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少年の後悔と梅の枝

 広沢池の東南側の土手にクワの木があって実がなっていると知人から教えてもらった私は直ぐにその場へと向かいました。しかし、まだ実は十分に熟しておらず、透明から白へ、そして、赤から黒へと色が変わった実はまだ少なく、黒色の実を食べても半分以上が甘味のないスモモという状態でした。時期的にまだ少し早かったと少しがっかりしていた私の後ろから少年の声が聞こえてきました。

「天使様? 私の話を聞いていただけませんでしょうか?」

 天使様の後に疑問符が付いていることも気になりましたが、その少年は悩みを抱えている表情をしていたので、私は天使であることを否定しつつ、その少年の話を聞くことにしました。

 私を天使様と呼んでいる村娘さんから相談を受けた後くらいから、その少年は外見から安易に人を判断してしまった自らの見識の狭さを自覚し、その村娘さんに謝りたかったのだそうです。しかし、その村娘さんに心から許して貰うにはどうすれば良いかわからず、私の所へと相談に来たのでした。

 私は少年のその真剣な眼差しを見て協力することを約束しました。

 まず最初に少年の家族の元へと向かい、少年の口からその家族に同じ話をして貰いました。

 私は少年のお母さんに“お母さんネットワークでも協力をお願いします”とコクンとうなずいて無言で伝えると、少年のお母さんは“ええ、了解です”とうなずき返してくれました。私は少年が両親にも話をしたことに対してとても勇気が必要であり中々出来ることではないと伝え、前世の知識で無双する計画を立てたのでした。

 少年には私が前世で魔王の時に仕えていた近衛騎士このえきしの振る舞いを教えました。数日もするとぎこちなさがなくなってとってもカッコよくなりました。いやー、素材がいいと楽しいねーーと心の中で喜びました。これで出会いが石板アタックだったらとも想像しましたが、私を天使様と呼ぶ村娘さんにそこまでするパワーはなかったようなので、今後の展開に期待です。

 普段の練習の様子を見て少年の熱意にさらに応えたくなった私はシルクリボンを染めて渡すことを提案しました。ちょうど梅を病気などから守るために夏季剪定かきせんていをしようと考えていたので、剪定を手伝ってもらうお礼に私が持っているシルクリボンを少年に譲ることにしました。折角なので梅の剪定方法も学んで貰い、剪定で得られた梅の枝を集めて家へ持って帰りました。

 シルクリボンの重量の5倍の梅の枝を5から10 cm程度に切って水の中に入れ、中火で20分煮て染液せんえきを作りました。水の重量はシルクリボンの重量の30倍にしています。

 シルクリボンを染液そめえきの中に入れて弱火で煮ます。水位が下がってきたら不足分を湯で継ぎ足します。20分煮たら火を止めて、今度はそのまま1時間ほど置いておきます。その間にシルクリボンの重量の0.1倍の明礬ミョウバン媒染液ばいせんえきを作ります。

 染液そめえきから取り出したシルクリボンを媒染液ばいせんえきに入れて弱火で10分ほど媒染ばいせんします。再び染液そめえきにシルクリボンを入れて10分浸ひたしし、最後に水洗いをしたら完成ー!!

 シルクリボンが優しいピンク色に染まって良い出来です。初夏からよく使われる麦わら帽子にも似合う色合いです。少年はよく頑張りました!

 十分な準備が整ったと思った私は満足して家に帰り、寝て待つことにしました。


 数日後、他の年少さんと一緒にお昼寝をしていたら外が騒がしかったのでちょっと心配になりましたが、それは杞憂きゆうだったようです。少年の真摯な思いが伝わったみたいです。おめでとう、少年、いや、お二人さん。

 この事があってから、果樹かじゅの剪定時期には多くの村娘さんから染め物したいなーって視線を強く感じるようになりました。程なくして木綿や麻や毛糸での染色や鉄媒染てつばいせんを作ることになったのは言うまでもありません。特に、柘榴ザクロの枝で染めた鮮やかな黄色いハンカチが夫婦の方々に喜ばれ、特別な結婚記念日に旦那さんが染めた黄色いハンカチを奥さんに贈る事がよく行われるようになりました。何でも黄色いハンカチが幸福な夫婦愛を呼んでくれると言う伝承が夕張地方にあり、それがこの村にも伝わってきているのだそうです。


後日談

 数年後、私を天使様と呼んでいた村娘さんは教師に、少年は医者になったそうです。

 末長くお幸せに。

 Web上にも有益な情報は多くありますが、貴重な機会なのでここでは書籍の情報を利用しています。プロの作家さんなら資料代で処理できるかもしれませんが、私は素人なので図書館で中身を確認してから私費で購入しています。


ミョウバンでの媒染液

梅の枝: 優しいピンク色

 夏季剪定は6月中旬から7月中旬、冬季剪定は11月から12月。

 梅は隔年結果しやすいので摘果を4中旬から5月上旬に行います。

柘榴ザクロの果皮や枝: 鮮やかな黄色

 夏季剪定は6月、冬季剪定は12月から2月


隔年結果かくねんけっか: 1年おきに果実の豊作年と不作の年を繰り返すこと[1]。梅や柿が隔年結果しやすいため摘果や剪定を行います。


媒染液の種類は不明

桜の枝: ピンクぽい赤系統の色(育った土と染める時のpHで色が変化)


覚えておくと良いもの

ヒメジョオン: 黄色

蓮の葉: 黄土色からオレンジ色

蓮の花: やや黄色がかったベージュ色

茜の根: 茜色

紫根: 紫(聖徳太子の冠位十二階で最高位の色)(絶滅危惧種)

藍: 藍(藍は藍より出でて藍より青し)


参考文献

[1] 三輪正幸「果樹の育て方」新星出版社(電子書籍)

[2] 佐藤麻陽「草木染めレッスン帖 新装版」ブティック社(電子書籍)

「赤毛のアン」シリーズは母が所有していたものなので書籍について詳細には覚えていないです。すみません。とは言え、石板アタックは幼い頃の私にはインパクト抜群でした。

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