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天使様のおまじないと鳳仙花

「天使様! どうか私に勇気をください!」

 膝をついて祈るような姿勢で一人の村娘さんがそう言いました。

 私はドクダミの葉でお茶を淹れようと考えていたところだったので、村娘さんの分も用意して、一緒にお茶をしながら詳しく話を聞くことにしました。

「あのー、どうして私を天使様と?」

「天使のように可愛かったので。腰の後ろにある翼もお姿に似合ってます」

 そうだった! 今日、老夫婦に着せて貰った服は腰の後ろ側に翼が付いていて、天使みたいに可愛い服だったので喜んで着ていたのでした。

「私は天使ではないですが、どうされたんですか?」

 話を聞くとその村娘さんは引っ込み思案な性格でそれを少しでも変えたくて私のところに相談に来たみたいなのです。

「誰かに相談しようと勇気を出したことだけでもすごい事ですよ。私は相談に来て貰ってすっごく嬉しいです」

「天使様ーー」と言って突然村娘さんは泣き出してしまいました。

 え、なんで涙? 私そんなに変なこと言ってないよね。

「泣かないで、折角の可愛い顔が台無しになっちゃう」

「いえいえ、私、引っ込み思案だし、可愛くないし、いつも俯いちゃうから男子から暗いって言われちゃうし……」

 私は村娘さんの手を取って言いました。

「大丈夫、自信を持って! そんなことを言った男子は見る目がないのです。あなたは可愛いです。私が勇気を持てるおまじないをしますから、それでさらに綺麗になってその男子を見返してあげましょう」

「は、はい! 天使様」

 私はそう言って村娘さんを勇気づけた後、一緒に鳳仙花ホウセンカの群生地へと向かいました。

「どの色でも違わないので好きな色の鳳仙花の花と葉を摘んでください。折角だから20くらい摘んでいきましょう。この他に大葉に似た葉も10枚くらい摘んでいきましょうか」

「これで何を?」

「それは村に帰った後に詳しく説明します」と私は笑顔で言いました。

 村に戻ると、私はお世話になっている老夫婦にこの後のことをお話しして、村娘さんの家に泊まることにしました。もちろん、明礬ミョウバンも耳かき1杯分だけ貰ってきています。

 寝る前の頃、私は爪以外が染まらないようにするために村娘さんの爪の周りをハンドクリームで塗りました。続いて、私は手のひらで鳳仙花の花と葉を汁が出るまで揉み、明礬ミョウバンをほんの少し加えて、色が暗赤色からから明るい赤色になったら村娘さんの爪にそれを少しずつ載せていきました。そして、それが爪から剥がれないように村娘さんの指を大葉に似た葉で巻いて糸で緩く留めました。そうした一連の作業が終わった後、私たちは眠りにつきました。

 翌朝、村娘さんに指を綺麗に洗って貰い、爪を確認して貰いました。綺麗なオレンジ色に爪が染まっています。

 私は魔法で浮いて眩しくないように朝日を背にし、村娘さんに祈りを捧げるように手を取りました。

「わっ、わわ! 頭に天使の輪っかが見えます! やっぱり天使様だったんですね」

 そう言って村娘さんが憧憬しょうけいの眼差しで私を見て喜びました。

 あっ! そ、そうですよねー。朝日を背にすれば頭上に光の輪があるように見えてもおかしくないですよねー。私は朝日を背にしたことを後悔しましたが、いまは大切な時だと気持ちを切り替え、驚いて離してしまった村娘さんの手を取り直して言いました。

「あなたはさらに綺麗になりましたよ。自信を持ってください。もし気弱になったらその爪を見て思い出してください。私はいつでもあなたを応援しています。あなたの傍に常に勇気と笑顔がありますことを心からお祈りしています」

 私は周囲を輝かせる光魔法を使って村娘さんを祝福したのでした。

「ありがとうございます。天使様」

 村娘さんがそう言うと、私は静かに微笑んで空の彼方かなたへと消えました。そして、そのまま私がお世話になっている老夫婦の家へと飛んで帰りました。

 そんなことがあってから数日後、私を天使様と呼んでいた村娘さんは笑顔が増えてより一層綺麗になったと周囲からの評判は驚くほど高評価でした。男子に見る目がなかっただけではと思いましたが、男性の方から色々と話を聞くと、女性の笑顔の破壊力は凄まじく、美しさを何倍も引き上げてくれるのだそうです。

 私はまた一人笑顔になってくれたと喜んでいたのですが、その後が大変でした。今回の事の顛末を知った村娘さんの家々に私がお泊まりをすることになったのは言うまでもありません。しかも、今回は周囲の村々も含めてでした。


後日談

 この地方では母から子へと鳳仙花ホウセンカを使った爪の染色が行われるようになり、つけ爪がこの地方に入ってきたときにも、鳳仙花のオレンジ色が母にしてもらった懐かしい色だとして大変好まれたそうです。

参考文献

[1]『ツマグロの花が咲くと』、イイミミ、神戸新聞社、2011年9月8日

[2]森源治郎ら「ホウセンカの絵本」農山漁村文化協会

 サポートインフォメーション: https://www.ruralnet.or.jp/syokunou/201103/01_2.html

[3]植物Q&A、日本植物生理学会: https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=4495


とっても大事なこと

 薬機法(旧薬事法)のため許可がないと化粧品は無償でも譲渡できません。責任も含めて自分自身で全てを行う必要があります。


ミョウバンが手に入らない場合

 ミョウバンは古代ローマから使われていますが、ミョウバンが手に入らなかった場合に昔の人々は、シュウ酸を多く含むカタバミの葉を利用していました。この他に、クエン酸を含んだミカンの汁や酢でも良いと参考文献[2]に書かれています。

 余談ですが、ミカンの皮はナスの防虫に利用できると「現代農業」農山漁村文化協会 に記載があります。


鳳仙花の葉

 鳳仙花の葉がない場合は色が長く続きません。葉を入れる事で1年持つと参考文献[1]に書かれています。参考文献[2]は著名な大学の教授経験者が執筆していますが、葉を入れるということに気づくまで大変な苦労をしていました。参考文献[1]では古くから知られており、過去の人々の知恵を知ることの大切さがわかります。


大葉(青じそ)に似た葉

 大葉に似た葉としては、エゴマ、イラクサ、ハキダメギク、オドリコソウ、アジサイ、カラムシなどが挙げられます。アジサイの葉が比較的容易に手に入りやすいと思います。イラクサは棘があるので特に注意してください。ちなみにアジサイの葉は食べられません。農林水産省のHPでも注意が書かれています。ここに記載している葉は食べられないものもあるため誤って食べてしまわないように常に信頼のおける書籍などでチェックするようにしてください。


鳳仙花の距

 距の部分には蜜があります。参考文献[2]になめると甘いと書かれており、摘んだ花の距の部分は除いて舐めてみるのも良いでしょう。細長い管の部分を切り、下の方を指で挟んで押し上げ、切り口からの液を蜜とします。


エディブルフラワー

 おしべとめしべの部分を取り除いた鳳仙花の花は食べる事ができます。鳳仙花以外に食べられる花として、キンギョソウ、ナスタチウム、パンジー、食用のキクなどが挙げられます。参考文献[2]に書かれていますが、その他の文献などでもチェックしてから食べるようにしてください。


鳳仙花の花の砂糖漬け(シュガーコート)や白花の焼酎漬けの作り方や使い方も参考文献[2]に記載があります。興味のある方は児童図書館などで借りて読んでみてください。砂糖漬けは冷蔵庫や密閉容器に入れると1〜2ヶ月保存できます。

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