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転生した元魔王様は心の中で平穏を叫ぶ!

 なんと言えばいいのか、私の人生はちょーっと複雑だったのです。

 前世の私は元魔王だったのですが、過労で死んでしまって、治めていた国が凄く良くなったのにと神様が転生させてくれたのです。その経緯をお話ししたいところなのですが、いまはそんなことを語れる状況ではなかったのです。

 転生してすぐに目に入ったのが魔物の群れ。

 神様はどうしてこんな森の中に私を3歳児の状態で放置したのでしょうか。『もっと良い転生先ってなかったのかしら』って思ってしまうのは仕方のないことですよね。こういう時に素敵な男性に助けられて大恋愛でハッピーエンドというのも想像して見たのですが絶対にそれは無理でした。だって周囲を調べても半径3 km以内にはそんな人いないんだもーん。これってバッドエンド? 転生初期からハードモードなのはメンタル的にキツいです。ここは逃げるしかないんですね。

 え? 前世の魔王様の力で無双できないのかって? うーん、あんまりそういのは転生直後にしたくないなぁ。だって何もわからない状況で力を使い果たして死んでしまったら、きっと神様も悲しむと思います……、うーん、たぶん、きっと、そうですよね。神様ーー、と言うわけで私は絶賛、魔物から逃亡中なのです。

 他の魔物を探知の魔法で避けながら、透明な糸と魔力を使って地面スレスレを浮遊しながら森の中を走っていきます。走ってもよかったんですが、折角の可愛い服や靴が汚れてしまうのが嫌だったし、転んだら一巻の終わりとなってしまうかもしれないので少しだけ魔力を使って浮いてます。一巻も行かずに私の人生が終わらないといいのですが……、そうでなくても私の物語は終わってしまうかも。そんな冗談を思い描きながらなんとか魔物達から逃げて辿り着いた先が村だったのです。

「あのー、すみません。こちらで少しご厄介になってもよろしいでしょうか?」

 私はそう言って村の入り口にいた人に丁寧なカーテシーを見せました。

 村の入り口にいた人は『えっ!』って驚きながら村の奥に逃げてしまったのです。なんだったのでしょう。綺麗な服を着た3歳児が丁寧なカーテシーをしたことに驚いたのでしょうか? それともこの口調が3歳児からかけ離れていたから? ま、まさか私の姿が酷かった?!

 驚いて逃げた村人さんに釣られて私も少し震えながら鏡を魔法で出して姿を見てみました。ホラー系のお話しなら私の後ろに凶悪な魔物が写っていたりするのでしょうが、そんなことはなく(いた)って普通でした。私の姿も前世の幼い時と同じなので、もしお父様やお母様が生きていたら喜んでいたかもしれません。

 うーん、そうなると中々に難しい問題です。私がそうやって悩んでいると村の奥から村長さんっぽい方が私の元まで来てくれました。あ、村長さんなんですね。

 私は村長さんに挨拶すると、村長さんは村の奥へと丁寧に案内してくれました。

 悲しい系のお話しだと村に滞在して数日内にバッドエンドになってしまいますが、私はそんなことにはなりませんでした。凄く皆さん凄く優しくて温かい。

 一緒に暮らすことになった老夫婦は私を孫のように可愛がってくれました。同じ村の年少さんと一緒になってゴロゴロしています。折角なので危なくないバネのおもちゃでも作ろうかな……。

 そうこうして3ヶ月が経った頃、村の皆んなが少し困っているようでした。井戸の滑車が壊れたみたいです。そうならと私は魔法を使って滑車を直すことにしました。折角なので、女性やご老人でもより扱い安いように壊れた部材も再利用して、定滑車だけの井戸から動滑車+定滑車の井戸にしてみました。

 なんという事でしょう! 女性陣やご老人に大層喜ばれました。転生前の魔王の時にはポンプ式のものや上下水道も整備しようとしていましたが、全ての村まで行き渡る前に私が死んでしまいました。そう言った思い出に(ふけ)っていると、何やら不穏な言葉が村の人々から聞こえてきました。

「やっぱり聖女様でないかなぁ」

「えっ!」

 私が驚いたのも束の間、直ぐにいつもお世話になってる村人の一人に抱き抱え上げられて盛大な騒ぎになってしまったのです。私は直ぐにお世話になっている老夫婦に助けてと視線を送りましたが、助けてもらえずこの騒ぎの出来事がこの後ずっと尾を引いて続くことになってしまったのです。

 この騒ぎのあった日の夜、私はお世話になっているご老人の夫婦から、聖女に関する話を聞きました。どうも私が村に来た時の 出立(いでたち)や振る舞いが村に伝わる伝承にそっくりだったようです。振る舞いが3歳児にしては丁寧過ぎですよねーと思いつつ見守ってくれていた様です。はい、大変な誤解を与えて済みません。

 私はそもそもメンタルが弱いので丁寧な振る舞いを無くすのは怖いかったのです。魔王の時は魔王としての振る舞いも要求されたので色々な意味で苦労しました。私よりも高齢の人に丁寧語でない振る舞いをしなければいけないのが辛いです。もう、あの頃には戻りたくないです。一生丁寧語でいいです。そんなことを思いながら私は神様に思ったのです。

『聖女は望んでいませーーん!!』と、小さく心の中で。

 そうしてがっかりしている私を見た老夫婦はいつものように優しく抱きしめて寝かせてくれたのでした。色々と大変なこともありそうですが、今世ではどうやら私は幸せ者になれそうな気がします。

 

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