恋心
「あら…サビィ。そんな所にしゃがみ込んで…どうなさいましたの?」
掛け時計のクルックが話し掛けてきた。
このクルックは、私の時間を管理している。
通常、掛け時計は大人の時間管理はしない。
子供の時間管理をするものだ。
しかし…このクルックは、時間を正確に守らせる事に生きがいを感じ、手段を選ばず強引に起床させる為、過去に何度も問題を起こしている。
クルックとの付き合いは長い。
ひょんな理由で、ブランカに連れられやって来た。
昔、私は夜遅くまで本を読んだり学んだ事を復習していた為、朝が苦手だった。
なかなか起きない私も悪かったが、時に彼女は体から鞭を出し容赦なく叩いた。
あまりの強引さに、こんこんと言い聞かせた事が何度もある。
しかし…問題もあるが、なかなか面白く優しい所もある。
私が成長した時点で、クルックは子供達の時間管理をする予定だった。
たが、ザキフェル様に申し出て彼女を引き取った。
クルックはそれを知った時、満更でもない様子だった。
まぁ…この癖の強いクルックを扱えるのは私くらいだろう。
「いや…なんでもない」
私は、スクッと立ち上がり平然を装った。
「なんでもない…とても、その様には見えませんわ!何かあったはずです。私の洞察力を甘く見てわいけませんわ」
クルックは、まるで胸を張るかのように体を反らして見せる。
私は、深い溜め息をついて彼女を見た。
「クルック…私に構わないでくれないか。今日は気分が優れない」
「まぁ!サビィ大丈夫ですの?気分が優れないとは一体どのような症状ですの?」
「症状…主に胸の痛みと、動悸のようなものだ」
私は、仕方なくクルックに話した。
彼女は前のめりになり、興味深そうに私を見つめている。
今にも壁から飛んできそうな勢いだ。
こうなった彼女は、納得するまで私を質問攻めにする。
面倒な事になった…私はこれからの展開を考えるとウンザリし、半ば諦めソファに座った。
「胸の痛みと動悸…それはいつからですの?」
クルックは医者にでもなったつもりなのか…彼女はまるで腕を組むかのように、鞭を体の前で組み考えている。
「ついさっきだ。ラフィやブランカと話している時だった」
「ふむふむ…なるほど…どのような話しをされていましたの?」
「子供達の学びの場についてだ。これから私達3人で、子供達の学びの場を作ることになった」
「まぁ!それは素晴らしいですわ!サビィとラフィとブランカで…それは納得ですわ!天使の国でも優秀な3人ですもの!」
クルックはウットリとしながら、あらぬ方向を見ている。
「クルック…一体どこを見ている…」
私の呆れ声は、彼女には全く届いてないようだ。
私は、パチンと指を鳴らしティーセットを用意した。
香り高いマレンジュリテイーがカップに注がれる。
口に含むと、甘く爽やかな香りが広がった。
(やはり、この香りは落ち着く…)
私は、ようやく落ち着きを取り戻していた。
「特にブランカは、私達女性の憧れですわ!優しく聡明で美しい…素晴らしい天使です!」
「グッ…ゴホッ…ゴホッ!」
クルックが突然ブランカの名前を叫び、私は驚きむせてしまった。
「サビィ…どうなさいました?そんなに慌てるなんて珍しいですわね…」
「クルックが突然ブランカの名を叫ぶからだ」
「私がブランカの名前を叫んだから…動揺しましたの?あら…まぁ!分かりましたわ!サビィの胸の痛みや動悸の原因は…ズバリ恋です!」
「は?恋…?」
「そう…恋ですわ!」
「誰が…誰に…恋だと…?」
「サビィがブランカにです!」
「私がブランカに…恋…」
「ええ!そうですわ…サビィがブランカに恋をしたのです。素敵ですわ…」
クルックは再びウットリとしながら、あらぬ方向を見ている。
「ブランカに恋…」
私は、半ば呆然としながら言葉を繰り返した。
私はその夜、なかなか寝付けずにいた。
目を閉じると、ブランカの姿が瞼に映し出されるのだ。
映し出されたブランカは、様々な表情を見せる。
笑顔や真剣な表情…驚いたり、怒ったり…時には拗ねたり…
彼女は感情表現が豊かで、とかく表情がコロコロと変化する。
私は特に、ブランカの花のような笑顔が好きだ。
彼女が笑うと、その場が一気に華やぐのだ。
ブランカの笑顔に見惚れてしまう事が度々あった。
「私は、ブランカに恋してるのか…」
声に出すと心がスーッと軽くなる。
私は観念し、彼女に対する恋心を受け入れる事にした。
そして私は、瞼に映るブランカの姿に心を躍らせていたが、いつの間にか私は眠りに落ちていった。




