不信感
「ラフィ…私だ」
ラフィの部屋をノックすると、すぐにラフィが顔を覗かせた。
「やぁ、サビィ。中へどうぞ」
私は部屋に入ると、百科事典をラフィに渡した。
「ラフィ、巨木のブランコに置いてあったぞ」
「ありがとう。さっき、百科事典がない事に気付いて探してたんだよね。助かったよ」
「ラフィが、そんなミス珍しいな…」
「あ〜約束があったからね。ちょっと急いでてさ…」
ラフィは、ばつが悪そうに言った。
「約束…それはエイミーか?」
私の指摘にラフィは目を見開いたが、すぐにいつもの穏やかな表情に戻っていた。
「どうして、そう思うんだい?」
(エイミーと会っていた事を知られたくないのか…?)
途端に私の心は不信感で満たされていく。
ラフィは相変わらず笑顔だ。
その笑顔の裏で何を考えているのか…
それを暴きたくなる衝動に駆られる。
私は深い溜息をつくと、ラフィを見据えた。
「君の百科事典だが…忘れた事にブランカが気付いた」
その瞬間、ラフィの表情がみるみる変化する。
「ブランカ…が?」
「そうだ。それで、彼女はラフィが困るから…と君を追いかけた」
「そう…なんだ…」
彼の顔から笑顔は消えている。
「それで…ブランカは、神殿の階段を昇っている君の姿を見つけた…」
「え…それじゃあ…」
ラフィの瞳に、困惑と驚きの色が入り混じる。
「そうだ…ブランカは見たんだ…君とエミリーが抱き合うところを…」
悲しみに打ちひしがられたブランカ…
先程の彼女が脳裏に浮かび、私の胸がチクリと痛んだ。
もう、あのような姿は見たくない…
私は今まで経験した事がない感情がふつふつと湧き出でる。
荒々しいものが私の心を掻き乱す。
押さえ込もうと試みるが、どうにも抑えが効かない。
まるで荒波のようだ。
初めての感情をどのように対処すべきなのか…皆目見当が付かず私は呆然とした。
私は俯き、両手をグッと握る。
(駄目だ…自制が効かない…)
「……のか?」
私は気付けば、俯いたまま呟いていた。
「サビィ、ごめん。聞き取れなかった…もう一度、言ってくれるかい?」
私は顔を上げラフィを見据えた。
「君は、ブランカの気持ちを考えた事があるのか?」
ラフィは複雑な表情で私を見ている。
「君とエイミーが抱き合う姿を見て、どれだけブランカが傷付いたか…」
ラフィは苦しそうに眉根を寄せ、私から視線を逸らした。
「君は…ブランカの事が好きなんだろう?その気持ちは、偽りだったのか?」
「偽りなんかじゃない!」
ラフィは顔を上げ強い口調で答える。
いつも穏やかな彼には珍しい。
「僕は…彼女を…ブランカを愛している。エイミーは友人の1人だ」
断言したラフィ真剣な瞳の奥に、ブランカへの確かな愛を私は感じた。
しかし…それならなぜエイミーと抱き合っていたのか…
私は納得がいかなかった。
「それなら!…なぜ、エイミーと抱き合っていた…なぜ、彼女を悲しませる…ブランカは…君の事が…好き…なんだ…」
己の発した言葉に胸が痛み、私は目を伏せた。
「私は…ブランカの幸せを願い、君達を応援しようと思っていた。しかし…彼女を苦しめるのなら…私は黙っていない。君に遠慮はしない…ブランカに気持ちを伝える」
私は再びラフィを見据える。
「サビィ…僕が君にとやかく言う資格はない。好きにすると良いよ…」
ラフィは苦し気に眉根を寄せた。
「分かった…」
私はやるせない思いで踵を返し、ラフィの部屋を飛び出したのだった。




