、榮羽音?」

 そう言った時、四辻が此方に一瞬目を向けたのが孝晴には分かった。しかし榮羽音は泣き腫らした目で孝晴を睨む。

「とぼけるなよ! あれも……あれもお前がやらせたんだろ! ボクはお前のことなんか大っ嫌いだ!」

「坊っちゃん!」

「コイツの前で坊っちゃんとか呼ぶな!」

 流石の孝晴も、何がなんだか分からない。見れば玄関には他の使用人も居るのだが、皆困惑しているようだ。一体この家に何があったのだ、と思っていると、四辻が榮羽音を抱きかかえるようにしながら、素早く声を発した。

「大変失礼致しました、有坂様。旦那様は応接間でお待ちです。吉野さん、有坂様の外套をお預かりして、ご案内を。」

「、承知致しました。」

 指示を出した四辻は泣き喚く榮羽音を抱えて奥へ足を向けたが、去り際に確かに孝晴に目配せをした。その目からは敵意を感じない。どうやら四辻は孝晴を敵視している訳では無いようだ。一先ず孝晴は、言われた通り外套を預け、使用人について応接間へ向かった。


 深く礼をして部屋に入る。何処かの國で描かれた誰かは分からない男女が、額縁の中で踊っている。壁に食器を飾るのは外ツ國の風習なのだろう。そんな部屋の中で、太田公爵は立ち上がると、孝晴に右手を差し出した。孝晴も自身の右手で受ける。昔は剣を握っていたのであろう、固い皮膚の感触。ガラスの天板に螺鈿の花が透ける卓を挟んで椅子を勧めた太田卿は、自身も長椅子に掛ける。前掛けを着けた女中が紅茶と角砂糖を置いて、彼の合図で礼をすると部屋を出て行った。皿に並んだ角砂糖には、美しい花が咲いている。珍しいな、と孝晴が思っていると、太田公爵が息を吐いた。

「孝晴君には、以前の礼を、ちゃんと言っていなかったね。しかし、もう一つ、今度は謝罪しなければならない事が起きてしまった。」

「御子息の件ですか。何があったのか伺っても?」

 太田公爵は沈鬱な顔で頷くが、ちらと扉に目を向けた。

「その話をするには、鞠哉が戻ってからにさせてくれるかね。先に本来の話をしようか。……私に忠告したい事がある、だったかね。」

「はい。と言うよりも、確認させて頂きたい事があり、お訪ねしました。それが、もしかしたら忠告になるやも、と。」

「……。」

 孝晴の顔を見詰める太田公爵は、少し疲れたような顔をしている。孝晴は口火を切った。

「昨今の、切裂き事件についてはご存知ですか。」

「……勿論だとも。」

 おや、と孝晴は思った。太田公爵は、まるでその話が出ると予想していたかのように、一瞬口を噤んだ。孝晴はより慎重に言葉を選ぶ。

「余り褒められた事ではありませんが、私は仕事を抜け出して街中を散歩するのが好きなんです。しかし、初めにあの事件が取り上げられてから、一月以上経つと言うのに、未だに、何処へ足を向けても『あの』話が聴こえて来るのです。隣の誰が着物を切られただの、繕わなきゃならない、だの。愉快犯だとしても、害意のある者が長期間彷徨うろつき続けているなんて物騒ですから、早く下手人が見付かればよいと思っているのです、が。確認したいのはこの先です。」

 一度言葉を切り、様子を伺う孝晴。公爵は黙って首を縦に振った。

「……私は、私なりに下手人の目的を考えてみましたが、てんで分からない。何故なら、被害を受けた者に共通点が無いのです。今の所、『誰でも切られる可能性がある』としか言えない。ただ、私の歩き回る範囲に居ない者の状況は、どうなっているのだろうかと、気に掛かったのです。端的に言えば、帝都に滞在する異人に、被害が及んでいるのか。外ツ國の技師らとも縁の深い閣下であれば、何かお耳に入っている事があるのではないかと思い至った次第です。」

 太田公爵は、穏やかそうなその貌に憂慮の表情を浮かべながら、孝晴をじっと観る。

「それが忠告になる理由を、先に聞かせてくれないかね。」

「もし異人に被害があるにも関わらず、國が把握していない……私はしがないなりに役人ですから……となれば、彼らの身に危険が及んだ時、対応が後手に回ります。國の間で問題になりかねません。そして異人に被害が全く無いとしたら、恐らく意図的になされている。『誰でも被害に遭う』のではなく、『旭暉人のみが被害に遭う』事になります。それが知れたら、こう思う者も出る筈。『旭暉に恨みや不満のある異人の犯行だ』と。今の旭暉は、異人との交流を断つには未熟です。外ツ國の技術や製品の輸入を進める現状がその証左。異人排斥の動きなど起これば、國も……そして、御子息や閣下にも危険が及ぶ。これが、忠告です。」

「……。」

「幸い、私の知人には邏隊の者が居ます。邏隊でも何か掴んでいる可能性はありますが、手掛かりが増えるならば、それに越した事はありません。……それに、先だっては結果的に、御子息が友人を失う切掛を作ってしまいましたので……いち早くその可能性をお伝え出来れば、せめて罪滅ぼしになるのではないかと思った事も、確かです。」

 そう言って、孝晴は口を閉じた。太田公爵は孝晴が話し終えてからも、じっと孝晴の顔を見詰めていたが、やがて小さく息を吐く。

「鞠哉、入っておいで。」

 その声に直様、扉の外から「失礼致します」と四辻鞠哉の声が応えた。奴も会話を聞いていたのなら話が早くなるな、等と思っているうちに、銀髪の長身が静かに滑り込んで来る。音を立てないように扉を閉めた四辻は、そのまま扉の脇に控え直立した。太田公爵は表情を和らげると、孝晴に目を向ける。

「回りくどくなって、済まなかったね。順番に話そう。まず、衣笠君と、武橋家の金次君の件については、伝えてくれて本当に感謝している。経緯を知らなければ、私は衣笠君の正義を踏み躙る所だった。無知とは恐ろしいものだよ、孝晴君。太田一族を預かる者として、それを私に報せてくれた事、改めて礼を言わせてくれ。」

「私は衣笠のお嬢様に頼まれて知った事を、お伝えしたまでです。理一としかず氏は、御姉妹に何も言わずにいたようで、姉君が不安がっておられたので。よく病院に出入りしている刀祢中尉に訊ねてみた所、彼が調べてくれました。」

 そうかね、と公爵は穏やかに頷く。しかしその表情はすぐに曇り、そして彼は頭痛でも堪えるように、額に指先を触れた。孝晴は黙って彼の言葉を待つ。

「……君は先程、榮羽音が友人を失う切掛を作ったと言ったが、それは心配しなくて良い。まだ金次君はうちを訪ねて来るからね。あの子は人によって態度を変える癖がある。榮羽音はまだ、金次君を友人だと思っているよ。」

「そうでしたか。」

 この場の誰も、それが良い事だとは思って居ないのは、火を見るより明らかだ。孝晴は短く答え、公爵は表情を変えぬまま、息を吐いた。

「次に、君に対する榮羽音の無礼についてだ。……鞠哉。」

 はい、と答えて静かに公爵の隣に立った四辻は、封の切られた封筒と、握り潰されたような跡のある紙を、孝晴に見えるようにして机上に置いた。

「これは……。」

 思わず孝晴は呟く。蚯蚓みみずがのたくったような、震え滲んだ文字。しかし内容はなんとか読める。


『キリサキマノ ヰジンハデテケ キヨクキ ノ テキ』


「これを榮羽音にと、門番が子供から受け取ったそうだ。危険な物ではないかと封を開けたのは門番だがね、紙の内容までは確認しなかったんだよ。」

 孝晴は眉を寄せてその紙を見ていたが、それについて頭を回す前に顔を上げる。

「しかし何故御子息は、これを私が届けさせたと?」

 それを聞いた太田公爵は、隣に控える鞠哉と一瞬目線を交わし、重苦しく口を開いた。

「これが届いたのが、今朝だったからだよ。」

「……。」

「榮羽音は、……残念な事にだが、金次君を結果的に傷付けた衣笠君と、彼を庇った君に対して余り良い感情を抱いていない。それでも、少し前に一度金次君が顔を見せてからは、済んだ事だと思えるようになっていたんだ。だが……君が今日訪れると知っていた榮羽音は、これを見て、君の仕業だと思った。『今度は自分を直接傷付けて笑いに来たんだ』とね。もう一つ言えば、先に君が言った通り、昨今の切裂きの件で、私の知る限り、異人に被害は無いようなのだよ。政府の関係者や外交官から、工場の指導者までね。だから、君がその話を始めた時には驚いたよ。ただ……。」

 そう言うと公爵は四辻を見たが、二人が何か言う前に孝晴がその先を引き取った。

「成程、だから敢えて御子息を止めずに、私の反応を見たのですか。」

「!」

「あの時、四辻さんと目が合いましたから。」

 驚いて顔を上げる公爵だが、孝晴の目は四辻鞠哉を向いていた。彼は白い顔を確認するように公爵へ向ける。ゆっくりと頷く公爵。

「……はい、その通りでございます。重ね重ねの御無礼を、どうかお赦し下さい。」

「それで、四辻さんはどう思いました?」

「有坂様は、少なくともこの手紙の存在を知らずにいらした。私にはそう感ぜられました。」

 頭を上げた四辻の慇懃な声を聞きながら、内心、孝晴は苦笑いした。そんな方法で確かめるなどと入知恵したのは、間違いなく四辻だろう。太田公爵はそこまで人を疑わない。榮羽音程ではないにしても。

「四辻さんの言う通り、私は『これ』については全く知りませんでした。それに、子供が持って来たと仰いましたか? 私に近付く子供など、姪くらいのものなので。駄賃でも渡して運び屋をさせるにしても、相手を探す方が難しいですよ。」

 太田公爵は孝晴の言葉に苦笑する。有坂家が「安易に触れられない家」だと知っている為だろう。

「それを肯定しては、君に礼を失するね。……本当に済まなかった。こんな手紙が届いたのだから、君の言った通りの事が、この先起こるかも知れない。忠告を受け容れさせて貰うよ。」

 孝晴は頷いた。しかし、そうなると確認しなければならない話が増える。孝晴は拡げられた紙に目を落とし、それから公爵を見詰めると、微笑んだ。

「ところで……少し、この紙を拝見したいのですが、その前にお茶を頂いても?」

「ああ、済まないね、もう冷めてしまっただろう。鞠哉、新しく淹れてくれるかな。」

「畏まりました。」

 柔らかな物腰を崩さずに素早く二人の前に置かれたティーカップを取り、四辻は奥の部屋に姿を消す。その間に孝晴は目の前に残された角砂糖を眺めた。白い立方体の上に、様々な形や色の花が載っている。砂糖細工なのだろうが、飴では無さそうだ。その様子に、公爵が何故か嬉しそうに笑みを浮かべた。

「気になるかね?」

「ええ、このような形をした砂糖は、我が家では使った事が無いもので。渡来物ですか?」

「鞠哉が戻ったら、聞いてみると良いよ。」

 孝晴が何か答える前に、盆を手にした四辻が戻って来る。机と同じ高さに腰を落とし、盆から二つの空のカップを机に置いたと同時に、盆の上の砂時計が落ち切った。小さな網を乗せたカップに、ポットから濃い飴色の液体が注がれる。最後の一滴を孝晴に近い側のカップに落とし、網を外す。四辻は二人の前に静かにカップとスプーンを置くと、カップ以外の物を纏めて持って出て行き、殆ど時間を置かずに戻って太田公爵の斜め後ろ側に控える。普段は緑茶を好む孝晴でも、香りの立ち方が先程のものとは全く違うと感じられた。そう思っている間に、太田公爵が微笑んで言う。

「鞠哉、孝晴君がお前に聞きたい事があるそうだよ。」

 あんな雑談のような内容を、公爵自らが伝えるとはと孝晴は内心驚いたが、それは四辻も同じらしく、一瞬彼の身体に緊張が走る。しかし四辻はすぐにそれを消し、不思議そうな表情を作った。

「私に、でございますか。お答え出来る事であれば良いのでございますが。」

「いや、大した事では。この……角砂糖にこのような精巧な細工を施した物を、見た事が無かったもので、何処で手に入れたのかと。貴方なら分かると閣下が仰いまして。」

 その瞬間、四辻は目を見開き、そのままの表情で公爵に目を向けた。公爵はにこにこと笑っている。四辻は主人から目を逸らすと、少し間を置いて、躊躇うように口を開いた。

「それは、……私が作ったものでございます。」

「えっ、」

「勿論、職人の造形には及ばないと承知しておりますが。」

 思わず声を上げてしまった孝晴に、少し早口で言葉を重ねる四辻。その目は恥ずかしそうに伏せられていた。こんな顔もする男だったのかと内心驚く孝晴であったが、公爵は優しげ気に目を細める。

「孝晴君、幾つか紅茶に入れてみてくれるかな。」

「ええ、はい、では。」

 言われるままに角砂糖を摘み、二個、三個と落としてみる。温かい紅茶に触れた立方体はさらりと溶けてゆくが、薄い紅色や黄色の薔薇は水面に咲いたままだ。

「成程、溶ける速さが違うのですね。これは……何で出来ているのですか? 飴、では無さそうですが。」

「簡単に申し上げれば、砂糖と水飴を混ぜたものでございます。そうすると粘度が出まして、細工が行えるように……、失礼致しました、未熟な身で不要な話まで。」

 四辻は頭を軽く振ると口を噤む。公爵は同じく花の浮かぶ紅茶を口へ運んでからソーサーに戻すと、苦笑した。

「遠慮する事は無いと思うがね、私は。お前の菓子作りの腕は、職人にも劣らないものだよ。」

「……恐れ入ります。」

 孝晴はそんな二人を眺めつつ、紅茶のカップに口を付けた。太田公爵は、四辻鞠哉を「ただの執事」とは明らかに違う目で見ている。そして四辻も、それは同じらしい。彼が太田家を護る為に動く理由の一つは「これ」かも知れないと孝晴は感じた。甘く芳醇な香りの液体が喉を通り、胃の腑に落ちる。角砂糖三ツに、少量の砂糖細工。これで少しは「普通に」頭を回せる。カップを置き、孝晴はゆっくりと息を吐いた。

「では、閣下。幾つかお尋ねしたい事がございます。」


 太田卿と四辻から聞き出せた話は、以下のような物だった。異人に被害は無いが、元々帯刀習慣のある旭暉の人間よりも、事態を深刻視している事。それもあってか、ここ一月の間に拳銃を携帯したがる異人が増えた事。旭暉人には認められている武装の権利が、異人には無いと不満が出ている事。逆に、民が皆刀を振り回しているなど、やはり旭暉人は野蛮だと揶揄する声がある事。そして、切裂きの件で嫌がらせのような手紙が届いたのは、彼らが知る限り、この一通のみである事。

(議案の件は、異人の武装申請が増えたからか? いや、一月前にゃもう議案作成にかかってっから、捩じ込んだにしては数が多い。洋外省の直近の書類は、第三にゃ回って来ねェからな……。第二を覗いておくべきだったか。)

 手紙を届けた「子供」についても、近所で見た記憶がない事と、年齢が十前後の娘であろうという事以外、門番の印象には残らなかったという。見た目や言葉遣いにも特徴は無く、着物もごくありふれたものだったらしい。ただ貴族の娘でない事は確かで、笑顔で「よはねさまにおてがみです」と差し出す仕草は微笑ましく、中にも紙が一枚入っているだけであったため、まさかそんな内容が記されているとは思わなかったそうだ。公爵は眉を下げて孝晴を見た。

「やはりこうなると、旭暉の人間が異人を嫌って事を起こしていると思うべきなのだろうか?」

「理由は分からないにしろ、この手紙の差出人は旭暉人ですよ。」

 静かに、しかしきっぱりと言い切った孝晴に、公爵が目を見開き、四辻が僅かに眉を寄せる。

「まず紙が御子神製紙の國産洋紙ですから、異人が手に入れられる場所は限られて来ます。少なくとも異人街では輸入品が主流の筈です。異人のつけペンには、輸入洋紙の方が合う為でしょう。そして、洋紙に筆で書いているというのも可笑しな話です。異人が洋紙を手にした状態で、筆を使うでしょうか。筆跡を悟らせないようにする為だとしても、この墨はよく磨られてむらも無い。慣れた者が磨っていますよ。そして……これは、文字を書こうとして書いたものに見えないんですよ、私には。」

「ま、待ってくれ孝晴君。どうしてそんな事まで分かるんだね。」

 滔々と語る孝晴に対し、思わず声を上げた公爵に孝晴は目をぱちくりとさせたが、ああ、と声を上げて微笑んだ。

「私は『書庫番』ですよ。月だけでも何千と書類を見ていますから、紙や筆記具にはそれなりに詳しいんです。なんなら、同じ紙さえあれば、これと見分けが付かない程度の写しを作る事も出来ます。それが仕事ですからね。」

「あ、ああ、そう言えば君は公文書館の一等書記だったね、成程。」

「こんな事に仕事が役立つとは、思っていませんでしたけれども。やっていれば自然と詳しくなるものです。」

 苦笑して見せた後、孝晴はもう一度二人を見た。太田卿は納得したようだ。四辻は静かな表情で控えているが、その裏には何処となく固いものがある気がした。ひとまず孝晴は話を続ける。

「それで、この文字ですが。確かに形だけ見れば片仮名に見えます。しかし、これには文字としての流れが全く無い。力の入れ方も、線を引く方向すら一定していません。直線ばかりで、滲みも多いので分かり辛いですが。まるで『文字を知らない者に、線を引く指示だけを出して書かせた』ような……。」

「……子供、でございましょうか。」

 ぽつりと、四辻が呟いた。孝晴は目を細めるが、首を振る。

「分かりません。ただ、とお程の歳であっても、何らかの理由で教育を受けておらず、誰かの指示するままに書いたものを持たされた可能性が無いとは言えませんね。しかし、太田家宛ではなく『御子息宛』であったのは何故なのか。そして私が訪問する当に今日届けられたのは、偶然であったのか。……一つ事実として、御子息は心を痛められ、そして私に対する怒りを再燃させた。これが意図して行われたならば、この切裂きの件、有坂家も無関係ではいられぬやも知れません。」

「……。」

 太田卿は眉を寄せて手を組み、額をそこに軽く当てる。慌てて孝晴は言った。

「御子息に私が嫌われて済むなら、私だけの問題で終わります。そう深刻な顔をなさらずに……私はあくまで有坂の道楽息子ですから、余程の事で無ければ、有坂家では大した扱いをしませんよ。」

「そうではないよ、孝晴君。」

 顔を上げた公爵の表情を見て、孝晴は虚を突かれた。彼は孝晴をじっと見詰める。その目は哀しげで、何処までも優しい。

「今日君が来てくれたのは、私に忠告する為だったね。そして先の件でも、私に事実を伝えてくれた。君は私達にとって恩人なんだ。だからこそ……私は君を心配している。もしこの件を企てた者の真の狙いが異人なのだとしたら、関係の無い君を、今日此処で巻き込んでしまった事になる。君の身に何かあったら、私の責任だ。そして榮羽音の事も……どうか、気に病まないで欲しい。そして、自分を蔑ろにしないで欲しい。世間が何と言おうと、どんな立場であろうと、君が誰かの為に行動出来る気高い人間であるのは、間違い無いのだからね。」

 今度は孝晴が目を剥いて固まった。いや、二人から見たらその時間は一瞬だった。しかし孝晴は、自身の主観でたっぷり十数秒間、硬直していた。やっと公爵の言葉を咀嚼し終えた時、孝晴は自分が混乱したのだと気付く。今迄、自分の身を――まるでただの人間のように――案じるなど、考えた事も無かった。兄を殺しそうになった時も、師に剣を向けられた時も。まして、自分の行動が気高いなどと表現されるとは、脳内の何処にも想定されていなかったのだ。我に返った孝晴は、顔を隠すように頭を下げる。自分がどのような顔をしているか分からなかった。

「……御心配、有難う御座います。本日のお話は、邏隊の友人に伝えても構いませんか。」

「ああ、構わないよ。因みに、相手は誰なのか訊いても良いかな?」

「帝宮邏隊の多聞巡査です。これも、実は街を遊び歩いていた時に知り合いまして。職分は違っても邏隊員ですから、何かしら計らってくれるでしょう。」

「成程、遊び歩きもなかなか、無駄にはならないものだね。」

「ええ、早くこの件が収まる事を願いますよ。」

 顔を上げて答えた時には、孝晴の表情は普段の笑みの形を作っていたが、普段よりも少し速い心臓の動きは、頭を落ち着けても暫く戻らなかった。


「雪だ。」

 話を終え玄関の扉を出ると、暗い空からひらりとひとひら、白い物が舞い落ちる。当然のように見送りに着いてきた四辻が「今年の初雪でございますね」と空を見上げた。孝晴は横目で彼を見遣る。銀色の髪に白い肌、青い瞳。雪山に棲む銀狐を思わせる彼の目は、普段よりも遠い所を見ている。孝晴が振り向くと、四辻はそれに合わせて姿勢を正した。

「今日は色々と話が出来て有意義でした。邏隊がどう動いてくれるかは分かりませんが、何かあればお伝えするつもりです。」

 四辻は普段の慇懃な笑みで「有難う御座います」と頭を下げた。しかし、孝晴はその声音に微妙な変化を感じる。ふむ、と少し考えると、孝晴は、歩き出した自分に合わせて一歩足を踏み出した四辻の、その爪先を軽く踵で蹴飛ばした。

「っ、」

「おっと。」

 四辻は何かに躓いたように体勢を崩す。その体を受け止め、声すら漏らさないとは、と孝晴は内心舌を巻いた。しかし流石の四辻も「何も無い」場所で転びかけた事に驚きはしたようで、孝晴に縋るような姿勢になり息を呑んだその隙に、孝晴は彼に耳打ちした。

「お前さん怒ってンだろ。あんな文送って来た野郎に。」

「!」

「何か掴んだらお前さんにも情報をやる。知ってる事があれば俺にも流してくれねぇかぃ。返事は要らねぇ、このまま何事も無かったように戻りな。」

「……。」

 孝晴の手で立たされながら四辻は目を丸くして絶句したが、直後に逆に目を細めると、頭を下げた。

「大変申し訳ございません、とんだ失態を。」

「いえ、気になさらず。」

 笑顔を作った孝晴だが、姿勢を正した四辻の表情を見て、笑みを消す。

「失態をもう一つ、お赦し頂きたく存じます。実は、有坂様にお渡ししなければならないものがございました。少しだけ、お時間を頂戴出来ますでしょうか……?」

 四辻は真剣な表情のまま、声色だけをさも申し訳なさそうに変えていた。孝晴が頷くと、四辻は身を翻す。器用な男だと思いつつ待つと、雪の染みが石畳に幾つか吸い込まれる程の間に四辻は戻って来た。手には小さな包みが抱えられている。

「花飾りを付けた砂糖です。有坂様がお気に召したようなので差し上げるようにと承った事を、『うっかり』忘れてしまい……大変失礼致しました。」

「そうでしたか、それは有難い。よい土産になります。」

 孝晴が包みを受け取る。同時に、四辻が殆ど声を出さずに囁いた。

(『頸に赤い印のある者』を見たら、注意して頂きたく存じます。)

「……。では、これで。榮羽音にも宜しくと伝えて下さい。」

「承知致しました。」

 軽く会釈する孝晴に、深々と礼をする四辻。情報だけでなく、大きな収穫を得られた事に満足しながら、孝晴は革靴で冷えて軋む路を踏み締めた。



 既に使用人も皆寝静まった館の中。絨毯の上を歩く白髪の長身は、誰もいないのを良い事に、大きく深く息を吐いた。

(思いの外、時間をかけてしまった。)

 有坂孝晴の訪問直前に届いたあの手紙の為、彼が帰った後も榮羽音を宥め、しかも咄嗟の思い付きで角砂糖を渡してしまった為に、皆の仕事が終わった後に減った分を作り直し、更に通常業務の確認も終えた所で、とうに日付は変わっていた。しかし、あの有坂孝晴から協力を打診されるとは。だが、互いに利用価値があるとして持ちかけられた取引だったのは確かだ。彼は異人の自分より市井に詳しいだろう。孝晴も、異人に関する情報源として自分を利用出来ると踏んだ。太田家を、そして――榮羽音を泣かせた不届者の尻尾でも掴めるなら、乗ってやる。そこまで考えた時、鞠哉の胃が小さく鳴った。

(…………腹が減ったな……。)

 鞠哉は痩躯ではあるが、かなりの長身だ。公爵や榮羽音に何があっても対処出来る様にと、時間を見付けて稽古もしている。主人の夕餐後に使用人も食事を摂るが、今夜は先の作業等を行っていた為に何も口にしていなかった。鞠哉は少し迷ったが、どうせ朝も早いのだから眠らなければよいと、くりやに向かう。布巾の被せられたパンの塊から端を薄く二切れだけ切り落とし、床下の貯蔵室でハムを数枚削り取ってパンに乗せ、挟む。自分の手巾にパンを包んでから、包丁を綺麗に洗って片付け、包んだサンドイッチを持って自身の部屋へ向かう。


「……!」

「マ……もご、」


 扉を開けた瞬間に声を上げなかった事に対して、常に冷静であるよう訓練を積んで来た自分を褒めてやっても良い、と鞠哉は思った。部屋の中から飛び付こうとした榮羽音を逆に此方から抱えて口を塞ぎ、後ろ手で扉を閉めて鍵をかけ、扉の横にある寝台に押し付けるまでが一連の動きでなされ、ぱちぱちと目を瞬かせる榮羽音に、鞠哉は声量を抑えながら叫んでいた。

『こんな時間まで何やってるんだ、馬鹿息子! 俺の部屋は個室とは言え使用人部屋だぞ、主人の子が簡単に出入りするなとあれほど!』

『だって僕……あっ、何か持ってる! ハムの匂いだ、お前こそこんな時間にずるいぞ!』

『お前は夕食を済ませただろ……はぁ、もういい。少しは休ませろ。時間が無いんだから……。』

 二人の会話は鐵國語だった。鞠哉は寝台から離れ燕尾服を脱ぐと刷子ブラシをかけ、戸棚に仕舞う。肌着だけになると、その間に勝手に寝台の上で手巾を開けていた榮羽音の隣に腰掛ける鞠哉。

『半分食べるか。』

『いいの!?』

『本当は良くない。』

 そう言いつつも、鞠哉は榮羽音の手からサンドイッチを取り上げ、綺麗に半分に割って手渡した。榮羽音は空腹でそれを欲しがった訳では無い。ただ、同じ事をして安心したいだけだと、鞠哉には分かっていた。それがたまたま、今回は食事だっただけだ。本当に子供なのだ、彼は。小さなパンを飲み込むまでの僅かな時間だけ、薄暗い部屋は静かだった。机上の洋燈ランプは、榮羽音が灯したのだろう。

『……あのさ。有坂の奴と、何話したんだよ。』

 ぽつりと、榮羽音は言った。鞠哉は少し考える素振りを見せたが、静かに答える。

『互いに、知っている事を話した。それだけだ。有坂孝晴には、お前を貶める気は無い。』

『……。』

 俯いて黙り込む榮羽音。そして彼は、そのまま鞠哉の肩に凭れ、手をぎゅっと握った。

『俺が言っても信じられないか?……【ハンス】。』

 その言葉に、榮羽音の体がぴくりと震えた。そして、ゆっくりと頭が左右に振られる。

『ううん……信じる、信じたいよ。けど僕は、あいつ、嫌いだ。今日も……僕なんて眼中に無かっただろ、あいつ。』

『……ハンス、』

『いい、何も言わなくて。僕に何の才能も無いのは、僕が一番分かってる。だからパパも僕には何も任せてくれないし、あいつも僕を見下してる。金次だって、僕が信じるのをやめたら、きっと僕を見捨てる。何をやっても駄目なんだ、僕は。』

『……。』

 鞠哉は沈痛な面持ちで榮羽音の頭を見下ろす。孝晴が言った様に、今朝の手紙で榮羽音が傷付いたのは事実だ。怒りはなんとか治ったようだが、榮羽音は傷付くと自己否定に走る。鞠哉はそっと彼の肩に腕を回し、そのまま胸に抱え込んだ。

『お前の才能は、目に見える物じゃ無い。それにお前、外ツ國の言葉は直ぐ覚えるだろう。それは才能の一つだ。』

『言葉を覚えても、使える頭が無いもの。』

『だから俺が居るんじゃなかったのか、何なりと命令しろよ、お坊ちゃま。』

『……。』

 姿勢を崩して寝台に倒れ込むと、ぎゅうと抱き締め返される感触があった。甘やかしている自覚は鞠哉にもある。けれど。

『僕の事分かってくれるのは、お前だけだよ、マリー。僕のマリー、僕だけのマリー。』

『……。落ち着いたなら、さっさと寝ろ。もう明けの八ツを過ぎるぞ。』

『うん。』



「おかしくないよ、だってお前の目の中、聖母さまがいる。聖母さまの色だ。ぴったりだよ。」

「じゃあ、こうしよう。みんな僕をヨハンって呼ぶけど、お前だけはハンスって呼んでいいよ。これはパパにもないしょ。僕とお前だけ。ね、良いでしょ、マリー。」



 胸の中で丸くなっている大きな子供は、確かにあの日あの時、鞠哉を救ったのだ。だから、何があっても……。

 天井を眺めながら過去に思いを馳せかけたが、一つ言い忘れていたと鞠哉は半身を起こす。

『そうだ、寝る前にもう一度口を磨いて……って、ハンス? おま……おい、寝ろって此処で寝て良いって意味じゃあない!』

 榮羽音は鞠哉の腰を捕まえながら、既に寝息を立てていた。叩き起こそうかと一瞬頭を過ぎるも、鞠哉は溜息を吐いて再び寝台に身を預け、榮羽音が落ちないようその体を引き寄せると、片手でなんとか布団を被せてやる。

(……これを赦してしまう俺も大概だ。)

 鞠哉はもう一度深く溜息を吐くと、腕を枕に天井を見上げた。洋燈はそのうち燃え尽きて消えるだろう。あと一刻もすれば朝の支度の為に起きなければならない。その時に榮羽音は部屋へ戻しておこうと決め、鞠哉は瞼を閉じる。二人分の体温を包む布団は、普段より少しだけ暖かい。灯りの漏れる窓の外では、初雪が静かに地面を染めて行くのだった。


「帝國の書庫番」

十七幕「黒と白、寒と暖」

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