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搾木(しめぎ)で油を搾(しぼ)ろう!

 油が比較的高価だった理由を調べてみると、どうやら長木ちょうぎを使った古い手法が行われていることが原因だとわかりました。確か、日本の戦国時代で搾木しめぎが登場し、江戸時代の中期頃に全国へと隈無くまな普及ふきゅうしていたので、いままで油が比較的高価であるのは納得がいくものでした。しかし、前世の魔王の時には、特許局に搾木しめぎの技術を届け出ていたため、数百年後のいまでは特許の有効期限である20年をうに過ぎており、普及ふきゅうしていないのが少し不思議でもありました。政情不安や天災があると技術の利用が難しくなったり物価が高くなったりするので、そういった理由もあるのかなと考えています。

 折角せっかくなので搾木しめぎを作って周辺の村や町にも配布してもらえるように村長さんにお願いしました。紙はまだ高価だったので木簡で油となる原料や効率的な油のしぼり方など多くの情報を記載して渡してもらうことにしています。

 油が得られる主な植物として、大豆ダイズ菜種ナタネ、とうもろこし、米、紅花ベニバナ向日葵ヒマワリ、綿、胡麻ゴマ落花生ラッカセイ椿ツバキ、ブドウなどをげておきました。向日葵ヒマワリでは白と黒の種子のものがありますが黒い種子を用いるとの注意書きもしてあります。

 米では玄米げんまい精米せいまいする時に出る米糠こめぬかから油が取れます。綿ではワタを取った後の種子から、ブドウではワインを作った副産物ふくさんぶつとしてブドウの種子から油が得られるので、少しでも油の値段が下がるかなと期待しました。従来は荏胡麻エゴマが中心だったようなので、菜種ナタネれる菜花に取って代わられる日も近いでしょう。菜花とワサビの組み合わせも普及させたいところです。

 ああ! そう言えば、アブラヤシは果肉だけでなく実のかくからも油が取れるので、それも忘れずに木簡に書いておきます。

 油をしぼる各工程の理由は木簡に書いておいたのですが、ご高齢の方には木簡に大量に書いた細かな字を読むのは大変だったようなので、口頭でも説明を行いました。

「原料をるのは油の風味を良くするためです」

 本当は、加熱によって酵素こうその働きを止めて、色や匂いが悪くならないようにすると言いたかったのですが、酵素こうそについての知識が必要になるので、ここはグッとらえてこのまま説明を続けました。

「原料をくだくのは油を出やすくするためですね。水車などを利用できると便利です。お近くに川がある場合は検討してみてください」

 多くの人が“水車かぁ、どうしようかなぁ”って顔をしていたので、近い将来、水車造りをお願いされるかもしれません。

「蒸すのは、柔らかくなって油がしぼりやすくなるからです。冷めると出にくくなるので温かいうちにしぼってください。温めるのではなく蒸すのは、蒸すと砕いた原料に水分が入って、その水分によって油が出る道を作るからです」

 ここでも酵素こうその時と同様に、水分と加熱でタンパク質が凝固ぎょうこして油が通過しやすくなることを説明しないことにしました。タンパク質について話すとさらに大変なことになりそうだったので、この説明で納得なっとくしてくれるといいなーと心の中で強くねがいました。

 私の意をんでくれた村長さんがうなずいてくれて、「いやー、よくわかりました」と言ってくださったので皆んなもそれに同意して穏やかな空気でこの後も説明をしていくことができました。

 油をしぼり取った後のしぼりかすは同量の土と混ぜて堆肥たいひとしたり、大豆の場合はしぼりかすを脱脂大豆だっしだいずとすることで醤油しょうゆという調味料の原料になることを説明していきました。特に差し油については丁寧に説明しました。天ぷら油は新しい油を継ぎ足して加熱すれば何度でも使うことができるため、天ぷら屋さんでは決して油を捨てることがないからです。午前中での説明が終わった後にはねぎらいもねて各町村から来ていた人々に醤油しょうゆを使った料理を振る舞いました。これは参加者から大好評のようでした。

「おお! 嬢ちゃんが醤油しょうゆこだわるのも良くわかった。塩だけじゃこの味は出せないね」

「ワシはこの醤油しょうゆの料理の美味さに先程まで教えて貰っていた油についての説明を忘れてしまいそうじゃわい」

「はは、確かに、直ぐにでも大豆から醤油しょうゆを作りたい気分になってしまったよ」

 醤油しょうゆを使った料理の衝撃が強すぎたかもしれないと思った私は、醤油しょうゆについてはまた後日詳細に説明することにして、午後には搾木しめぎを使った油搾あぶらしぼりを体験してもらうことにしました。

 私のひそかな野望の一つである醤油が量産される日を夢見て、油搾りで醤油の生産に対するハードルを下げつつ、一歩一歩着実に醤油量産に向けて進んでいく私なのでした。

 こうして今日もまた、醤油量産への歴史がまた1ページ。


後日談

 この後、菜種油ナタネあぶら綿実油めんじつゆ供給きょうきゅうが多くなって値段も下がったことから、オイルけもさかんに行われるようになりました。女性の方々からは、椿ツバキやサザンカの油を2から3滴落としたお湯が髪用の化粧品としてとうとばれたそうです。その話はまたいつか。

参考文献

[1]鈴木修武ら「油の絵本」農山漁村文化協会

差し油について

[2]小竹千香子ら「あぶらのひみつ」さえら書房

[3]「家庭で揚げ物をする際に、どのような差し油の使い方をすれば上手に揚げることができますか。 」農林水産省: https://www.maff.go.jp/j/heya/sodan/1503/01.html

[4]日本植物油協会: https://www.oil.or.jp/kiso/


グレープフルーツ種子抽出物について

 グレープフルーツ種子抽出物については、J-STAGEにて無料で「グレープフルーツ種子抽出物および配合製品中の合成殺菌剤の調査」を読むことができます。国立医薬品食品衛生研究所での「天然添加物「グレープフルーツ種子抽出物」のHPLCおよびLC/MSによる成分分析」も重要です。いずれも日本語で書かれているため英語よりも比較的読みやすいと言えます。グレープフルーツ種子抽出物に興味を持たれた方はこれらの文献を読まれることを強く推奨いたします。

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