希望
「そこまでだ!イルファス!」
突然、凛とした声が響く。
暗然と化した天使の国を一瞬にして照らした光。
最初はあまりの眩しさに、目を開けられずにいたが徐々に慣れてくる。
燦然と輝く光の中に威風凛然と立っていたのは、ザキフェル様だった。
「ザキフェル様!」
私の胸に安堵感が広がる。
「遅くなりすまない。思ったより手間取ってしまった。アシエル、ラフィを頼む」
「承知しました」
アシエルがラフィに駆け寄り声を掛ける。
「ラフィ、大丈夫か?」
ラフィはグッタリして答えない。
「マズいな…」
アシエルは、ラフィを仰向けに寝かせた。
雹は尚も降り注いでる。
「ラフィ、何とか持ち堪えてくれ…ブランカ、ラフィを頼む」
ブランカは頷くと、ラフィの手を握る。
「ラフィ…」
彼女の瞳には涙が滲んでいる。
「ブランカ、ラフィは大丈夫だ。あとは、ザキフェル様と私に任せろ。ラフィに、声を掛け続けてやってくれ」
「分かったわ。アシエル、あとはお願い」
ブランカは、涙を拭うとラフィの手を強く握った。
「ラフィ、もう大丈夫よ。もう少し頑張って」
アシエルは空に目を向けると、槍で振り払い始めた。
「アシエル、悪いがしばし持ち堪えてくれ」
ザキフェル様がアシエルに声を掛ける。
「お気になさらず。私は大丈夫です」
ザキフェル様は頷くと、私に歩み寄り手をかざす。
その瞬間、私の体はフッと軽くなり自由を取り戻した。
「サビィ、大丈夫か?」
「ありがとうございます。大丈夫です」
「それは何より。さて、次は…」
ザキフェル様は、イルファスに目を向けると一瞬で移動した。
「イルファス、やめなさい」
「ふざけるな!誰がやめるものか!天使の国など潰してやる!」
イルファスは、両手を空に向け叫んだ。
「ベドラズール!」
空を見上げると、黒い雲は周囲の雲を巻き込み、更に巨大化する勢いだ。
「やめろと言っているではないか!」
ザキフェル様が厳しい口調で言い放つ。
それと同時に、彼の髪がスルスルと伸び、瞬く間にイルファスの体に巻き付いていった。
「クソッ!放せ!」
イルファスは、どうにかして髪を解こうともがいている。
「無駄だ、イルファス。それは解けない。もがけばもがく程、キツく縛り上げる。暫くそのままでいなさい」
「クソッ!!」
イルファスの動きを封じたザキフェル様が、胸の前で両手のひらを広げると、玉虫色に輝く美しい球が現れた。
それを空に向けて投げると、球はどんどん上昇し、渦を巻く巨大な黒雲の間近でピタリと止まった。
(一体、何が起ころうとしてる…?)
それは中央から2つに割れ、パクパクと口を大きく開け閉めするような動きを見せた。
そして、巨大な黒雲を勢いよく吸い込み始めた。
(あんな小さな球が、あの巨大な雲を吸い込もうとしている…)
気付けば、ラフィやブランカ目掛け降っていた雹も止んでいた。
巨大な黒雲を全て吸い込んだ球は、高速でクルクルと回転し、そのまま空高く上がる。
そして、ピタリと止まると眩いばかりの光を放った。
あまりの眩しさに、思わず顔を伏せたほどだ。
私は、その光に全身を包まれる感覚を覚えた。
ゆっくりと顔を上げると、純白の世界が広がっていた。
とにかく、真っ白で何も見えない。
純白の世界に、閉じ込められたような感覚にも陥りそうだ。
(ラフィやブランカ…ザキフェル様達は?)
胸に孤独感が広がり始めた瞬間、突然視界が開け、目の前に見慣れた天使の国が広がっていた。




